1話
はじめての投稿です。習作のつもりで書きます。お手柔らかに
あけない夜はない。
誰が言ったのだろうか。どんな意図で述べたのだろうか。わからないしわかりたくもない。
哲学じみた禅問答に答えなどでないし、答えが出た瞬間それは無用の長物へと化す。
ーーだが、僕はどうしても考えしまうのだ、考えたくなってしまうのだ、意味のない問いを。
たとえばそう、善悪の彼岸に存する”死”という概念について。
妄想してしまう、美しい死を。
消えゆく儚さを思い、今日も眠りにつく。
* * * * *
中世の西洋の石畳のずらりと並んだ街並みが今なお強くこの地域では残っている。
ここは帝国領であり、隣国の共和国との国境地域。石炭が発見されて以来このまちを巡って両国が奪い争っている。ということになっている。実は、はるか昔、ロータル領が分割されてからこの地は争われてきた。
そんな、白い壁に黒い木の柱で出来た建物が街を形成し、童話の世界から飛びだしてきたような姿をもつ我が故郷、ストラスバーグ。街の中央には大聖堂があり、毎冬に農神祭をおこなうときツリーの発祥の地とも言われていたりする、ちなみに故郷より南へゆくとツリーではなくリースなのだが。
それはさておき、僕は今馬車にゆらゆらと揺らされながらゆったりと共和国へと向けて”旅”をしていた。”旅”とカッコをつけるのは、実際には旅ではなく任務なのだが最終目標が壮大すぎてどこから手をつけていいかわからず、道標もなく放浪しているからだ。
本来ならばこの頃、気前の良い商人風の男性を装い、マルセイユへ行って視察と言う名のバカンスでもと思ったのだが、現地工作員が数ヶ日前に何者からか消され、協力者も姿を隠してしまったという悲惨なできごとが起きた。
僕の休暇がご破算だ。
私の上司の首は未開大陸コンゴ地方の付近カメルーンまで吹っ飛びかけ、そのスケープゴートとして僕が共和国へ赴き、現地で組織網を一から作り直すというどうも今後の全く見えないありがたい命令を急遽承ってしまった。故に陸の移動ではあるが、心では地図のない航海をしているかのような気分だった。
そもそも、僕の立場は執行官。本国付けではあるが、基本的には二重スパイを再教育するためヴァルハラへとしっかりおくり届けて差し上げるのが僕のお仕事。同じ本国付けの情報分析官や現地や赴任している執行官・現地工作員の方々とは違って土地勘がないのでむずかしいし、はっきり言って素人の僕には無理だ。コミュ力ゼロ、本来二人一組である執行官ペアは、相方が組んでそうそう何者かによって毒によって天に召され僕一人。上からの判断では、とりあえず予備はないし一人でできる任務を任せてみようということでそのまま継続。意外と悪くないね。このままでもいっか。毒殺の件、他の部署に漏れたらやばいし。ということで、なあなあで処理されてしまった。
「なんでこんな命令が通ったんだろうなあ。」
と、僕はおもわず深い溜息をついてしまった。
「この外見のせいかもしれんなあ、やはり。それと訛りをほとんど感じさせないほど訓練生時代努力してのが仇となったかぁ・・・・。ついてねぇなあ」
黒い髪に黒い瞳、だがすこしゲルマン系を感じさせる顔のつくり。彫りは深くはなく、鼻の形と魅惑的でやさしそうな瞳。少し異邦人っぽいところが同世代に限らず少なくない女性の心を静かに射止めていたが、彼は気づいてはいなかった。
「この見た目で良家の娘さんでも引っ掛けろっていうのかね。まったく上は、何を考えているのやら。」
全くもって自分に自身のなく覇気がなかったが、戦闘に関しては有利だった。
誰もこんな線の細い優男が暗殺者だと思わないのだから、得意のロープの絞首で気絶させ影も形もなく人ひとりが消えてしまう。ささやかに本国でその存在が噂されていたが誰もが「誰かが流したいたずらな噂話だろう」とされていた。
だから、上司からその話を聞かされたときは本当にびっくりした。
そんなつまらないことを妄想しているうちに街が見えてきた。花の都ルテティアだ、かのナポレオンの孫がこの街を整備したらしい。帝国では民のご機嫌とりに関しては彼の右に出るものはアルキビアデスぐらいだと失笑をかっていた。
「でもさすが花の都だな。街並みがきれいで合理的だ。馬車がちょうどよく通るように設計されてるしすごいなあ。」
こんな発言を本国の連中に聞かれたら、きっと白い目で見られるだろう。なにせ我が故郷あたり一帯を帝国が共和国よりかっぱらったときより共和国には目の敵にされているのだ。
互いに敵視しあっているというのが現状である。
そして、僕の乗る馬車は入り口へと迫り、衛兵にとめられた。
「そこでとまれ。どこから来た?目的は?」と洗練されたハキハキとした声だった。
「アヴィニョンからきました。ルテティアへは観光です。」
「積荷は何が入ってる?」
「食料や水、あとは東方貿易で仕入れた香辛料などです」
一応は、商人という偽の身分を(自分のバカンスのために用意したもの)使用するつもりでいる。
だから、かさばらない香辛料などを積荷に選んだ。問題はないはずだ。
「ふーん。そうか、そうか。」と衛兵はニヤリと笑った。
クソっ、まずいぞと僕は瞬間頭によぎるこれから先の展開に悪態をつき頭痛を感じた。