お祈り無双! 一日五分、祈祷するだけで世界を救います!
「どうか世界が平和でありますように。」
差し込む朝の光の中で、かしずく勇者の厳かな祈りにこたえて、静謐な神殿に、玉音が響く。
「わらわ、降臨なのじゃー!」
ひび割れた空間を突き破り、幼い女神が、元気に顕現!
本日のいでたちは、白いワンピースに、麦わら帽子、竹で作った虫とり籠を肩紐で斜めかけにして、手には大きな捕虫網、もう何をしたいのかは一目瞭然。
「今日は、ドラゴン採集をするのじゃ!」
「やめてあげて、火吹き山のドラゴンは、もう虫の息です!」
「なんじゃ、勇者よ、わらわにさからうのか?」
「えっ、そんなこと…」
「ならば、勇者よ、そちがわらわの遊び相手をいたすと言うのじゃな?」
「そんなこと、言ってません!」
世界の平和を願い、女神に捧げた祈りの力で、勇者は全身を強化すると、その身に宿るチートな能力を余さず使い、そこから逃げ出した。
「下等な虫ケラ風情が、せいぜいわらわを楽しませるのじゃ。」
捕虫網を構え、邪悪にほほ笑む、幼い女神。
「いぃぃぃ、やぁぁあぁぁぁ――」
勇者の悲鳴がこだまする。
今日も、世界は、平和なようだ。
夕暮れの光に沈む神殿、たたずむシスターの傍で、肩で息をする幼い女神の姿は、向こう側が透けて見えるほどに、すっかり薄くなっている。
「ゼェゼェ、ゆ、勇者の奴、遊びじゃと言うのに、ほ、本気を出しおってからに、もう疲れたのじゃ、今日は、帰るのじゃ・・・」
言葉だけを残して、音もなく消えてゆく女神を見送るシスターのすそに、ボロボロになった勇者が縋りつくようにして、くずおれている。
「ふ、ふぇぇぇぇん、しすたぁさまぁ、こわかった、こわかったんですよう。」
「あらあらまぁまぁ、大変でしたね。」
優しい笑顔で、シスターは、そっと勇者をなだめる。
「シスター様、あのわがまま、なんなんですか、ひどいですよ、女神じゃなくて、むしろ、魔王ですよ!」
「あら、魔王ですか。」
「そうです、魔王です!」
フフフと笑う、シスター。
「勇者は――」
両ひざをつき、しゃがみこむ勇者の両手を取ると、手のひらでそっと包み込んで。
「いつだって、魔王の相手をするために、召喚されるものですよ。」
ニッコリとほほ笑んだ。