A子さん
これは私が本当に体験した話です
私は当時県外の大学に通っていました。かなりの田舎でキャンパスの後ろは大きな山があり、最寄りの駅からはバスが出ていました。
高校時代の友人は県内の大学だったため一緒に通うことはできず、周りに友人たちがいない大学生活に私は大きな不安を抱えていました。そんな1人ぼっちだった私に声を掛けてくれたのがA子さんでした。(本名はここでは控えることにしました)
学科も同じで、講義の数、教室まで同じだったA子さんと私が仲良くなるのに時間は掛かりませんでした。
私とA子さんはお互いの距離を縮めるため沢山のことを質問し合い、そして私はA子さんが1人暮らしをしていることを知りました。片道1時間ほど掛けて大学に通う私にとって、1人暮らしは1つの憧れでした。どうしても憧れている暮らしがどのようなものなのか気になった私は、A子さんに近いうちにいっていいかと聞きました。
するとA子さんは少し驚いた後に「もちろんいいよ、けれど順番があるんだー、もう少し待ってもらえるかな」とすごくうれしそうに答えたので、私は「ありがとう、待ってるね」と返しました。私は順番という単語に少しの違和感を感じましたが、先約がいるのだろうな程度しか考えていませんでした。
今冷静になって当時のA子さんを思い出してみると、少なくとも大学内では私以外と一緒にいる姿を見たことがありませんでした。先約は誰だったのだろうか。
そして2週間ほど経った金曜日のことでした。
いつものように私たちは食堂で昼食をとっていると、今思い出したかのようにA子さんは「もう遊びに来てもいいよ」と笑顔で私に言いました。さらに今晩泊まっていきなよとも。
私は泊まるつもりで遊びに行きたいと言った訳ではなかったし、急に言われても泊まる準備をなに1つしていなかったので、断ろうとしたのですが「どうしても来て欲しい、私の服なら貸すし、タオルなんかも自由に使っていいから」としつこく言ってくるので、私はもう半分面倒くさくなり「ならお言葉に甘えちゃおうかな」とびきりの作り笑顔で私は答えた。
その日の全ての講義が終了した、時刻は16時半になろうとしていた。
私はA子さんの部屋に泊まることを親に伝え忘れていることに気が付いたが、もうすでにA子の部屋の前まで来ていた。早く連絡しないと私の分のご飯を作ってしまう、そう思い私は慌ててポッケからケータイを取り出し連絡しようとした。A子さんも私の様子に気がついたのだろう。「いいじゃん、後で-、とりあえずあがりなよ」とヘラヘラしながら部屋の鍵を開け、せまい玄関に私を通す。私も連絡は部屋にお邪魔してからにするかと考えながら「えー、でもなあ、流石に連絡は、、、」そこまで言って私は口を閉じた。玄関ごしに見える奥の部屋があまりにも綺麗すぎる。「どうかした?」心配そうに私に話しかけてくるA子さん。「いや、、、なんでもない」靴を脱いだ私は奥の部屋に案内される。
おかしい、やっぱりだ、あまりにも部屋に物が無い。部屋の大きさは5畳半ほどあり、台所も別にあるようで、流石ド田舎、十分広いなと私は感じた。物がない分余計にそう思ったのかも知れない。その部屋にはベットもテレビもなく、折りたたみの机が1つあるだけだった。あまりに気味の悪い光景だった。
親に連絡することも忘れ、立ち尽くしていると急に後ろから肩を叩かれた「大丈夫?さっきから変だよ」私は1人暮らしをしたこともないし、親も知り合いもその手の経験がなかった。こんな感じなのだろうか、A子さんの方に振り向き「ごめん、ごめん。大丈夫大丈夫」と答える。A子さんはそうかと答え台所に向かって行った。どうやらなにか作ってくれるようだ。
私は女性だが、この当時料理はダメダメだったので、近くでA子さんが何を作るのかだけ見ていた。そもそも女性だからと言って19歳の勉強ばかりしていた大学生がまともに料理できるわけが無い。そう思っていたのだが、A子さんは見事なものだった、まるで母を見ているような安心感があった。しかし、やはりだ。台所にも物が全く無い。
これも後から分かったことなのだが、あの日私が見た台所にあった冷蔵庫などの家電製品は備え付けのものであった。
そして私はさらに驚くことを発見した。A子さんは食材をハサミで切っていたのだ。おかしい、流石の私でもこれはおかしいと感じA子さんに聞いた。
「ねえ、A子さん。包丁はないの?」するとA子はこう答える。
「あー、いま別のことに使ってそのままなんだ-、普段使わないからうっかりしてたー」
まただ、これが普通でしょうと言わんばかりの返事だった。包丁なんて料理以外に使うことがあるのだろうか。無知は罪だなと感じたことを私は覚えている。
完成した料理はハンバーグだった。よくタマネギやにんじんをハサミで細かくしたなと関心しながら盛り付けられているそれに目をやる。いろんな事が起こりすぎて全く食欲がわいていなかった。しかし食べない訳にもいかないと思い1口食べた。味は普通だった。
A子さんと一緒に洗い物をしているとケータイが勢いよくなり出した。完全に忘れていた、それは案の定親からだった。今どこにいるから始まり、何時だと思っているんだと当たり前のことを怒られた。時計もこの部屋には無いようで、自分のケータイで時刻を確認する。まだ21時を過ぎた頃だった。19歳なのだからこんなに心配することは無いだろうと感じながらも、自分の行動を振り返る。完全に私が悪かった。
あまりにも親が怒っているもんだからこれを理由にしてこの部屋で泊まることだけは避けたかった。服どころか、自由に使っていいと言っていたタオルは一体どこにあるというのだろう。それにこの様子だと私まで冷たいフローリングの床で寝ることになりそうだった。
A子さんは私とお酒も飲みたかったようだが未成年だからと断ることができた。帰るな、泊まれ泊まれと言ってしがみついてくるA子さんを振り払い、私はやっとの思いで玄関から外に出た。正直怖かったので無事に帰れそうなことに安心していた。外はすっかり暗く、周りが山ばかりであることを街頭の少なさで今頃気が付いた。部屋に泊めることを諦めたのだろうか、A子さんは暗いから一緒に駅まで行くと言ってくれたが、丁寧に私は断った。
私を遠くから見つめるA子さんの顔は暗くてハッキリとは分からなかったが、たぶん獲物を逃し悔しがっている、そんな顔をしていたんじゃないのかなと、今だからこそ思う。
私が家に着いたのは22時半頃だった、親に30分以上も怒られたのはいつぶりだろうか。お風呂に入り寝る頃には日付が変わっていた。A子さんに連絡を取る気にはなれなかったのでそのまま寝てしまった。
土曜日の朝、いや正確には11時ほとんど昼みたいなものだ。あまりのおなかの痛さで目を覚ました。寝過ぎたからか気分が悪い、風邪でもこじらせてしまったのだろうか。親がおはようと声を掛けてくれた、昨日のことではもう怒ってはいなさそうだった。トイレに駆け込み、気分が少し良くなった。そして私はテーブルにある菓子パンの袋を開けてテレビの電源をつけた。たまたま流れていたニュースでは遺体が発見されたと報道されていた。遺体に鋭利な刃物による外傷があることから殺人事件として現在詳しく調べているといった内容のものが報道されていた。沢山の人だかりと、ブルーシートのせいでわかりにくかったがその場所は間違いなくA子の部屋の場所だった。
そんな馬鹿なことあるかと震える手でA子さんに電話を掛ける。何度掛けても電源が付いていない、つながらないという内容の電子音声が繰り返されるのみだった。あの後にA子さんは何者かによって殺されたのだ。
数日後に警察が私を訪ねてきた。私はあの殺人事件を申し訳なさから詳しく確認することはできずにいた。大学もしばらくは行く気になりそうもなかった。しかし警察が私に聞いてきたことは信じがたいことだった。
「あなたはこの殺害された男性について知っていることはありますか?」
「、、、だれでしょうか?」
私が警察から見せられた写真の人物は全く知らない男であった。しかも死後2週間は経っていると言われた。
A子さんあなたは一体何者なのですか。
(了)
すべてフィクションとなります。
申し訳ない、本当にあった話ではなくて。
是非感想をおねがいします。