ささくれ
ささくれだった指先。禿げかけのネイル。いつしか転んでできた痣。不健康に浮き出た鎖骨。靴擦れした痕。最近出来た小さなニキビを潰す。
鏡を見て溜息をついた。
画面の割れた携帯。裾が少し汚れたブラウス。最近痛む親知らず。唇を強く噛み締める。
鏡には歪んだ顔の人。
不安で眠れない夜。
知らない間に流れた涙。
鏡には悲しくて苦しそうな私。
いつからか我慢することが当たり前になった。本音を隠して、本音が分からなくなった。
「あなたはだあれ?」
問いかけたところで、眉間に皺を寄せた醜い私が笑顔を貼り付けているだけで、答えは見当たらない。
ささくれを引っ張ると深くまで肉が抉れ、真っ赤な血がじわり、と、溢れてきた。
血を舐めとり、抉れた肉を噛みちぎる。
「私は私、何者でもない」
自嘲気味に笑う私が見えた。