表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
46/208

くま 第3話

「さくら、ごめんね、ちょっとクマさんをみせてくれる?」


 北斗七星は、88星座では大熊座の一部であり、尻尾の部分にあたる。「犯人のしっぽを捕まえる」というシャレをヒントにするために、わざわざクマにもコスプレをさせたものだろう。


 クマの服を調べてみると、しっぽというか服の背中側から、白い洋風の封筒があらわれた。


 中央で、ハートのシールを使って封をしてあるのだけれど、それが横向きに貼られている。


 これは、横長の封筒の向きを縦長になおしたときに、ハートのエースに見立てているのだろう。


「これが、盗まれたハート?」


「うーん、とりあえず開けてみるね。」


 おめでとう!


 その言葉から始まるメッセージによれば、ロビーに預けてある荷物を、遠山さくらの名前で受け取ればゴールだという。


「はい、確かにお預かりしております。」


 一度奥へと下がった仲居さんが、どうぞこちらですと言って持って来たのは、娘が抱きかかえているのと全く同じ”クマ”だった。ただし、今度のクマは、インバネスコートを身にまとい、鹿撃ち帽を頭にのせている。


 見事、名探偵の誕生ということらしい。


 クマが二つに増えるという、娘にとっては突然の僥倖にあい、うれしいやらびっくりするやらで、ああ、これが世にいう目を白黒させるというやつか、いいものを見たなあ、などと思いながら、ふと目を向ければ、これあるであろうことを予期していたと思われる、仲居さんのあたたかな視線と目が合う。


 にっこりとほほ笑む仲居さんに、いいタイミングだと思い聞いてみる。


「このクマを預けたのは誰でしたか?」


 仲居さんは、ちょっと困ったような笑みへと変えて。


「申し訳ありません。誰から預かったものかは、内密に、とのご要望をたまわっているものですから。」


 それを受けて、あきちゃんが悪戯っぽく言う。


「どのみち犯人は締め上げてやるけどね。まあ、あっちは既に締め上げられているみたいだけど。」


 二匹のクマを両手でぎゅっと抱きしめている娘を目にして、仲居さんも楽し気に微笑えんでいる。私は、娘のそばにかがんで耳打ちをした。娘は、コクンとうなずくと、仲居さんに向かって言う。


「おねえちゃん、ありがとう。」


 この子のためにしてくれたことなのだから。


 部屋に戻るとき、娘は振り返って、抱えていたクマをひとつ降ろすと、仲居さんに手を振る。


 手を振り返してくれる仲居さんに、私は会釈を返し、あきちゃんはと見れば、かがんでクマを拾いあげると、その手をとって振っていた。


 部屋に戻るなり、意気揚々と宣言するあきちゃん。


「さて、この神出鬼没のクマさんが、どうやって女湯の脱衣所に現れたのか、その謎を解くときが来たみたいね。」


「いくつか気になっていることはあるよ。」


「待って、みずほが気にしていることを当てて見せるから。」


「まず、部屋の名前と額縁の絵、それと、私たちが着ているこの浴衣、そして、あのうり双子のクマさん達、そうでしょ?」


「うん、後は、男性陣の部屋の絵を確認しないとね。」


「もしも皐月の間の絵が藤の花なら決まりってことね。」

次回は、『くま 第4話』です。


明日、更新です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『みどりの竜』
 一話完結、ショートショートコメディです。


『月の音色』
 声優、大原さやかさんのネットラジオに投稿した400文字以下の物語


『いくとちゃんとおじいちゃん』
 子供に読み聞かせるとき、大人も一緒に楽しめる童話を目指しました。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ