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ゴブリンサバイバー〜転生したけどゴブリンだったからちゃんと生き直して人間になりたい!〜  作者: 坂東太郎
『第四章 港町 デポール』

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第十九話 ゴブリンがニンゲンの街を守る。別におかしくもなんともないゴブな! オークだって一緒に守ってるし!


 オクデラは強オークに勝った。

 けっこうなダメージを受けて、シニョンちゃんの二回の〈領域治癒(エリアヒール)〉でもまだフラフラだけど。


 俺もオクデラも【体力回復】スキル持ちだけど、ボスオーガと違って回復は遅い。

 肩を砕かれたせいで左腕はだらんと下がってるし、いまも口から血を吐いてる。

 でも。


『オデ、ニンゲン守ル! プティ守ル!』


 オクデラは叫んで、アニキと戦ってるゴブリンの群れに突進した。

 いくら【鈍感】スキルがあって、たぶん痛みを感じにくいからって。


「あれもまた、見上げた(おとこ)よ」


 オクデラに目を向けたボスオーガが言う。

 腹心っぽい部下が殺されたのに、オクデラを讃えて。

 これが強者の余裕ゴブか! あとうすうすわかってたけど、こいつゴブリンやオークを仲間と思ってないゴブな! ついてくるから好きにさせてるだけで、君臨すれども統治せずみたいな! うん? ちょっと意味が違うゴブ?


 そんなことを考えている間にも、俺はボスオーガの攻撃をかわしてる。

 合間にボスオーガにナイフを投げてみたり、アニキのまわりにいるゴブリンに小石を投げて殺したり。

 余裕を持って【回避】できてるのは、ボスオーガがまだ本気じゃないからだろう。

 俺たち〈ストレンジャーズ〉の戦いっぷりを楽しむみたいに流してる。

 強者の余裕というか驕りゴブ! いまにほえ面かかせてやる!


 俺も余裕はあるけど、ボスオーガから離れようとすると追いかけてくる。

 逃がす気はないらしい。

 まだ本気出さないんだったら、オクデラとアニキの方を手伝いたいんだけど。

 ほらオクデラが強オークを倒したからオークの統率がとれなくなったみたいで、敵討ちみたいな感じでオクデラとアニキの方に殺到してるし。って、え?


『アニキ、オクデラ!』


『ゴブリオ、こちらの心配は無用だ! 俺は弟を、弟たちが守りたいものを守る!』


『オデ、死ナナイ! オークヲ殺シテ、ミンナ、守ル!』


 アニキの声が聞こえる。

 オクデラの声も。


 ボスオーガの蹴りをかいくぐって【覗き見】する。

 アニキは鱗を逆立たせて、ゴブリンとオークの棍棒を体で受け止めながらなぎ倒していた。

 スキル【鱗鎧化】と【打撃耐性】で弱い攻撃は効かないから、被弾覚悟で攻撃してる。

 オクデラは右腕一本でハルバードを振りまわしてる。

 内臓のダメージが抜けないのか、口から血を流して、ときどきフラフラしながら。

 おたがいを守って、二人でシニョンちゃんを守って。


 さっきこっちに来たオークの重装歩兵の残党の参戦で、二人はさらに押し込まれた。

 いまでは川を背にして、というかアニキはヒザまで水につかってる。

 まあアニキは【水中行動】を利用して、ゴブリンとオークが水辺では動きづらいのを狙ってるっぽいけど。


 逃げるなら、いまかもしれない。

 俺はボスオーガから逃げられないから、みんなを逃がすなら、だけど。

 アニキが手助けすれば、オクデラは泳げなくても舟まで行けそうだし。


 迷いながら、小舟の上にいるシニョンちゃんを見る。

 目が合ったシニョンちゃんはひとつ頷いて、オールを手にした。


『何してるゴブ!? シニョン、いまの目線は合図じゃないゴブ!』


『わかってますゴブリオさん! でもオクデラさんが!』


 ふらふらしてたオクデラは、だんだん顔色が悪くなってきてる。

 二回も〈領域治癒(エリアヒール)〉の魔法をかけたのに。


 シニョンちゃんが、んしょ、んしょ、とオールを漕いで舟を動かす。

 せっかく安全な場所にいたのに。


『アニキ! シニョンのカバーを頼むゴブ!』


『任せろ、ゴブリオ!』


 アニキはシニョンちゃんが近づいているのに気付いてたらしい。

 バシャバシャと水しぶきを跳ね上げて、まわりのゴブリンを駆逐していく。

 アニキはオクデラの背後を確保した。


『シニョン、弟のケガを治してほしい』


『はい、そのつもりです!』


 シニョンちゃんを乗せた舟は岸に近づいた。

 舟から下りて、川原にいたオクデラの背に触れるシニョンちゃん。

 ニンゲンの女が近づいて興奮する敵ゴブリンと敵オークを、アニキとオクデラが倒す。


 シニョンちゃんが岸にあがったのは、範囲型じゃない魔法を使うためだ。

 シニョンちゃんの【光魔法】、おっと、【神聖魔法】がLV3になって覚えた魔法は三つ。

 〈聖域〉、〈領域回復〉、そして。


『オクデラさん、もう大丈夫です! 神よ、癒しの奇跡を与え賜え。高位治癒(ハイヒール)!』


 〈高位治癒(ハイヒール)〉。


 オクデラの顔色がみるみるよくなっていく。


『シニョン、アリガトウ! オデ、戦エル!』


『あっ、待ってくださいオクデラさん! まだ左肩が!』


『離れろシニョン!』


 ジャンプしてきたゴブリンを棍で撃ち落として、アニキがシニョンちゃんの背中を押す。

 シニョンちゃんが舟に乗り込んだのを見て、アニキは舳先(へさき)を足で蹴った。

 さっすがアニキ、できる男ゴブ! 空間の確保も護衛も退避も完璧だったゴブな! まあ俺ならもっとうまくやったけど! なんたって俺エリートゴブゴブ!


 シニョンちゃんを乗せた小舟は川岸から離れていった。

 遠ざかる小舟を横目に、アニキは「女は犯せ!」ってテンション上がって殺到してくるゴブリンを蹂躙する。

 水辺のアニキは水を得た魚のようゴブ! アニキ、ゴブリンじゃなくてリザードマンっぽさが強くない? ゴブリザードマンは水辺にて最強ゴブか?


 シニョンちゃんの〈高位治癒〉を受けたオクデラは、重装歩兵の盾持ちオーク相手に奮戦してる。

 左手はまだ使えないみたいだけど、突進の勢いのまま盾にぶつかったり、力任せにハルバードを振るって。

 さすがオクデラ、やっぱり称号の【オーク the END】にはオーク特効がついてるゴブな! じゃなきゃいくら覚醒オクデラでも右手一本でオークの集団を相手できるわけないゴブ! オーク相手だと目が血走ってちょっと怖いのが見ててアレだけど!


 オクデラとアニキは、敵ゴブリンと敵オークを殺して数を減らしていってる。

 追加があれば別だけど、そのうちこっちに来てくれるだろう。

 シニョンちゃん? シニョンちゃんは魔法を四回使って、とりあえずまた川に避難ゴブ! 回復役を守るのは大事だから! シニョンちゃんは魔法を使う時以外はぼーっとしてるわけじゃないゴブよ? 俺たちの無事を祈ってくれてるゴブ! 〈聖域〉なんだし祈りにはきっとなんか効果がね? あるといいゴブなあ……。


 アニキとオクデラとシニョンちゃんの様子を見て、大丈夫そうだと安堵して。

 俺は、ボスオーガに向き直った。

 ボスオーガの、「そろそろ本気出そうかな」みたいな気配を感じて。


 というか前みたいに陽炎っぽいのが揺らめいてるゴブ! 強者のオーラ的な? ちょっ、オクデラとアニキが来るまで待ってくれませんかね? ダメゴブか?



  □ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □



 港町を囲う石壁の上。

 そこに男たちが並んでいた。


 兵士、冒険者、駆り出された住人たち。

 みな一様(いちよう)に街の外を見つめている。


 農地の先の草原を。

 迫りくるゴブリンとオークの大群を。

 たった四人で、5000の大群の前に立ちはだかったパーティを。


『すげえな〈ストレンジャーズ〉』


 ポツリと呟いたのは、漁村の冒険者ギルド職員、コワモテのおっさんだ。

 おっさんのまわりにいた冒険者たちが同意する。


 ゴブリンのゴブリオが切り込み、オークのオクデラが蹴散らし、ゴブリンだかリザードマンだかわからない新種のアニキがフォローして、ニンゲンのシニョンが回復する。

 オークの重装歩兵が揃って〈ストレンジャーズ〉に向かった時はどよめいたものだが、四人はそれさえ攻略した。


 そして、いま。


『なあおっさん、さっきのアレはオークの上位種だろ?』


『ああ、そうだろうな』


『マジかよオクデラ! 一騎討ちで勝ちやがった!』


『いやそれよりゴブリオだって! オーガを抑えてやがる!』


『待て待てアニキの的確なサポートがあってこそだ。お前らの目はフシアナかよ』


『それを言うならシニョンちゃんだろ! ほらいまだって! ……おっさん、あれ〈領域治癒(エリアヒール)〉か?』


『だろうな、明らかにオクデラが回復してる。〈聖域(サンクチュアリ)〉と〈領域治癒(エリアヒール)〉の重ね掛けだと……?』


 オクデラが、上位種と思われるオークを倒した。


 冒険者たちは大騒ぎである。


 ちなみに女性陣は海上に避難しているため不在だ。船を守るため、水棲種族の人魚も。

 ゴブリオ、女性にも人魚にもいいところを見てもらえなかったらしい。

 むさ苦しい男たちからは讃えられているが。


『あっ、シニョンちゃん!』


『それはヤベエって!』


 小舟が動き出す。

 シニョンがオールを漕いで、岸に近づけたのだ。


『おいおいどういうつもり、ああ、そうか!』


『オクデラの動きにキレが戻った。〈治癒(ヒール)〉、いや、〈高位治癒(ハイヒール)〉か?』


『よかったすぐに離れた! シニョンちゃんを戦場に近づけるなって!』


『でも回復させなきゃ厳しかっただろ? 敵はまだあんなにいるんだ。……こんなに』


 ゴブリオたち〈ストレンジャーズ〉は善戦している。

 5000という数にも怯まず、オークの上位種やオーガが出てきてもなんとか抑えている。


 だが、多勢に無勢なことは間違いない。

 オーガと戦うゴブリオ、オークとゴブリンを屠るオクデラとアニキ。

 その周囲には、2000ちょっとのモンスターがいる。

 大群のボスであるオーガの指示があれば、数の暴力で蹂躙されるだろう。


 それだけではない。

 およそ半数が〈ストレンジャーズ〉に引きつけられているが、港町には残りの2000ちょっとが向かってきているのだ。

 太鼓を鳴らして、ゴブリンとオークとオオカミが整列して。


『おい、ビビってどうすんだ。オーガはゴブリオのところにいる。こっちに来てんのは雑魚ばっかりだって!』


『そうだそうだ。ほら、俺たちは1500いるって領主様が言ってたろ? んじゃ数でもたいして負けてねえんだし』


『1500、なあ』


『どうしたおっさん?』


 もともと領主が保有していた兵力は1000ちょっと。

 だが、すぐには援軍が届かないと知って逃げ出した者たちがいる。

 そのうえでかき集めた冒険者と住人を足して、領主は1500だと言った。言い張ったとも言う。


 内情を知るコワモテのおっさんが、離れた場所にいる領主に目を向ける。

 領主の横には、長い髪を垂らした女性が立っていた。


『おいおいマジか、夫婦で参戦かよ……総力戦ってことか』


 女性が持つ長弓を見て呟くコワモテのおっさん。

 長い髪で顔の半分が隠れた女性は領主夫人らしい。

 声はおっさんに届かないが、女性はブツブツ呟いていた。


『使うのか……エルフの、【精霊魔法】を』


 おっさんは目を細めて女性を見る。

 なにやら訳知り顔だが、突っ込む者はいない。


 そして、女性が手をかざした。

 農地の先、戦場へ。

 〈ストレンジャーズ〉がいる方に向けて。


 何かが起きた様子はない。

 少なくとも、見た目には。



『オクデラ、アニキ、シニョン! 俺が殺られたら、わかってるゴブな?』


『オデ、ゴブリオ、信ジテル!』


『ああ。だが殺らせはしない。ゴブリオ、俺たちがここを片付けるまで耐えてくれ』


『ゴブリオさん……』



 まるで女性がかざした手に導かれるように、石壁の上に声が届く。

 遠くにいる〈ストレンジャーズ〉の声が。


『おっさん、これ……』


『領主夫人の【精霊魔法】だ。風で声を拾ってるんだろう』


『【精霊魔法】? じゃあまさか、領主夫人はエルフ!?』


『マジかよ! 俺、エルフ見たの初めてだ!』


『いや、純粋なエルフじゃない』


『えっ?』


 コワモテのおっさんの周辺も、それ以外の場所も、石壁の上はざわついていた。

 遠く離れた〈ストレンジャーズ〉の声が聞こえることに。


『どういうつもりだ? 我は避難しろと言ったはずだ。なぜここにいる? それに、この魔法は』


 領主夫人に話しかけたのは、夫である領主だった。

 領主に向けて微笑み、女性が口を開く。


『ゴブリン、オーク、リザードマン。この街のために、ニンゲンではない者たちが戦っているのです。ならばせめて私はこの目で見て、この耳で聞かなくては』


『おまえ……』


 そっと髪をかきあげた領主夫人。

 あらわになった耳は尖っていた。

 エルフよりも短く、だがエルフのように尖った耳。


 ハーフエルフ。

 エルフからは血を汚した者として、ニンゲンからは自分たちと違う種族として、両者から迫害される〈()()()()〉である。

 そして、領主が自らの領地の港町や漁村で『ニンゲンの言葉を理解して、害をなさなければ入れる』ようにした理由である。


 他種族であっても、混じり者であっても、たがいに理解し合えるのだと。

 普人族の貴族である領主が、ハーフエルフに求婚したように。

 ゴブリンとオークが、ニンゲンのために戦うように。


「**、********! ***************!」


 咆哮のようなオーガの叫びが聞こえてくる。

 石壁にいた兵士や冒険者が身をすくめるような迫力。

 だが、オーガの目前にいるゴブリオは動揺もなく立っていた。


 いや。


『たとえ勝てなくても! ここから先へは通さないゴブ!』


 堂々と宣言した。

 ゴブリンが、ニンゲンのために。


 兵士と冒険者と港町の住人と、領主夫妻は何を思ったのか。

 石壁の上が静まり返る。


 続けてまた、戦場から声が聞こえてくる。


 オーガと対峙するゴブリオではない。

 石壁にいるニンゲンたちでもない。


 小さな、けれど凛とした声。


 それは祈りだった。


『神よ、私を愛してくださる運命神よ。どうかご照覧いただけますように。姿形は人と違えど、善良で勇敢なこの者たちの戦いを。そしてどうか、この者たちに祝福を』


 小舟にひざまずいて巡礼者が祈る。


 空を覆う雲が割れ、光が差し込んだ。


『神よ、私を愛してくださる運命神よ。どうか私たちニンゲンに、勇気をくださいますように。敵に立ち向かう勇気を。姿形に惑わされず、ヒトを信じる勇気を。そして……弱い私の戦いを、見守ってくださいますように』


 雲の切れ目から差し込んだ光が巡礼者を照らす。


 天使の梯子(エンジェルラダー)


 それはまるで、神が〈愛し子〉の祈りに応えたかのようで。


 巡礼者は立ち上がり、オールを漕ぎ出した。


 敵が待つ戦場へ。

 仲間が戦う場所へ。

 シニョンの魔法を必要としている仲間の元へ。


 石壁の上は、ただ静まり返っていた。



次話、8/25(金)18時投稿予定です!

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