-3-《 ミャーグ 》
ロッセルはシドと出発する掃除屋のメンバーを見ていた。巨大な古城。これが掃除屋の根城である。奇妙な事にこの古城は、どこの国にも属していない土地にある。かつては国があったのだが、とある戦争に巻き込まれ滅びたのである。この国の土地は一切の産出物が無いため、魅力のない土地であった。だからこそ戦争で国が無くなった後も放置され続けたのである。
「ゾイはどうしてる?」
「ゾイには炎竜の子供の世話を任せてる。流石に戦闘に参加させるわけにはいかないからな。」
「確か、メードさんはゾイにも教えていたはずだが。」
「素質がある奴だ。だけどな、あいつが嫌だって言うんだ。戦いたくないって。だから俺はゾイを戦闘に参加させない。」
「メードさんに似て優しいな。」
「そんな誉め言葉なんていらねえよ。今はミャーグだろ?」
「そうだな、お前さんの言うとおりだ。」
シドは巨大なケージを掴む炎竜を見る。現状最高戦力である炎竜。掃除屋がこの炎竜を入手したのは、とある戦闘で竜国家の力を削ぐために強奪したからである。最初は炎竜も古城の半分を崩壊させるほどに暴れていたが、今は懐いている。それもこれもゾイのおかげなのだ。
「シラ様率いる部隊が出発しました。」
「お前はどこからその情報を手に入れてんだよ。」
「さあ。」
レリルは知らぬ顔をする。リアルタイムで情報を入手している訳だが、掃除屋内にスパイでもいなければ不可能である。もしくはレリルが何か不思議な力を隠している可能性だ。
「一度、全員洗いなおした方が良いかもな。」
「残念だが、無駄だと思うぞ。レリルは恐らくその対策もしてるだろう。」
「……だろうな。」
ロッセルにはお手上げである。何回か摘まみ出したこともあったが、レリルは数時間後に執務室で待っていた。思わずロッセルは腰を抜かしそうになったが、どうにか自分を律することが出来たのは良い思い出である。
シラの部隊が南東へ進んでいるのが目に入る。今回、シラの部隊は全員が騎馬で出ている。距離が離れているため、人の足で行くと連戦の疲労が出る可能性を考慮したためである。それを考慮したのはロッセルではなく、シラである。細かい戦略はそれぞれの部隊を率いる主要メンバーが決定している。メードは力の偏りを防ぐための策としてこの仕組みを考案した。
「リゼン様の部隊はメチラリル兵後方からの奇襲を担当するため、既に出発しております。」
「それはさっき確認したから良い。炎竜を率いているのはレジェか。」
主要メンバーでは数少ない女性のメンバー。レジェは【魔術】の部隊を率いる。元はとある国の専属魔術師であった。その国と別の国との戦争を掃除屋が荒らしたときに、レジェを誘拐したのだ。掃除屋に人身売買や奴隷などを認める決まりはない。むしろ禁止に近い。あくまでも人の命が散るのを防ぐのが使命。人の命をもてあそぶ行為も重大な違反になる。
レジェを元の国に返そうとする時になって、レジェがそれを拒んだのだ。当時、レジェの国は滅亡寸前であった。戻ってもそこに居場所は無かった。それを分かっていたレジェは掃除屋に加わることを選んだのである。
「頼りになるな、あいつは。」
「ああ。俺が親父の代わりを始めてからは何かとレジェに頼むことが多くなった。」
「そこら辺の魔術師とは比べ物にならない程、魔術に長けてるやつだからな。」
レジェの部隊は南へ進んでいる。遠回りして、メチラリルの背後を取るように移動する予定になっている。
「俺らも行こう。今回も俺達がシラの部隊の援護をしつつ、両国を牽制する。」
「いつも通りだが、相変わらずお前さんが一番無茶しようとしているだろ。メードさんの一人息子を俺達がぞんざいに扱うとでも?」
「それが嫌いだ。」
「別にお前さんの良いか悪いかなんて評価は聞いてない。俺たちが勝手に決めることだ。レリルも準備しろ。出発する。」
「私を放り出さないんですか?」
「時間の無駄すぎるだろ」
+ * +
ミャーグは掃除屋の拠点となる無帰属地域から南に二か国、さらに東へ一か国過ぎた先となる。もちろん、正式に認められた集団ではないために国を堂々と通ることはできない。さらに掃除屋の拠点が見つかることも避けなければならない。
「まずはオベリアだ。」
ロッセルがぼやく。南のオベリアは大国である。ここを通るのが毎回難しい。そのためにシラの部隊は南東から進むことで陸路を通ることを避けている。南東にある国家はオベリアとは別で、リリジェルガという国家。大国ではないが、かなりの友好国家で戦争をあまりしない国家として有名である。各国と友好条約を結び、中立国家となっている。
「俺らはオベリアを通る。リリジェルガのシラ達を隠すために、あえて大袈裟に通るぞ。」
「それだと拠点がバレる。それは許されない。」
「ちょっと待て。闇雲に突っ込むわけじゃない。東から中央を通らないように、南東を目指してシラの部隊と合流する。」
「レジェの部隊は?」
「あそこは魔術部隊だ。高空を飛行するようだ。」
光学迷彩で透明化しているレジェの部隊。レリルが今オベリアを通過していると報告する。
「なんで、お前はその情報を知ってんだよ……」
「まあまあ……使える者は使っておこう。」
「そうだな。とりあえず東へ回る。オベリアの国境付近を通過する。」
「機動力の暴力だな……。」
「だが俺達には出来る。親父に習った奴しかこの部隊には居ないからな。……例外は居るが。」
ロッセルとシドは部隊のメンバーを見る。レリルを除いて、全員がメードに教えを乞うていた。メードの技を見て、盗み、それを自らのものへとさらに昇華させていった者達である。
「これぐらいはできないとな!」
ロッセルは地面を強く蹴る。前方には巨大な獣。熊だ。跳び上がったロッセルはそのまま踵落としをする。熊の頭が潰れる。血が飛び散るが、ロッセルは踵落としをした勢いで一回転。離れた場所へ着地する。
「さあ、行くぞ!!」
ロッセルの部隊は南東を目指して全速力の走行で出発するのだった。
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