夏祭り
八月に入り、マンガ制作に根を詰めすぎている唯依に藤也は、「大丈夫か?息抜きに皆で夏祭りにでも行かないか?」と提案する。
秋雫先輩や、恵を誘ってみるか。と思い、訊いてみたものの、唯依は、人が大勢居るところ、嫌い!」と言って夏祭りを拒否する。
「そ、そうか...でもお祭りは楽しいぞ。出店も、一杯出るし、そうだ!唯依焼きそば好きだったよな買ってやるぞ」
「藤也くん。食べ物で吊る気?焼きそばだけでわたしが行くとでも?」
「よし、リンゴ飴とチョコバナナも付けよう!」
「よろしい」
「あと、お祭りの会場では、わたしの手を握っていて。人混みって色んな人の声が聞こえてきて怖いの...」
「俺が一緒ならどうだ?」
「ありがと。藤也くんが一緒なら大丈夫かも…」
「安心しろ。俺だけじゃなく、秋雫先輩や恵も一緒なんだ。怖いものなんて無いだろ」
「そうだね!」と唯依は花が咲いたように瑠璃色の瞳を輝かせて言う。
こうして、唯依も加えて、四人で夏祭りに行くことになった。
翌日、夏祭り当日。
夕方に祭り会場の人混みを前にして、唯依は、
「人がゴミのようにいて、無理……」
などと、ムス〇みたいなことを言っているし...この分だと東京ビックサイトの夏コミなんて行ったら失神レベルなんじゃ...
「唯依存、大丈夫か?まだ人混みが苦手なんだな」
そう言えば、不登校から更生して初めて教室に入る時も、スゴく人の中に入ることをためらっていたっけ。
唯依が人混みを苦手とする何かトラウマ的なものが存在するんじゃないか。
だとすれば、それはいったいなんだというんだ。こればかりは自分で考えても仕方が無い。
後でタイミングを見計らって本人に訊いてみるか。
そんなことを考えていると、唯依は、出店の方へと一足先に行っていて、俺に、「こっちこっちー」と手招きしてくる。
「色んな出店が出てるねー」
「なにか、食べたいものはあるか?買ってやるよ」
「そうだなー。焼きそばと、イカ焼きと、たこ焼きと、リンゴ飴とチョコバナナが食べたい!」
「よし、わかった。焼きそばだな」
「ちょっとそれだけ!?他のは?」
「馬鹿野郎。俺の財布が破産するわ!」
ホント食い意地が張る女ってのは...まさかここまで大食い女だとは思わなかったぞ。
「ほら、焼きそばだぞ。向こうのシートで食べよう」
「えっ?シートなんて用意してたっけ?」
唯依は不思議そうに辺りを見回す。
「ふふ、準備は任せておけよ」
「ふーん。いつの間に-」
「おーい。ここだよー」聞き覚えのある呼び声の方を見れば、恵と涼風が、レジャーシートを広げて準備していてくれた。
「サンキュー恵、涼風!あれ?秋雫先輩は?」
「ああ、あの先輩なら、『夏祭りなんて行ったら、周りがうるさくて読書に集中できないじゃない!』って言ってドタキャンしていったんですけど。なんなんですか、あの人!!」
恵は、秋雫先輩のもの真似をしたかと思うと愚痴り出す。
「あんな人放っておいて花火をみましょー!」
そして、花火大会の時間となり、打ち上る夜空に咲く大輪の花を見上げて
「綺麗だね...」と唯依がしみじみと呟く。「ああ、綺麗だな」としみじみ零す。
「藤也くん、わたしを部屋から連れ出してくれてありがとう。」
「なんだ?いきなり」
「いや、引き籠もりのままだったらこの光景は見れてなかったなってさ」
「わたし、部屋から出られて良かったよ!」そう言うのだった。
四人して打ち上がる花火を見つめてき付けば俺と唯依。恵と涼風は良い雰囲気になる。
「涼風先輩、花火綺麗ですね」
「うーん。まぁまぁだね」
「え?!」キレイじゃないですか?花火!」
「うーん。花火の前にとびきり綺麗な女の子を見ているせいかな、そんなに綺麗と思わないや」
「えっ?それって誰のことを...」
「「んっ...それは、その恵ちゃんの浴衣姿があまりにも可愛かったから...」
と涼風は彼女のヒマワリ柄の明るい色合いの浴衣を見て言う。
恵は、口を両手で覆い、恥ずかしそうに顔を赤らめるのだった。
「もうすぐ、花火が終わるな」
「う、うん。そうだね」
「ずっと見ていたいな」
この花火が終わってしまったらこのいいムードも終わってしまう。
唯依の手を握りたい。花火を見ながら無言で指を絡ませたりとか。でも、恋人でもない俺がそんなことをしたら、また、変態だとに思われてしまう。
そんな下心を振り払うように俺は唯依に「今日は、リフレッシュできたか?」と訊ねる。
「唯依は、「うん!」と俺の下心なんて知らずに、フレッシュな屈託のない笑顔で応える。
俺は、唯依の頭をポンポンしたい欲望を堪えて上げかけた手を、ゆっくりと下げる。
だけど、その手を身体を抱きしめてしまいたい気持ちに押し潰されそうになる。
どうやら、俺の心は、変態だったみたいだ。
だけど、その気持ちを振り払うように、こう言う。
「そうか、良かった!マンガ、頑張れそうか?」と俺は平常心を装い唯依に尋ねる。
「「うん!わたし、頑張るよ!絶対にマンガ家になるよ。目指すは高卒までにマンガ家になる!」と唯依は新規一転、意気込みを語る。
「ん?藤也くん、大丈夫?なんだか様子が可笑しいけど...」
「えっ?いや、大丈夫だぞ。」
まさか、下心がバレた?!
「嘘。大丈夫じゃない顔してるよ」
唯依はジーとジト目で怪しんでくる。
「い、いや!俺は大丈夫だから!」
「そう?そんな風には見えないけど、大丈夫ならいっか」
「そうそう、気にしない気にしない」
やべー。唯依にバレるところだったー。こんなこと彼女には言えないな。
きっと、前みたいに拒絶されてしまうだけだ。この気持ちは自分の心の内に秘めておくしかないな。
そう、思うのだった。
花火を見終わり、恵と、涼風と分かれた俺は、唯依とマンションへと戻る。
「今日は、楽しかったな。疲れたか?」
人混みが苦手だと言う唯依が長時間、花火会場に居たんだ、それは疲れていることだろう。そう思い労いの意味を込めて訊いてみる。
「うん、楽しかったよ!」
唯依はそう言うが疲れは見えていた。
「その、どうしてそんなに人混みが苦手なんだ?良かったら理由を聞かせてくれないか」
唯依は、少し困ったように眉を寄せて少し、思案した後にこう話してくれた。
「実はね、一年の頃のクラスで、クラスメイトの人たちから陰口を言われていてね...」
「そうだったのか。でも」、なんでそんなこと?」
「わたしが、海外で活動していた画家だったことが知られて、周りのクラスメイト達が嫉妬してね」
「そうだったのか、でもそれって唯依が悪いわけじゃないじゃん!逆恨みなんじゃ...」
「そのことが、人混みに入るとフラッシュバックしてしまってね、幻聴が聞こえてくるの」
「唯依の悪口のか?」
「そうだね、本当は言われてないんだけど陰口が聞こえてくるようになったの」
「それは辛いな。」
「それで、それからと言うもの学校にも行けなくなって、そのまま不登校になったんだ」
「それが、唯依の不登校の理由か」
「藤也くん、二学期から学校、どうしよう......」
正直、唯依の力になってあげたいと思った。これから二学期に入れば文化祭と集団が集まる学校行事もある中、早く、唯依の病気を治さないと。
どうにかして、唯依のコンプレックスを克服しないといけないな。と思うのだった。
読みにきてくれてありがとうございました。
まだ、話は続くのでこれからもよろしくお願いします。




