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エピローグ 俺、何度ゴブリンになっても生き延びて人間になる!


『漁村も発展したなあ』


『ふふ、突然どうしたんですか、リオさん』


 風を感じながら海辺を歩く。

 遠出してない時は、俺たちの毎朝の日課だ。

 俺の隣で、シニョンちゃんが幸せそうに微笑むのも。


 ボスオーガ率いるゴブリンとオークの大群の襲来で、漁村の村人全員が避難したのはもう五年も前のこと。

 漁村は荒らされることもなく、安全を確保したらすぐに村人が戻ってきた。

 俺たち〈ストレンジャーズ〉も、一緒に。

 港町に入れるようになったけど、やっぱり俺たちの拠点はここだからね! 用事があれば港町に行けばいいんだし!


 海辺を歩いていくと、すぐに最初の目的地が見えた。

 こじんまりした小さな宿。いわゆる民宿、みたいな。

 シニョンちゃんはともかく、俺とオクデラを人里で最初に受け入れてくれた宿。〈斧槍亭〉だ。


『ゴブリオ! シニョン! オデ、待ッテタ!』


 斧槍亭の入り口から、オクデラが駆け出してきた。

 ちょっ、あいかわらずデカいんだから突進はやめてくれませんかね! そのままはね飛ばされそうでビビっちゃうから!


 ちょっとドキッとするけど一瞬だけだ。

 オクデラがそんなことするはずないって知ってるし。


 俺の前でスピードを緩めてキッと止まるオクデラ。

 〈果ての森〉にいた頃と比べたら、ずいぶん器用になってる。

 純情弱気オークが成長したもんだ! 純情なのは変わらないけど弱気はすっかりなくなってるしね! いまじゃ頼れる壁役だし! 肉壁じゃなくて! ハハッ!


『んじゃ若女将、プティちゃん、オクデラを借りてくから』


『はーい! 気をつけてねリオちゃん、デラっち!』


『もう、プティったら。オクデラさんの呼び方が違うでしょう?』


『うー、だって恥ずかしいんだもん!……いってらっしゃい、パパ』


 …………。

 ……おいいいいい! 器用になったどころじゃなくてオクデラ変わりすぎィ! 若女将と行ってきますのキスしてるし! プティちゃんをハグしてるし! 何回見ても慣れないから!


 そう。

 オクデラは、若女将と結婚した。

 だからオクデラは俺たちと離れて暮らしてるわけで。

 色っぽい未亡人と結婚できてよかったねオクデラ! プティちゃんも懐いてるし意外に村人にも受け入れられてたし、それにしても美女と野獣っぷりがヤバい!


 オクデラは若女将と話し合って、子供は作らないらしい。

 二人にはプティちゃんがいるし、それにほら、オクデラはオークを滅ぼしたい【オーク the END】なわけで。

 もしかしたらオークが生まれてくるかもしれないってリスクは冒せないらしい。

 でも、二人にはもう子供がいるからいいんだって。

 いいお父さんしてるなオクデラ! 気は優しくて力持ちってね! オークだけど! あいかわらずオクデラはオークだけど!


『ゴブリオ、ドウシタ?』


『なんでもない、なんでもない。んじゃ行くか!』


 オクデラと合流して、俺たちは歩き出す。

 今度は〈斧槍亭〉の先にある冒険者ギルドに向かう。

 と、向こうからまた人が走ってきた。


『おーい、リオさーん! おひさしぶりです!』


 走ってくる勢いヤバいから! さっきのオクデラの突進とはまた違う速さ! さっすが【逃げ足LV4】! 素でLV4とか頭イッちゃってる? いい意味でね、いい意味で!


『リオさん、また変なこと考えてましたね? 僕せっかく港町の冒険者ギルドから指名依頼を持ってきたのに!』


『持ってきたって、ギルド間の伝令でしかも報酬もらってるでしょ。誰かほかの人でもよかったのに』


『リオさん、あいかわらず僕に冷たい!』


 オーバーリアクションでのけぞって楽しそうなのは、いつもの行商人だ。

 行商人は港町を中心にまわっている。

 開店資金は貯まったけど、店を構えるかどうかは迷ってるらしい。

 ほら、行商じゃなくなったらせっかくの【逃げ足LV4】が役に立たなくなるからね! ああ、夜逃げには役に立つかな? ハハッ!


『リオさん、いま失礼なこと考えてましたね?』


『気のせい気のせい! さーて、冒険者ギルドに行かないと!』


『まったくもう! あ、用事が終わったら声かけてください! リオさんが好きそうな物を仕入れてきましたから!』


 俺と肩を組んで、ニヤリと笑う行商人。

 頭がイッちゃってる行商人からこっそり買ったものは多い。

 念願の海獣の皮の水着、体に害はないタイプのスライムの粘液、貴族向けのデザインを真似た下着。化粧品やアクセサリーは俺との共同開発だ。

 今回も期待してるゴブ! おっと。


 仲が良いですね、みたいなシニョンちゃんの視線から逃げるように冒険者ギルドに向かう俺。

 五年も過ごせばもう慣れたもので、ためらうことなく扉を開けて中に入る。


『おう、〈ストレンジャーズ〉! ちょうどお前らに指名依頼が来てるぞ!』


 俺たちを見つけて、コワモテのおっさんがすぐに声をかけてきた。

 いつまで経っても俺たちの担当は美人受付嬢ちゃんにならないのね! いやボスオーガとの戦い前にミスリルの短剣貸してくれたし領主にはいろいろ説明してくれたみたいだし、おっさんには感謝してるんだけどさあ! いてッ!


 そんなことを考えながら美人受付嬢ちゃんを見てたら、シニョンちゃんに脇腹をつねられた。

 ぷっくり頬をふくらませて、嫉妬してるらしい。

 くっ、シニョンちゃんかわいすぎィ! 俺ほんとシニョンちゃんに出会えてよかった!


『リオさん、あとでお話があります』


『あっはい』


『ははっ、尻に敷かれてんな、リオ。さて、指名依頼なんだが……港町から南方で、ヤツらが出たらしい。行くか?』


『おっさん、聞くまでもないから! ゴブリンは殺すって決まってる!』


 港町からの指名依頼は、ゴブリンとオークが混じった巣を発見したから潰してほしいって内容だった。

 ゴブリン退治、オーク退治は〈ストレンジャーズ〉の仕事だから! 雑魚ゴブも雑魚オークも、上位種が来たって無双してやるし! それに。


『オデ、オーク、殺ス!』


『オークなのに?』


『オーク、ナノニ!』


 オクデラの頼み、オークを滅ぼすってのはまだ達成してないからね! 巣が見つかったってそりゃ〈ストレンジャーズ〉の出番でしょ!


『了解だ。んじゃまずは港町の冒険者ギルドに行ってくれ。詳しい情報を説明するってよ。すぐ行くのか?』


『もちろん! なんたって俺たちには安全な移動手段があるから!』


『ゴブリオ、依頼を受けるんだろう? 舟を用意しておいた』


 受付で話し込む俺に、後ろから声がかけられた。

 アニキだ。

 アニキと取り巻きたち(ハーレムメンバー)だ。

 あれアニキ、メンバー増えてない? アニキがモテモテすぎてヤバすぎる件!


 アニキはいま、漁村のリザードマンたちのまとめ役になってる。

 港町にいるリザードマンたちもあわせて、この周辺の群れのナンバー2らしい。

 さっすがアニキ、優秀だね! そんで「新種とならば強い子をなせるかもしれん」ってリザードマンの女性? メス? を送り込まれて、気付いたらあっという間にハーレム状態! やっぱりアニキは主人公かな?


 冒険者ギルドのテラス席の先に繋がれた小舟に向かうアニキ。

 取り巻きたち(ハーレムメンバー)どころか、人魚やサハギンもアニキの後を追う。

 最近じゃ港町への移動は、アニキとアニキの恋人たちと友達の水棲種族が舟で送ってくれる。

 海上タクシーみたいで便利すぎ! あ、俺は【水中行動】スキル取ってるし、オクデラも練習して【水泳】取らせたから海に落ちても大丈夫です! そのへんぬかりはないからね!


 俺は舟の前に立って振り返る。


『じゃあシニョン、俺ちょっと行ってくるゴブ!』


『ふふ、リオさん、語尾にゴブがついてますよ』


『おっと、ついクセが出ちゃったゴブ!』


()()()()()()()()()?』


()()()()()()()!』


 シニョンちゃんと笑い合う。

 俺は手を伸ばして、シニョンちゃんの頬に触れて、顔を近づけて。


 いってきますのキスをした。


 ほらほら、ヒューヒューって見せ物じゃないから! ゴブリオもうニンゲンになったし、ゴブリンの頃と違って見せ物にはならないから!


『リオさん、この子にも挨拶を』


『もっちろん! じゃあ()()行ってくるゴブ! なるべく早く帰ってくるから!』


 シニョンちゃんの頬から手を離して、シニョンちゃんが抱いてた赤ちゃんの頭を撫でる。


『ぱぱ! しゃい!』


 …………。

 ……破壊力ヤバすぎィ! パパがんばってくるからね!


『さあアニキ、オクデラ、さっさと片付けて帰ってくるゴブ!』


 さっと小舟に乗り込む俺、【普人族】でシニョンちゃんの夫で【普人族】の子供の父親、ゴブリオ。


 続けてオクデラも小舟に乗ってくる。

 アニキと水棲種族が舟をひいて、俺たちは海に進み出た。


 テラスにいるシニョンちゃんたちに手を振る。


 はあ、ほんとがんばってきてよかった。

 気付いたらゴブリンだったけど、ニンゲンになるって決めてがんばってきてよかった。

 100万ライフポイント溜めるのはめっちゃ大変だったけど。

 愛する二人に手を振って、そんなことを考える俺。


 と、変な音が聞こえてきた。

 まるで何かが高速で飛んでくる、みたいな。


 【覗き見】と【聞き耳】を駆使して音の発生源を確かめる。


 上。


 顔をあげた俺が目にしたのは、もう避けようがないほど近くにきてた小さな隕石だった。


『ゴブッ!』


『ゴブリオ!? 何ガアッタ!? 敵、敵カ?』


『全員警戒態勢! 正体不明の敵がいるかもしれん!』


『リ、リオさん! いま魔法を!』


 アニキ、周辺は警戒しなくてよさそう。

 俺、まさかの隕石直撃らしいから。


 あり得ない確率だと思うんですけどこれまさかシニョンちゃんが【運命神の寵児】になってて俺が運命神に嫉妬されてるわけじゃないよね? シニョンちゃんの【受難LV5】とは関係ないよね? 神様これはヒドすぎませんかねえ!


『リオさん! アニキさん、私をそこまで運んでください! いま〈究極治癒〉を!』


『ゴブリオ、ゴブリオ! オデ、マタ守レナカッタ!』


『落ち着け! ゴブリオはまた復活する!』


 そう、問題ない。


 なんたって俺は【ゴブリンサバイバー】だからね!


 くっそ、ライフポイント足りないからまたゴブリンからやり直してやる!


 待っててねシニョンちゃん、俺またすぐニンゲンになるから!


 そんなことを思いながら。



 俺は死んだ。



 生き直しでゴブリンになっても、『ぱぱ』って呼んでくれるかなあ……。

 怪しいからはやくニンゲンになりたいゴブゥ!





というわけで、完結です!

『ゴブリンサバイバー 3』公式発売日に!w

いちおう言っておきますが、打ち切りではなく予定していた完結です!


一人称ハイテンションコメディ、小物主人公の物語にお付き合いいただきありがとうございました!


最終巻となる『ゴブリンサバイバー 3』(オーバーラップノベルス)は、

同じく最終巻の『10年ごしの引きニートを辞めて外出したら⑤』とあわせて

本日10/25に2冊同時刊行&2シリーズ同時完結です!

特典等は活動報告にて公開しています。

ぜひよろしくお願いします!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 隕石がストライクってw [気になる点] 1日千ポイントとして 3年か〜 [一言] 頑張れw
[良い点] 人間になれたんだ、おめでとう(笑) [気になる点] どんだけ殺って稼いだのかなポイント? [一言] ありゃ、ゴブリンに戻っちゃた(笑)お父さん ゴブリンになったら娘は判断出きるのかな? 前…
[良い点] 面白かった [一言] このオチは面白いがちょっと辛いっしょ
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