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第二十八話 宴会から抜け出して二人で話すってめっちゃ青春っぽいゴブ!


 夜遅くなっても、港町・デポールの戦勝の宴は続いていた。

 ハーフエルフの領主夫人のほかにも楽器を持ち出した住人がいて、歌って踊っての大騒ぎだ。

 領主夫妻は宴の途中で、護衛の兵士たちを連れて館に引っ込んだけど。


 偉い人がいなくなったせいでよけい大騒ぎになったゴブ! オクデラも若女将とプティちゃんと踊ってた、というか踊らされてたし! アニキ? アニキはなんか桟橋あたりでリザードマンたちと楽しそうだよ? すぐ溶け込んでリア充してるゴブ!


『こんなところにいたゴブか』


『あ、ゴブリオさん』


 シニョンちゃんは、騒ぎから離れて水棲種族がいない桟橋に座ってた。

 不安な様子は見せなかったけど、やっぱりまだニンゲンが怖いのかもしれない。

 そう思った俺は、離れるシニョンちゃんを見送ったけど、やっぱり心配だから追いかけてきた。


 ほら、俺には【覗き見LV2】と【聞き耳】と【追跡】があるから追いかけるのは簡単ゴブ! 【隠密】で隠れて見守ることもできたんだけどそれじゃただのストーカーだから! 俺もう称号が【森の追跡者(ストーカー)】になるかもなんて怯えなくていいゴブな! なんたって【港町の勇者(the man)】だから!


『シニョン、まだニンゲンが怖いゴブ?』


『いえ、もう怖いと思わなくなりました。漁村でもここでも、よくしてもらいましたから』


 月明かりに照らされて、シニョンちゃんが微笑む。

 破壊力ヤバすぎィ! ゴブリオ隣に座ろうとしてたのに途中で固まっちゃったゴブな! 危ない危ない、こんなシニョンちゃんを一人にしてたら変な虫が寄ってくるところだったゴブ! まあ虫どころかゴブリンが寄ってきたわけだけど! ゲギャギャッ!


 脳内でわめいて照れ隠しして、気を取り直して隣に座る。

 シニョンちゃんは俺を拒むことなく、むしろちょっと座る位置を近づけてきた。

 おうっふ、ほんと天然でヤバいゴブ。


『ゴブリオさん。本当に、ありがとうございます』


『どうしたゴブ?』


『いま、一人でぼーっと思い出してたんです。〈果ての森〉でゴブリオさんに二回も助けられて、それにニンゲンが怖い私を受け入れてくれて。ゴブリオさんがいなければ、私は……』


 ぼんやりと月を眺めながら言うシニョンちゃん。

 シニョンちゃんの言葉につられて、俺もいろいろ思い出してしまう。


 気付いたら森にいて、ゴブリンだったこと。

 オクデラとアニキと一緒に森で暮らしたこと。

 最初にゴブリンから、その次にニンゲンから、シニョンちゃんを助けたこと。


『〈果ての森〉の街に寄ったときは、本当にどうなることかと思いました。いままで平気だったのに、ニンゲンが怖くて……でも、ゴブリオさんがいてくれたから』


 ふっとこっちに顔を向けて、俺を見つめてくる。


 ゴブリオ、あの街の宿屋の夜を思い出しちゃったゴブ! 静まれゴブリオのゴブリン! シニョンちゃんが月明かりに照らされて陰でおっぱいの段差が強調されててあの夜密着して柔らかかったとか『リオさんなら、いいですよ』ってセリフとか思い出してる場合じゃないゴブ! いまいいところだから! ロマンチックな感じだから!


『漁村でも、女将さんとプティちゃんを助けたときも、今回だって。私は、ゴブリオさんに救われました。命だけではなく、心を。信仰を』


 シニョンちゃんは胸の前で手を組んで、微笑んだ。

 くっ、ヨコシマなこと考えてたのが申し訳ないゴブ! でもしょうがないよねほら俺邪悪なゴブリンだし! 元人間だけど!


『だから、ゴブリオさんが私だけじゃなくみんなに認められて……すごくうれしいんです』


 遠くに宴の喧噪が聞こえる。

 でも、俺の目にはシニョンちゃんしか映らなかった。


『ゴブリオさん。私、待ってますからね。いいえ、ついていきます。ゴブリオさんが、人間になるまで』


 思わずライフポイントを確かめちゃったのは当然だろう。

 結果はわかっているのに。


 いまのライフポイントは、891だ。

 あれだけの敵を倒して、ボスオーガも倒して、雑魚狩りで稼ぎまくったのに。

 次に死んだらゴブリンもゴブリンリーダーもゴブリンレンジャーも選べるし、ゴブリン以外もいくつか選択肢はある。


 でも。

 ニンゲンは、まだ遠い。

 残り99万9109ライフポイントって遠すぎゴブ! 俺あんなにがんばったのに! これいつになったらニンゲンになれるゴブ?


 でも俺は雑魚ゴブじゃなくてエリートゴブになったわけで、スキルも充実して、作戦を立てればボスオーガさえ殺れるようになったわけで! ここからどんどんLP溜めるのが加速してくって信じてるゴブ!


 だから。


『ありがとう、シニョン。俺、ぜったいニンゲンになるゴブ!』


 俺は、シニョンちゃんに言いきった。

 自分を奮い立たせるためにも。


 俺の宣言を聞いて、シニョンちゃんは頷いてくれた。

 信じてますよ、とばかりに。


 手を握ってきた。

 ゴブリンな俺の手を、握ってくれた。


『ゴブリオさんがニンゲンになったら、その時は』


 うつむきながらささやくシニョンちゃん。

 続きは言わせなかった。


 俺だって男ゴブ! ……男? オスって言うべき? ほら俺ゴブリンだから! 男ゴブリンとか女ゴブリンじゃなくてオスゴブリン、メスゴブリンの方がしっくりくるから! 鬼畜生!



『その時は……シニョン、俺の恋人になってほしいゴブ。俺、シニョンのこと、愛してるから』



 心臓がバクバクする。

 シニョンちゃんは顔をあげて。

 ニッコリと笑った。



『はい。私も、愛してます』



 …………。

 ……え、これ夢ゴブか? シニョンちゃんから好かれてるんじゃないかと思ってたけど、え、ほんとゴブ? だってゴブリオはいまもゴブリンで、シニョンちゃんと知り合ったときからゴブリンで、シニョンちゃんはニンゲンで、ゴブリンとニンゲンの恋愛って、いやでもシニョンちゃんはきっと俺の内面に、ピュアで善良な俺の心に惚れてくれたわけで。


 自分から言い出したくせに、俺はパニックになってた。

 シニョンちゃんが俺に顔を向けたまま、目を閉じる。


 おおお俺これ知ってるゴブ! ロマンチックな場所でおたがい愛し合ってるって確かめてそんで初めてでゴブリオはパニックでたどたどしくてでもこうやって徐々に距離が縮まってそっと……。


 唇が触れ合った。

 ゴブリンの俺と、ニンゲンのシニョンちゃんの。


 キスだ。

 ファーストキスだ。


『ゴゴゴゴブリオキスしちゃったゴブ! シニョンちゃんと! ファーストキスがシニョンちゃんってゴブリオ幸せすぎて死んじゃうゴブ! でも復活できるんだけど! ゲギャギャッ!』


 ゴロゴロ転がる俺。

 俺を見てクスクス笑うシニョンちゃん。


 照れくさくなって転がり続ける俺。

 私も初めてのキスでしたよって頬を赤くして言うシニョンちゃん。


 二人は幸せなキスをして結ばれ……ってそれはまだダメでした! 俺まだゴブリンだから! ゴブリンな俺がニンゲンのシニョンちゃんとエロいことしたら、いや純愛で結ばれちゃったら子供がゴブリンなわけでまだダメゴブ!


 くっ、はやくニンゲンになりたい! 俺ゴブリンだけど強くなったしいままでよりもっと早くライフポイント溜まるはず! 漁村でも港町でも、ゴブリンな俺でもニンゲンたちに受け入れられたけどニンゲンになりたい理由はそれだけじゃないゴブな!


 こんなに想い合っててでもガマンしないとって、ほんと神様は残酷ゴブなあ。

 これひょっとして【受難】のせい? シニョンちゃんの【受難LV2】のせい? それとも【運命神の愛し子】だから運命神がニヤニヤ笑いながら見てるゴブか?


 くっそ、俺は神の試練を乗り越えてニンゲンになってやるゴブ!


 なんたって俺、【小鬼の生還者(ゴブリンサバイバー)】だから!


 死んだって何度でも生き返って、ニンゲンになってやるゴブゥ!



10/25(水)は『ゴブリンサバイバー 3』の公式発売日です!

ということで、次話は発売日の10/25(水)18時に更新!


ちなみに次話が最終話で、『ゴブリンサバイバー』完結です!

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