56話 恋人と依頼
ギリギリのところでなんとか教室に入ることができた。俺は、自分の席で、椅子に腰を下ろして、
一息ついた。隣の席に座る唯依は、「ギリギリだったね!」と肩を上下させて息を切らして言う。
「おはよう。藤也。柚木さんもおはよう!」と下條がにこやかに挨拶してくる。
「おはよう、下條さん」
「じゃあ、わたしは二人のストロベリータイムを邪魔すると悪いからこれで退散するね」
「なにがストロベリータイムだ!まったく変なことを言って...なあ、唯依。」
「ん?唯依どうかしたか?」さっき下條からの言葉を受けて何故だか唯依は上の空でポーっとしている。なんだか、気恥ずかしくなって唯依から視線を外す。
「え?どうした?」俺は一人、狼狽えていると、後ろから「まったく、藤也さんは鈍いですね。」
「あ、立花か、分かるなら教えてくれよ」
「そんなの、わたしから言うのは野暮ってものですね」と立花は肩を竦め、やれやれとジェスチャーする。
なんだっていうんだ?俺は、見当がつかなかった。
「ねえ、藤也くんって柚木さんと付き合っているの?」
「ああ、吉田か。それは...」
この質問をされるのは二度目だ。以前吉田から柚木と付き合っているのかと訊かれたことがあった。だけど、その頃は付き合っていなかったから否定したけど、今ならその答えは違う。
「うん、付き合ってるよ。唯依は俺の恋人だ」と堂々と肯定する。今なら自身を持ってそう言えた。
「やっぱりね、さっき校門前で柚木さんと藤也くんが恋人繋ぎをして登校していたからもしかしてと思って訊いてみたんだけど、ほんとに付き合っているなんてね」
「俺が一方的に好きになったから」
自分で改めて言うと照れた。ヤバイ恥ずかしい!
「いや、わたしだって......」
「お熱いねー、このっこのっ」と吉田は肘で小突いてくる。
「えっと、吉田って恋バナ好きだな」
「そりゃ、JKは皆、恋バナ好きだよ」
「そういうものなのか?」
「そういうものだよ」
「そうなのか?」
いや、柚木には最初はそんあ気持は無かったんだが、彼女の引きこもり更生を促して、プールや夏祭り、水族館などに一緒に出掛けているうちに次第に彼女惹かれていった。始めは最悪な出会いだったのに不思議なものだ。
そして、ホームルームが始まる予鈴が鳴り、担任の咲良先生が入ってきた。
「あ、咲良ちゃん来た。じゃあな」
「じゃあね、藤也くん。里でまたお話聞かせて。柚木さんもまたね!」
荘言い残し吉田は自分の席に戻っていった。
ホームルームが始まり、咲良先生から「二学期は体育祭に文化祭といった校内イベントが多いです。でも、その前にある中間テストが控えているのを忘れないでね。」
「「えーー!!」」と生徒達がザワつく。
「静かにしてー。テストを乗り切れば楽しい学校イベントがあるんだから頑張ってね!」
「学校イベント目白押しだな」
「ああ、楽しくなりそうだ。なあ、柚木!」
隣の柚木に話を振ると顔を青ざめてぶつぶつ言っていた。
「柚木?」
なんだか様子が可笑しくてただならぬ雰囲気が漂う。
「ヤバイよヤバイよ。わたし全然勉強してない...テストの存在をすっかり忘れてた!」
「大丈夫か某お笑い芸人みたいな慌てようだけど」
「どうしよー!」
二学期開始早々にして積んでいた。
「あと、藤也くん。この後わたしのところまで来てください大事な話があります」
「咲良ちゃんからだいじな話!?愛の告白かな?」
「いや、連絡事項だろ。」と後ろの席の爽太が突っ込むのだった。
***
放課後の進路指導室を訪れた俺は二学期早々、塚本先生からの呼び出しに、嫌な予感がしていた。どうかこの予感が的中しませんようにと扉を開ける前に祈ってしまう。
「やあ、よく来たな。まあ、座りなさい」と向かい側のソファに座るように促される。
「じゃあ、失礼して...」
「うむ」
「あの、用件というのは、いったい?」
「ああ、そうだった。前回の依頼で柚木の不登校からの更生はよくやってくれた。約束通り、内申書に、多少の色を付けて評価しておこう」
「ありがとうございます、俺も頑張った甲斐がありました」
「そこで君に新しい依頼がきている聞いてくれるか?」
「えっ?柚木の一件が終わったばかりなのに、またですか?」
「今回の生徒はEクラスの問題児で有城結希という生徒だ。柚木より難易度が高い、これが柚木と動揺の引きこもり体質のサボりの常習犯ときている。依頼内容はこの生徒が現在学校に行くのをなんらかの理由で拒絶している。」
「二週間後には中間テストを控えている。このままではこの生徒はテストを受けづに退学になってしまう。中間テストが始まるまでにこの生徒を学校に登校させて欲しいとの保護者からの依頼だ。受けてくれるか?」
「そんなの塚本先生が彼の自宅に出向いて登校を促せば」いいだけじゃないんですか?」
「それが彼女は頑なに会ってくれないんだ学校には行きたくないとの一点張りで」
「更生相手とコンタクトを取れないんじゃ。俺にだって無理な話なんじゃ...申し訳ないですけどこの依頼は受けることはできません」とこの話を断ろうとする。
「何を言っている、藤也には柚木がついているだろう。元引きこもりの彼女の力を借りれば
彼だって心を開いてくれるはずだ。」
「そうでしょうか?それでも、気が進まないなー」
「それなら、一つやる気を出させてやろう、二学期は体育祭と文化祭があるだろう?」
「彼の更生に成功したら、文化祭で、好きな人と社交ダンスを踊れる権利をくれてやろう」
「え、本当ですか?」
「女に二言は無い。」
それは、どちらかというと男のセリフではないだろうか?それでも、塚本先生の口車に乗られ、「その話、乗った!」と引き受けてしまった。
連載再開しました。
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