腐女子ときどきイケメン
唯依から同棲生活を提案された次の日のこと。
教室の中のホームルーム前の時間隣に座る唯依に「昨日、俺に言ってた同棲の件だけどあれ、いいからさ。今夜にでも準備してそっちに行くから」と了承した旨を伝える。すると唯依は目を輝かせて「え!いいの?一緒に同棲してくれるんだ。ありがとうー!」とテンション上げ上げで言ってくる。
「バカ!声がデカいよ。誰かに聞こえたらどうするんだよ」
「ごめん。そうだよね。少し浮かれてた...だって藤也くんと一緒に暮らせることが嬉しかったから!」
「唯依...」
「藤也くん...」
二人の間に良い雰囲気が漂い始めたその時、その空気を読まない珍入者がいた。
「ねえ、さっきどうせいって聞こえた気がしたんだけど?」
突然、下條が乱入してくる。
ボーイッシュな赤毛のショートボブを揺らして俺たちに近づいてくる。
下條は、顔面が整っていて時として凜とした表情を見せることでクラスの女子から絶大な人気を誇っていた。
「いや、そんなこと言っていないぞ!聞き間違いじゃないか?」
しまった。もしかして今の会話聞かれた?!下條に近づかれて思わず良い匂いがしてドキッとする。
「えーそうかな確かに聞こえたんだけどなー」
しょうがない、こうなったら何とかして誤魔化すしかない!!
「いやー、それが今夜観るアニメに迷っていてさ。どうせなら下條から何かおすすめアニメ教えて貰いたいなーって話してたんだ!なあ、唯依」
「そ、そうなの!是非、下條さんのおすすめアニメを教えて貰いたいなー」
「そ、そうなの?」
「うん!そうそう。何か無いかおすすめ」
「マジ!?わたしのおすすめ聞いてくれる?今期はヤバイよー!」
「え?なになに?教えてー」
唯依が興味津々な様子で訊いてくる。
「やっぱり今期の一押しは『テニスの伯父様でしょ!」
「伯父さんがテニスするのか?」
「そうそう普段は酒飲みで堕落したオジサンなんだけど、テニスコートに立つとその姿は一変、世界的な最強テニスプレイヤーに様変わりして、ダンディなキャラになってその普段とテニスの時とのギャップがエモくて最高なんだよねー」と下條は、熱烈に語るのだった。
「下條さんと仲良かったんだー意外だね」
「いや、そんなことはないぞ。下條とは春から同じクラスになってから、読書していたアイツに話し掛けたら、それがラノベで、それでアニメとか好きなのが分かってさ、そこから、おすすめアニメを布教し合うようになったんだ」
「ふーん、そうだったんだー良かったね」
「ただなー、アイツはオタクはオタクでも腐ってるからな...」
「あー、腐女子ってことね」
「そういうこと。まあ、オタク仲間として相手が好きなことまでは否定しないけどさ」
「けど?」
「俺と爽汰がオタ話で盛り上がっていると熱い視線で見つめてくるんだよなー」
「えっと、それはつまり...」
「いや、考えたくもない!下條の頭の中でどんな世界が広がっているかなんて知りたくもない!」
「まあ、そんなに気にしなければ?」
「ああ、そうするよ」
「あっ、予鈴鳴ったよ」
「じゃあ、また後でな」
***
昼休みのこと。食堂で唯依と昼食を食べようとしていたところ一件のMINEのメッセージが入り、見てみるとそれは下條からのものだった。
「あ、下條からMINEがきた。」
メッセージ内容は、こうだった。
『屋上へ来て、少し話があるから』とだけ簡潔なメッセージを見てなんだか嫌な予感がした
俺に話があるなら、屋上なんて指定しないで食堂で話せばいいことだと思う。
これはもしかして、人に聞かれたくない話なんじゃないか?
「ごめん。唯依、急用が入ったから一人で昼食を食べていてくれないか?用事を済ませてすぐに戻るから」
「うん、わかった。いってらっしゃ~い」
屋上へ行くと、下條がフェンスに寄り添い先に待っていた。
下條は俺に気付くと手を振り笑顔で迎える。
「来たね、藤也。早速だけどいいかな?」
「で、なんの用だ?こんなところに呼び出すってことは人に聞かれたくない話か?」
「んー、まあね。ホームルーム前に話していたことなんだけど...」
「なんだお前のおすすめアニメの話か、それならわざわざ呼び出してまで話さなくてもいいのに」
よかった、たわいない話で。驚かすなよなまったく。
「あ、違うから。そんな話でいちいち人気が無い屋上なんかに呼ばないよ」
「違うのか」
それならなんだ?まさか、愛の告白とか?なんだかドキドキしてきたぞ!
「わたし、あの時しっかり聞いちゃったんだよね。」
「え?それってまさか...」
もしかして、唯依に例の件を了承したことをを聞かれたのか?
「ねえ、柚木さんと同棲するって本当?」と率直に訊いてきた。
「そ、それは......」
まさか本当に聞かれていたなんて!どうする!また誤魔化すべきか?
だけど、下條は真っ直ぐな真剣な眼差しを向けてきて、そんなの見たら俺も真摯に応えるべきだろう。
「まさか、柚木さんと付き合っているの?」
「ああ、付き合っている。ガチで付き合ってる!」
「そ、そうなんだ...聞きたいのはそれだけ。ごめんね時間を取らして」
「いいって」
「いやー、まさかあの柚木さんと付き合ってるなんてね!てゆーか良かったじゃん。もしかしたら藤也はこのまま灰色の青春を送るのかと思ってたからさ!」
「なに!失礼な奴だな」
「ごめんごめん!柚木さんのこと大事にしなよ、手放すんじゃないからね」
「あ、ああ。下條って本当に良い奴だな」
あと、たまにイケメンなことを言うんだよな。
女の子なのに、ボーイッシュな外見も相まってふいにカッコイイと思ってしまう。
これが女子たちの間で王子様と呼ばれる由縁か。
「良い奴かークソー!所詮わたしは良い奴止まりですよー」
「うん?何か言ったか?」
最後の方は声がか細くて何言っているのか聞き取れなかった。
「いや、なんでもないよ」
「そ、そうか?」
それならいいか大したことが無いのなら。
「ごめんねいきなりこんなこと訊いて」
「いや、いいさ。いつかは言わないといけないことだしそれが早まってだけだ」
「はい!話終わり。」
「おう、じゃあな」
「うん、また後でー」
これで、下條との話し合いは終わって俺は、唯依の待つ食堂へ戻ることにした。
気のせいかもしれないけど、最後の方は彼女が無理して明るく振る舞っているような気がした。
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