水族館
「唯依、お前の幻聴を治すリハビリに俺が、色々なところに連れて行ってやるよ」
いつも通り、唯依宅で夕食を食べている時に、俺は、唯依にこう提案する。
「ほんとぅ?いいの?迷惑じゃないかな」
「いいぞ。俺が唯依の為にしてあげたいと思っているんだ。何も迷惑なんかじゃないさ」
「それじゃあ、お願いするよ」
「唯依、の幻聴を克服する手段として俺と恵と秋雫先輩とで、夏休みを利用してリハビリも兼ねて色々なところに出かけないか?」
唯依も部屋に篭もってマンガを描くよりも、
色々な所へ出掛けた方がリフレッシュになるだろうと思い、提案した。
「いいよ、藤也くん。わたしを色々なところに連れて行って」
「唯依、どこへ行きたい?どこへでも連れて行ってやるよ」
唯依が行きたいところならどこへでも連れていきたい。唯依の病気を治す為だ、極力なんでもしてあげたい。
「そうだなー。夏と言ったら海だし、ハワイに行きたい!」
「まさかの、海外?!そこは、沖縄とかじゃないんだ」
唯依をどこへでも連れていくと言った手前だけど、流石に海外は無理がある。いや、沖縄でも厳しいんだが...
「唯依、悪いんだけど、それはちょっと...高校生のお金で行ける範囲内にしてくれると助かる」
「無理なの?どにでも連れていくって言ったのに...嘘つき!」
「いや、常識の範囲内で言ってくれよ!俺たち高校生だぞ!」
学生の分際でハワイなんてなんてブルジョアなんだ。そう言えば唯依は海外育ちの帰国子女で
お嬢様なんだっけ?そこは、一般人としての観点を持ってもらいたいものだ。
「そうだなー。それなら水族館に行きたい」
「水族館かーマリンピュア日本海なんてどうだ?まずは新潟のの水族館といったらここは外せないだろう」
「いいね、マリンピュア!行こう」
ということでマリンピュア日本海に行くことになった。
このお出かけが終わって唯依も一人で学校に行けるようになれば彼女の引き籠もりの更生を頼まれていた俺の役目も終わるんだと思うとなんだか寂しい気持ちになる。
それでも、唯依がひとり立ち出来る方がいいはず、そう自分に思い聞かすことにした。
***
水族館当日、柚木宅に、恵と秋雫先輩が集まってくる。
「ヤッホー唯依ちゃん、遊びに来たよーw」
恵がテンションアゲアゲで言ってくる。いつも元気だよなこの子。その半分でもいいから唯依にも分けてほしい。
「冬乃さん、あなた朝からテンション高いわね」
恵と秋雫先輩が訪ねてくる。俺は、唯依宅の玄関を開けて出迎える。
「いらっしゃい!恵、秋雫先輩。おはようございます」
秋雫先輩は、麦藁帽に白いノンスリーブワンピース姿で大人っぽくもセクシーで清楚な佇まいでそこにいた。思わずドキッとしてしまう。
恵はというと、黄色い半袖パーカーに黒のショートパンツでラフな格好だった。
「ちょっと、ここ藤也くんの家だったかしら?」
「いえ、唯依の家ですけど。朝早くから朝食の準備をしていたので、そもまま居座ってました」
「なに、この人、執事?」
「いえ、執事ではないですよ。主夫ですけど」
「あなた達、高校生で同棲するなんて早すぎない?後、本来ならラブコメ的に立場が逆なのよ」
「ど、同棲だなんて!あと俺は、唯依の食事の面倒を見に来ているだけで同棲はしていないですよ」
そりゃあ、唯依と同棲できたらなとは思わなくはないけど。思わず「同棲」というワードが出てきてドキッとする。
「半同棲ってことね。通い妻ならぬ通い夫ね、だから立場が逆なのよ!」
「さあ、上ってください。お茶でも出しますよ」
「あら、ありがとう。よくできた主夫だこと」
「それはどうも、ありがとうございます。」
「あ、恵もゆっくりしていってな」
「わたしは、ついでかよっ!」
恵からの突っ込みを受けて、俺は笑ってしまう。
秋雫先輩と恵は家に上げ、ダイニングテーブルに座らせる。
「秋雫先輩、あと、恵。飲みものは何がいい?」
「だったら、アイスティーがいいわ」
「わかりました。恵もアイスティーでいいかな?」
「いいですよ、お願いします」
「あれところで柚木さんは?」
秋雫先輩がふいにこの場にいないメインヒロインのことを尋ねる。
「ああ、唯依なら部屋で準備しているぞ。今呼んできますよ」
「ほら、唯依、支度は終わったかー?秋雫先輩たち来たぞー!」
返事がなく、「開けるぞー」と言い扉を開けるとー
「って、ゲームしてるじゃないかー!」
「ごめん、藤也くん。着替える前に、少しだけプレイしようと思ったら、なかなかやめ時が来なくてさー」
「まったく、急いで準備しろよなーダイニングで待っているからな」
「はーい、ちょっと待っててー」
そして待つこと十分。唯依がダイニングに出てきた。その装いとは......
***
俺たちは、太陽が燦々と照り、灼熱の陽光が指す中か水族館に来ていた。
水族館、マリンピュア日本海は日本海に面していて、周りを水田に囲まれていて、新潟ならではの立地条件となっていた。
五月には、田植え体験。秋には稲刈りの新潟ならではの体験サービスをしていることから
県外からの集客を集める人気水族館だった。
ペンギンの餌やりを見て唯依が「ペンギンのひょこひょこ歩きかわいいー」とはしゃいだり、りイルカショーでは、飼育員のお姉さんの解説と音楽に合わせて、イルカがアクロバティックな大ジャンプに驚いたり、と水族館を満喫していた。イルカがジャンプする旅に周りから歓声が湧き、イルカショーを見に来ているちびっ子達はもうおおはしゃぎだった。
「唯依、その...大丈夫なのか幻聴の方は」
「ここ、人が多いしさ」
大勢の人混みに入ると幻聴が聞こえるという唯依を心配して聞いてみた。
唯依の今日のコーデは、淡いピンクのプリーツスカートにトップスはメンズの白Tで足元は涼し気な色のスニーカーで落ち着きのあるコーデだった。
「いや、イルカは可愛いけど、歓声に混じってちょっと少し気になるね..でも、今楽しいから、そこまで気にならないかな」
「そうか、無理してないか?どうしたら消えるんだろうな」
頭を悩ます俺。何か手があればな。
昼食の後のデザートにマリンピアの斜め向かいにあるジェラート店ジェラテリアAPOLLO
に寄って皆でジェラートを楽しんだ。
コーンにジェラートが乗っかっていてスプーンで掬って食べたり、かぶりついて食べたりと各々美味しそうに食べていた。
「美味しいねー」
「そうだな、こんなに美味しいジェラートを食べたのは初めてだ」
ミルクにこだわった、美味しさで、北海道の大草原で育った元気な乳牛から絞りとられた生乳本来のコク風味がそのままジェラートになっていて美味しい。
楽しい。楽しいけど、唯依が幻聴を克服して普通に学校に通えるようになったら元々、引き籠もりの彼女の更生を頼まれていた俺は、用済みになって唯依との接点も無くなってしまうんだろうな。
そんな風に寂しく思ってしまう。唯依がひとり立ち出来ることは嬉しいはずなのに、自分の手から離れていくことでこんな淋しい気持になるなんて思わなかった。
唯依とずっと一緒に居たい。そんな感情が芽生えたことに自分でも驚いた。いったいこの気持ちはなんなんだろう?唯依のことを考えると動悸が激しくなる。俺は、唯依のことを......
***
マンションに戻ってきて、唯とダイニングテーブルに座り一息付く。
「唯依、コーヒーでも飲むか?」と俺はキッチンに立ち、冷蔵庫からアイスコーヒーコーヒーを取り出して二つのグラスに注ぐ。
「今日はどうだった?幻聴の方は?」グラスに注いだアイスコーヒーとポーションミルクを、差し出して訊く。
「うん、藤也くんと一緒だったから平気だったよ」
「そうか、それは良かった」
もしかしたら唯依の幻聴も不安な気持ちが和らいだのかな。
「もしかして、俺が一緒なら唯依は、大丈夫なんじゃないか。幻聴の要因となる不安な気持ちをを
取り除けばいいんじゃないかと思う。「唯依、あれだ。要は、幻聴なんて不安な感情が引き起こしていた思い込みだったんだ」
「だから学校の人間関係さえ良くなれば問題は解決するはずだ」
「そ、そうだったんだー。でも、いじめっ子たちとどう仲良くすればいいのか...」
「それは、これから考えていこう。アイスコーヒーで良かったか?」
「うん、いいよ。ちょうど飲みたかったとこ」
「そう言えば、マンガが、完成したんだけどさ、これを出版社に持ち込みに行きたいんだ。
藤也くんも一緒に付いてきてくれない?」
「出版社だって?!コミケのじゃないのか?」
「うん、できるだけ早くにデビューしたいから同人誌から始めるより持ち込みの方がいいと思うの」
「いや、それは違うな。持ち込みに行く前に同人誌で着実に実力を付けるべきだろ!俺たちまだ高校生だぞ。連載なんて高校を卒業してからだっていいだろ?」
今の唯依じゃ週刊連載なんて勝ち抜けない。次の冬コミで自分の実力を確かめるべきだ。
そこで、良いものに仕上げてからでも遅くないはずだ。なんで、そこまで急ぐんだ?
「わたしには、もう時間が無いのー!高校を卒業してからじゃ遅いのー!
「なんなんだよ、時間が無いって?」
「そ、それは...」
こうしてお互い、気まずいまま唯依は、藤也に肝心なこ言葉を伝えること出来ないまま日が過ぎてある日、唯依の家を訪れたら置手紙だけ残して彼女は姿を消していのだった。
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