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-1-《 ロッセル 》

 この世界にはとある有名人が居た。各地の戦場に神出鬼没に現れ、戦場を荒らす。荒らされた戦場は戦闘できる状態ではなくなるために、戦闘は終了してしまう。ある者は意味のない各地の戦争を片付けるようであることから【掃除屋】と名付けた。やがてその名称は誰もが知るものとなる。


 + * +


「あぁ~!!! 今日も疲れたなぁ!!」


 一人の荒っぽい男が頭をかく。そして使い古されたソファーにどかり、と座り込んだ。目の前の机にお茶が出される。


「はい、お茶です。お疲れさまでした。リルガルドの戦場も終わったようです。」

「……それは良かった。あそこは長丁場になっていたからな。無駄な死者が出なくて幸いだ。」


 男はお茶を飲む。


「熱っ。俺が猫舌って知らねえのか?」

「知ってますよ? 貴方は熱い方が良いと仰るので。」

「そうは言ったが、こういう事じゃない!」

「そんな事を私に言われましても……。」


 女は知らぬ顔だ。男はそれが一層腹を立たせるのだが、そこに制止の声が入った。


「そこら辺にしておけ。次の戦場がもう待っているだろうが。」


 大男が顔を見せる。左腕を包帯で巻いている。血が滲んでいることから新しい傷のようだ。


「くそっ! ああ、そうだな。次はミャーグだ。少し遠いから早めに出発しないといけない。」

「最近は多いですね……。」

「各地の戦争が悪化している傾向は確かにある。それについても調べさせているが、まだ結果は出ないようだな。あいつが帰ってくるのを待つしかなさそうだな。」

「お前も済まないな。さっきの戦闘で負傷したんだろ? 流れ弾に当たって聞いたぞ。」

「ああ。だが掠り傷だ。リルガルド兵の撃ったのを受け流すのに失敗した。」

「お前は【掃除屋】の要だ。今抜けられると困る。新人教育も終わってないからな。」

「なんだかんだで役割を果たしているんだな。」

「嫌だけどな! 親父の後継なんてしたくなかったんだけどよ!」

「お前さんはしっかりやってるよ。メードさんも喜んでいるだろうよ。」

「死んだ親父の話はするな。今は、今だ。次の作戦を立てる。集めてくれ。」

「分かった。」


 大男が部屋から出ていく。女はその様子をニコニコと微笑みながら見ていた。


「何だ、機嫌が良いな。」

「ロッセルさんは最近シドさんと仲良いですよね。」

「別に仲が良い訳じゃないぜ? シドとは昔からの付き合いだからな。兄貴分みたいな所もあるし。」


 ロッセル・マラニエード。通称【掃除屋】のリーダーである。彼は数年前に父親であるメード・マラニセードから掃除屋を受け継いでいる。当時は掃除屋の主要メンバーの中でも反対意見が多数だったが、ここ最近になって反対意見も小さくなってきている事をロッセル自身が分かっていた。


 掃除屋としてロッセルは一流であるが、シド・レヴェルには大きな恩がある。初陣でロッセルはシドに命を救われている。それまでは年齢の離れたシドと形式上の仲でしかなかったが、これを機に二人の仲は良くなっている。それはここ数か月で顕著になっていた。


「それよりお前はいつ協力してくれるんだ?」

「いつってどういうことですか?」


 女は先程と何も変わらず微笑んでいる。そういう女なのだ。レリル・レイという女は。


「お前が俺と同じ世界から来ていることは分かってるんだ。親父もそれを承知でお前をここに入れた。その恩は忘れてないんだろ?」

「ええ。メード様には感謝しております。」

「そうは見えないけどな……。まあ、良い。今後の対応次第ではここから抜けてもらう。」

「……」


 最初から最後までレリルは表情を笑顔から変化させることは無かった。掃除屋のメンバーの中にはレリルを精神異常者と言う者もいるが、至ってレリルは正常なのである。ひねくれているだけで。


「おい、呼んできたぞ!」

「済まない。俺が行く。そこで待たせておいてくれ。」


 ロッセルは執務室を出る。当然のようにレリルは後に付いてきた。その殊勝な態度がロッセルは腹立たしいのであった。


 執務室外に広がるホールには各主要メンバーが揃っていた。シドにアイコンタクトで感謝を伝えておく。


「今回のリルガルドの戦場もご苦労だった。無事に両国は休戦協定を結んだようだ。」


 ロッセルの報告にメンバーで歓声が上がると思いきや、無言のままだった。掃除屋ではこれが当たり前である。勝利は前提。その上で戦場で散る命の数を減らす。これが使命であった。


「では、次の戦場についてだが、明朝ミャーグの戦場へ向かう。リルガルド戦で疲弊しているだろうが、ここを抑えれば一気に戦況が変わる。各地の戦闘にも良い影響が出るだろう。」


 手を挙げる者が一人。


「何だ、シラ。」

「ロッセル。ミャーグの戦場はどことどこの戦いなんだ?」

「それについても言っておこう。ミャーグはケラスラとメチラリルが戦っている。」


 先程まで静かだったホールに緊張が走る。ミャーグはとある小国の名前だ。ミャーグはケラスラの属国であるが、そのケラスラは大国である。軍事力を誇る長い歴史のある国であり、国土を今もなお広げ続けている。


 一方、メチラリル。こちらが問題である。メチラリルは近年になって急速に国力を上げている国である。その国力増加はどのように行ったのかが一切謎であるため、各国はメチラリルを警戒していた。その間にメチラリルは国土を三倍にしている。今ではケラスラと国土がほぼ同じ広さである。


「メチラリルの戦闘形式を我々は入手していないはずだが。」

「リゼン。その指摘はもっともだ。流石に俺自身もその点を考慮していない訳ではない。調査に向かわせている。連絡ではもうすぐ帰還するはずだ。……良いタイミングで来たな。」


 影に潜んでいた男が影から出てくる。全身黒ずくめ。松明でほのかに照らされた薄暗いホールでは、この男の身体が不気味に見えるのであった。


「無茶を言って済まないな、シェード。」

「大丈夫です。もう一つの件は部下十人体制で向かわせています。」

「諜報部隊が十人か。それは頼もしい。そっちは頼んだ。それより今はメチラリルだ。」

「これを。」


 シェードから渡された羊皮紙を受け取る。これはかなり急いで調査したようだ。羊皮紙に書かれた字は乱雑で時間を掛けていない事が分かる。しかし、ロッセルは乱雑な字でも暗号であっても解けるように教育されている。


「……そうか。メチラリルは【呪術】を使うようだ。」

「呪術国家……。」


 そう呟いたのはシラだ。シラはまだ若い。シドの弟で去年、掃除屋の正規メンバーに加入した。シラは近接先頭に長けていて、銃剣を駆使する。


「それに呪術の【構築形式】が異なるようだ。動物を生贄として行う【生贄呪術】と呼ばれるものらしい。」

「意味するところは人間を媒介に……。」

「そうだな。奴隷制度が導入されている上に、近年の国土拡張で奴隷は充実しているのだろう。かなり強国になっているようだ。」


 シドの結論にロッセルは頷く。残忍で何としても止めたいが、形式が形式なだけに厳しい。


「どうする、ロッセル。」


 リゼンの問い掛けにロッセルは考え込むのだった。

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