第七話 はぐれ雑魚ゴブにはぐれ者仲間ができて俺はもうぼっちじゃない!
里から離れて、俺は二匹を追いかける。
ゴブリンに受け入れてもらえなかったオークと、半分以上カラダに鱗が生えたゴブリンを。
森で一人、いや、一ゴブってハードだからね! あわよくば一緒に暮らそうぜ! そんでもしもの時は俺の肉壁になってくれ!
……ゲスいな俺。さすがゴブリン。鬼畜生!
二匹を探すのは簡単だ。
俺にはスキル【覗き見】あるからね! というかあんまり離れてないしね!
小走りで追いかければ、すぐに二匹の背中が見えてきた。
デカいカラダを丸めて落ち込んだ様子のオークと、半分鱗ゴブリンの後ろ姿が。
ちょっと離れたところで足を止める俺。話しかけて、もし揉めても逃げられるように。
その時はがんばれよスキル【逃げ足】! 称号もなんか効果があるって信じてるぞ【森の臆病者】!
「なあ、ちょっといいかゴブ?」
あ、つい語尾にゴブつけちゃった。俺も立派なゴブリンになったなあ。まだゴブ生二日目だけど!
歩いてくる音で気づいてたんだろう。
慌てることなく振り返る半分鱗ゴブリン。
あ、オークの方はめっちゃビクゥッ! ってなってました。
「どうした? ああ、昨日里を追い出されたというゴブリンか。俺がいればそんなことはさせなかったものを。すまない」
…………。
え、なにコイツ? マジでゴブリン? 男は殺せ女は犯せでおなじみのゴブリンさん?
「え、あ、うん、あ、いや、それは気にしてないゴブ」
え、なに俺。マジ雑魚ゴブリン。落ち着け、言動がイケメンでも相手はゴブリンだ! 俺もだけど! とりあえずもう語尾にゴブってつけなくていいから!
「その、俺と同じで里を追い出されたみたいだし、一緒に行かないかと思って」
「なるほど、いい考えだ。オークはどうだ?」
うむ、とばかりに頷いて、隣にいるオークに問いかける半分鱗ゴブリン。
コイツ、元人間の俺より品性を感じるんですけど……ゴブリンやべえな。なんでコイツがボスじゃないんだ? 見た目か、見た目なのか! ゴブリンも見た目なのか!
「オデ、ズット一人。一緒、イイ」
また強烈だなおい! 一人称がオデってどういうことだよ! あと一人じゃなくて一オークな! ニンゲンじゃないからな!
「そうか、一緒がいいか。では共に行こう」
言い方言い方! かっこいいなおい! アニキって呼んでもいいですか!
ヤバい。
一緒に行くことにしたの、早まったかもしれない。
何がヤバいって、いつまでツッコミが抑えられるかわからない。
まあいいか、その時はその時だ。
行動イケメン鱗ゴブリンと弱気オークなら受け入れてくれるだろ。
キャラ濃いな!
これに俺、元人間のゴブリンの三匹で生活するわけだ。
ちょっとクドいな!
「よし! じゃあこれからよろしくゴブ!」
あ、また語尾のゴブが出ちゃったわ。これ種族特性かスキル【ゴブリン語】のせいなんじゃない?
とりあえず。
俺、雑魚ゴブリン。
今日からぼっちじゃなくなりました!
やった! 肉壁ゲットだぜ!
半分鱗ゴブリンが先頭で次にオーク、最後に俺。
三匹で向かったのは、半分鱗ゴブリンが狩りの休憩場所にしてるポイントだった。
生活には向かないけど、とりあえず休憩ぐらいはできるらしい。
たどりついた場所には、そこそこ大きい岩があった。
半分鱗ゴブリンは、狩りに疲れたら岩に寄りかかって休憩してたらしい。
背後を気にしなくていい分、警戒がラクなんだそうだ。
ほうほう、なるほど。
……ゴブリンでも警戒するヤツいるんだな! 里に案内してくれた六匹のゴブリンはまったく警戒してなかったけど! ボスの人選間違ってませんかねえ?
まあ追い出されたんだ、俺が気にすることじゃない。
ちなみにここはあのゴブリンたちの縄張りの中で、川にも近いらしい。
カンペキじゃないすか……アニキって呼んでもいいですか!
岩は横に長くて、縦もそこそこ。
俺と半分鱗ゴブリンとオークが並んで寄りかかってもちょっと余裕がある。
一番デカいオークの背も隠せるほどの高さ。
俺たち三匹は、そこに座っていた。
並び? 俺が真ん中だよ? ほら、左右どっちかから敵が来てもすぐ逆に逃げられるじゃん? どっちかを盾にして。ゲスいな俺!
さて。
ここに来る途中で川に寄って汲んだ水を一口。
一息ついたところで、話し合いの時間だ。
ここに来るまではモンスターを警戒して、ほとんど声を出さなかったからね!
「えーっと、二人、じゃなくて二匹? には名前とかあるのかな?」
俺は、人間だった頃の名前を思い出せない。
ゴブリンとしての記憶もない。
だから自己紹介もできなくて、とりあえずほかの二匹に話を振った。
先に自己紹介して怪しまれるのもアレだしね!
「俺に名前はない。好きに呼んでほしい」
「オデ、名前ナイ。オーク、名前アル、ボスダケ」
おう、やっぱりオークでいいんだね! まあ見るからにオークだもんね!
とりあえず、全員名前なしっと。
ゴブリンとかオークだと当然なのかな? いや知らんけど。
「えっと、じゃあ俺たち三匹は仲間になったんだし、一緒に名前を決めない?」
言い出したのは俺だ。
なんでかって?
半分鱗でおおわれたゴブリンはいいとして、オークは見分けがつかないからね!
別行動して合流したと思ったら『残念、別のオークでした! 死ねえ!』とかやられたら瞬コロっす! 俺が!
「ナ、名前、オデ、オデニ、仲間、オデニ、名前」
なにやらオウオウと泣き出すオーク。
俺が仲間だって言ったこと、名前をつけることがうれしいらしい。
ぼっちこじらせすぎだろ! 純情ぼっち弱気オークとか誰得だよ! そんなんじゃ女騎士に騙されるぞ! 搾り取られる系か! アリだな!
とりあえずまだ突っ込まない。
この二匹なら大丈夫な気はするけど、まだ。
「名前か、いい案だ。俺は何と名乗るか……」
アゴに手を当てて考えはじめる半分鱗ゴブリン。
このスキを逃す手はない。
ずっと思ってたことを口に出す。
「アニキ! アニキって呼んでもいいですか!」
「アニキ? 俺たちは兄弟ではないはずだが」
「いいんだ、なんとなくアニキっぽいから! ここに来るまでにもいろいろ教えてもらったし!」
「ふむ。そう言ってくれるなら、これからはアニキと名乗ろう」
よし、これで半分鱗ゴブリンはアニキだ! 別の名前つけてもアニキって呼んじゃいそうだしね!
あとほら、あんまり肉壁扱いするのもアレだしね。ゲスすぎるのもちょっとさ。
だからアニキって呼んでれば、そのうち情も芽生えるんじゃないかと思って。
「それで、キミは何と名乗るんだ?」
…………。
アニキ、二人称キミかよ! キザなゴブリンだな! ゴブリンがキザってすげえな!
さすがアニキな二人称を置いておいて、考える。
俺の名前かあ。
ニンゲンになるのを目指すわけだし、そのまま使えるニンゲンっぽい名前がいいなあ。
でも俺いまゴブリンだから、かけ離れた名前を名乗ってもなあゴブ。
うわ、すっげえ悩む。
ゴブ、ゴブリ、ゴブリン……。
うん、こういうのはもうインスピレーションだ!
おし、決めた!
「俺は今日からゴブリオと名乗るゴブ!」
ゴブリオ。
名字が五分か五部ってちょっと苦しい気がするけどまあなくもなさそう。
リオは獅子のレオンに通じるし、GOBLINにOつけただけでそれっぽくなったしいいんじゃない? N? 発音しないってことで! こまけえこたあいいんだよ! つづりだって合ってるか知らねえし!
五分 理生。
漢字で書くとちょっと苦しいけど。
「ゴブリオか、いい響きじゃないか。よろしくゴブリオ」
「おう、よろしくアニキ!」
よし、これで決まり!
今日から俺はゴブリオだ!
ゴブリオとして生きて、いつかニンゲンになってやる!
剣シカとかクマなモンスターとかニンゲンとか、危険な生き物がいるこの剣と魔法のファンタジー世界で生き延びて!
まずはこの森での生活を安全にしなきゃな!
大丈夫、俺はもうぼっちじゃないから!
俺ゴブリオとアニキと……あ。
「オデ、オデ、名前」
…………。
うん、俺がつける流れだよね。
名前、名前かあ。
オークの名前、何にするかなあ。