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闇を裂く杖 第八話

 木に遮られて雨が弱まる。安喜良は傘を畳むと木に立てかけ、綾子を突き飛ばした。


 されるがままに下草に伏した綾子のワンピースを乱暴にまくりあげ、下着をむしり取った。綾子は初めて身じろぎして安喜良の体を押しのけるように腕を突っ張った。安喜良が綾子の頬を張る。二度、三度。綾子の頬が腫れあがった。


「武彦を、殺したの?」


 低い声で綾子が尋ねた。安喜良はもう一発、綾子を殴った。


「殺してねえよ」


「殺したでしょう」


「うるせえな。事故だよ」


「武彦のことが怖かったんでしょう。あなたの言うことを聞かないから。武彦は強いもの」


 安喜良が綾子を殴る。


「ほら、図星。人に知られないように殴ることでしか、人を思い通りに出来ないのよ。弱虫」


 綾子の首に、安喜良の手がかかった。


「うるせえ。誰が弱虫だ。お前も殺してやるよ。武彦のところへ送ってやる」


「武彦を、殺したの?」


「ああ、殺したさ」


 唐突に、安喜良の眉間を衝撃が襲った。額を両手で押さえて地面に転がる。


 綾子は握りこぶしから突出させた中指のふしで安喜良のこめかみを突く。


「ぎゃあ!」


 安喜良が叫んで地面を転がった。しばらく悶絶していたが、綾子が爪先でつつくと、目を開け、ゆっくりと起き上がった。


「てめえ、ゆるさねえぞ」


 綾子は安喜良の傘を取り、両手で構えた。


「は。剣士ごっこか。あいにくだったな、俺は剣道四段だ」


 余裕を見せつけようと両手を広げてみせている安喜良の顔に向かって、綾子は靴を蹴り飛ばした。安喜良はそれを叩き落としたが、怒りに我を忘れたようで、両手を突き出して突進してきた。




 綾子は傘を杖のように操り、安喜良の腕を上段から薙ぎ払った。体勢を崩した安喜良が樹の幹に体を打ち付ける。


 安喜良が身じろぎするのを綾子は冷静に見つめていた。


 二度ほど咳き込み、安喜良はうずくまった姿勢から突然、綾子の足首を蹴りつけた。今度は綾子が地面に倒れ込んだ。


 綾子の手から離れた傘を安喜良が拾い、石突を綾子に向けて突きだした。


「人を馬鹿にしやがって。地獄に落ちろ!」


 大上段から綾子の脳天目がけて傘が振り下ろされる。咄嗟に横に転がり、直撃は避けたが、綾子の右肩を傘が掠った。鈍い痛みが走る。安喜良は数歩下がって、もう一度傘を構え、打ち込んできた。


 綾子は立ち上がりざま、額の上で交差させた腕で迫りくる傘を待ち受けると、触れたと思った瞬間、傘の勢いに乗り遡るように、腕を滑らせ安喜良の懐に入り込んだ。そのまま体当たりすると、安喜良の手から傘が落ち、安喜良はよろけて樹に腕を突いた。


 ゆっくりと傘を拾い、綾子は安喜良が立ち上るのを待った。荒い息を吐いていた安喜良が、闇の中、目をぎらつかせて綾子を睨んだ。綾子は安喜良に背を向けると、雑木林から出た。

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