大切な忘れもの
唯依と喧嘩してしまってから日が経っても唯依は、連載を急ぐ訳を教えてくれなかった。
その数日後のこと、いつも通りに唯依のお家に行くと、唯依の姿は無く、ダイニングテーブルに一枚の置き手紙が置かれているだけだった。
「こ、これは...」
その手紙には、こう書かれていた。
『突然居なくなってごめんなさい。最後にお別れの挨拶を出来なかったことを許してね。わたしにはタイムリミットがきちゃったみたい。藤也くんは、わたしの分まで夢を叶えてね。さようなら』
瞬間、俺は、その場から走り出していた。
でも、どこに行けばいいんだ?勢いで飛び出してきたけど唯依が何処へ行ったのか分からなく、街中をさ迷い歩く。すると、目の前に見慣れた人影が歩いているのに気付く。
秋雫先輩、それに恵.。こんなところでなにを......
「あら、藤也くんじゃない、どうしたのてっきり空港に行ってるかと思ったてたわよ」
「空港?なんでですか?それより、唯依が居なくなってしまったんです!置き手紙だけを残して。どこへ行ったか知りませんか?!」
一刻も早く、唯依を見つけないといけないんだ。
「藤也先輩、柚木さんなら空港ですよ、今日、イタリアに向けて飛行機で発つので」
「ゆ、唯依がイタリアに帰国する!?」
唯依がイタリアに帰ってしまう!?だから、あんなに連載を急いでいたのか。
帰国のタイムリミットが迫っていたから、あんなに焦っていたのか。
「さあ、藤也くんこんなところで油を売っていないで、柚木さんの元へ行ってあげて!」
「こんなところでちんたらしていないでください!急いで、藤也先輩!」
「ああ、わかった!」
俺だってこんな喧嘩別れみたいのなんて嫌だ!一刻も早く唯依の元へと急がないとだ。
続けて恵も俺の背中を押してくれる。こうして俺は、柚木に別れの挨拶を言いに空港へ走るのだった。
***
唯依の帰国へのタイムリミットが迫る中で藤也は、途中でタクシーを拾い、空港へと急ぐ。
空港へもうすぐで到着するところで渋滞にと引っかかった。中々進まないタクシーから降りて走って空港へとひた走る。
俺は、ノドを枯らせて「待ってくれー唯依ー!と力の限り叫ぶ。だけど、間に合わず、飛行機は、飛び立ってしまう。
空港に到着して、ターミナルに急ぐと、唯依はそこに立っていた。唯依は走ってきた藤也に気付くと、駆け寄ってくる。
唯依はピンクを基調としたフリルやリボン。レースの付いた可愛い系のお姫様みたいな恰好をしていた。
きっと10代女子の間で人気のブランドなんだろう。唯依にすごく似合っていた。
「なんで、飛行機に乗らなかったんだ?」俺は息を切らしながら言う。
イタリア行きを唯依自体が拒んでいたということか?俺は唯依に、そう尋ねる。
「それはね、忘れものをしたから」
「何か家に忘れたのか?」
そうか唯依は単なる忘れもで残っただけ、俺を待っていたからなんてことはないんだよな。
「忘れもの?それはなんなんだ?」
俺は優しく尋ねる。
「そう、それは大切な忘れものなんだ」
「それはね...」
唯依が発する言葉にの間に一時の間が開く。
「それはね、藤也くんにお別れの言葉を言い忘れたこと、だよ」
と唯依は言うのだった。
「俺に、何か言いたいことがあるのか?」
お別れの言葉を残すために残ってくれたなんて...
「唯依、もう行きますよ」
「嫌だ!行きたくないない!藤也くんと別れたくない!」
「そうだぞ唯依!絶対に夢を叶えるんだろ。ーそれに俺はお前のことを...」
「えっ?なに?」唯依がキョトンとした表情で訊き返す。
「だ、だから、その...す、好きだ!だから、どうか舞依さん、唯依行かないでくれ!」
もう、唯依が居ない日常なんて耐えられない!ずっと一緒に居たい。
「藤也くんわたしもずっと一緒に居たい!」
「唯依ー!」俺は唯依をヒシっと抱きしめる。
もう、絶対に離さない...離すもんか!
「取り込み中申し訳ないですけど、唯依あなたの初掲載マンガをよみました。あんな作品でマンガ家を目指していたのですね。マンガのことは、正直よく分からないですけどあの作品ではマンガ家に成れないのだけは分かります。それでもあなたはマンガ家を目指すのですか?」
舞依さんが言っていることはきっと、別ママの発掲載作のことだろう。確かにあれでは、
素人目から見ても酷いものだったよな。
「そ、そんな...」
「唯依...」
唯依もショックを受けていた。それはそうだろう。実の母親にマンガ家なんて無理と言われればそれはショックだろう。ここで諦めてしまうのか。それとも悔しさをバネにマンガ家を
目指すのか。
「マンガ家になることは認めません。マンガ家になるくらいならイタリアに戻って画家をしまさい!」
「ママ...わたしは、どうしてもマンガ家に成りたいの。今は実力不足だけど、いつかきっと...イタリアなんて行きたくない!大好きなことをやるなと言われたかと言ってやめることなんて出来ないよ。だってマンガを描くのが大好きだから!だからマンガ家になることを認めて」
「認めません...と言ってもどうせ、やるのでしょう?イタリアに嫌々戻って画家をやってもしょうがないですし、仕方ないですね」
「え?それじゃあ!」
「ただし、条件があります。マンガ家になるにせよ、やるなら一流になりなさい。柚木家の人間に中途半端なことは許しません」
と舞依さんは、唯依がマンガ家を目指すことを認めてくれるのだった。
***
舞依さんは、次の便でイタリアに帰っていった。俺は、舞依さんから唯依のことをよろしく頼まれた
唯依と一緒にマンションに戻り、ソファに座りホッと一息付く。
「なんだか、すごく疲れたな。もう、唯依と会えないんじゃないかと思って焦ったな」
だからこれからは、唯依の隣にはずっと俺が居よう。唯依のマンガ家になる力になっていきたいと
そう思うんだ。
「そう、だね...わあたしも、もう藤也くんと会えないんじゃないかと思って怖かったよ」
「それよりさ、さっきのこと ...なんだけど空港で言ったことホントなの?」
「空港で言ったこと??」
はて?なにか言ったかな?あの時は頭に血が上っていてもう自分で何を言ったか覚えていない。
「ほら!わ、わたしのことを...す、好きだって.......」と唯依は頬を朱色に染めて言う。
「あっ!!そ、それは...」
ヤバい!そうだった。唯依に告白まがいなことを言ったんだった!
どうしよう、勢いで言ってしまったけど、早く訂正しないと!
「そ、そのことだけど...さっきのことは。ー」
「いいよ。わ、わたしは藤也くんのことを嫌いじゃないし、むしろ...」
「むしろ?」
なにを言おうとしたんだろう?
「もう!言わせないでよ!だから、わたしも藤也くんのことを好きってこと!」
唯依は耳まで真っ赤にして言う。相当、恥ずかしかったんだな。俺もすごく恥ずかしかったから、わかる。
「じゃあ、これからよろしくな、唯依!」
「うん、よろしく...ってこれってこれから私たち付き合うってことでいいの?」
「ああ、そうか!そういうよろしくかー。ああ、そうだぞ!」
「へへっやったー」と嬉しそう」に微笑む唯依。
「えっ?今、何か言ったか?」
「な、なんでもない!あまり近寄らないで!変態!」
「えー。その言いようは酷くない?あと俺は変態じゃない。彼氏だ!」
こうして、俺と唯依は恋人となったのだった。
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