第十八話 純情弱気オークだったオクデラは覚醒してめっちゃ強くなってるゴブ!
会話に満足したのか、ボスオーガがゆっくり近づいてくる。
戦闘は止まってたけど、逃がしてくれる気はないらしい。
ほんとゴブリオもてもてで困っちゃうゴブ! ハハッ、笑えないゴブゥ!
ゆうゆうと歩いてくるボスオーガの攻撃範囲に入る前に、俺は『三番』の布袋から取り出した棒手裏剣を投げた。
ボスオーガは気にした様子もない。
そりゃそうだ、俺が狙ったのはオクデラと戦ってる強オークだからね! オクデラでもアニキでも、はやく片付けてこっちに参戦してほしいゴブ! 一騎打ち? なにそれおいしいの?
続けざまに強オークに向かって投げた棒手裏剣。
三本ヒットしたところで、俺は【投擲術】を諦めた。
もうボスオーガが目の前だから。
「さあ、死合おうぞ!」
お断りゴブ!
さっとしゃがんで、ボスオーガの蹴りをかわす。
耳元でゴッてすごい音がするけど【回避】できた。
前回はゴブリンリーダーだったけど今回はゴブリンレンジャーだからね! 身体能力もあがってるし【回避】はLV2になってるし【打撃耐性】もあるし! 時間稼ぎぐらいできるゴブ! できるよね? やってやるゴブ!
足を止めずにボスオーガのまわりをちょろちょろする。
ボスオーガの視線を、腕を、足を、全体をぼんやり【覗き見】して、動きがあったらさっと引く。
右手に持ってる短剣は普通のヤツで、【短剣術】の効果を発揮させるために持ってるだけだ。
左手は小石や棒手裏剣を持って、スナップを効かせて【投擲術】で攻撃する。
ボスオーガにはどうせ通じないだろうから小石を投げて、近くにゴブリンやオークが来たら棒手裏剣を投げて仕留める。
こつこつライフポイントを稼ぎながらアニキとオクデラの援護ゴブ! ボスオーガに攻撃しないのかって? コイツすぐ【体力回復】で傷が治っちゃうから、ちまちま攻撃してもムダゴブな! 俺、前回の戦いで知ってるゴブ!
ちょこまか【回避】して【逃げ足】を効かせて、ボスオーガから逃げまわる。
ついでにまわりを見ることも忘れない。
ほらアニキやオクデラがピンチになったら大変だからね! それにシニョンちゃんの小舟に乗り込まれたらヤバいゴブ! シニョンちゃんの法衣がビリビリ破かれておっぱいが見えちゃってぷるぷるで犯されそうになっちゃったら大変だから!
アニキは数に押されてるけど奮戦してる。
オクデラはガンガン音を立てながら戦ってる。
デカいヤツ同士の戦いは迫力があるゴブな! 一撃で即死なこっちとは違う緊迫感があるゴブ!
オクデラは強オークと渡り合ってる。
いくらシニョンちゃんの〈聖域〉の中で強オークが弱体化してるからって、一人で立派に。
さすが覚醒しただけあるゴブ! これもしオクデラが純情弱気オークのままだったら相手にならなかったゴブな! そこだ! いけ!
オクデラのタワーシールドと、強オークの大盾がぶつかり合う。
おたがいに弾き飛ばされて、距離が開いた。
「裏切り者よ、なぜ歯向かう? 俺たちの王についてこい! それだけ強ければ、あのニンゲンの巣を襲った後は犯し放題、食べ放題だぞ!」
オクデラに呼びかける強オーク。
えっと、ボスオーガ率いるゴブリンとオークの大群は人材難ゴブか? さっき俺も勧誘されたしオクデラも勧誘されてるゴブな? 強いヤツには聞いてみるルールでもあるゴブ?
そういえばボスオーガも強オークも、【ゴブリン語】を使いこなしてる。
オクデラはもともと【オーク語】スキルがなくて【ゴブリン語】しか話せないから、言葉が通じなくてオークの群れを追い出されたのに。
あれ、じゃあもしオクデラが生まれた群れにこの強オークがいたら追い出されなかったゴブか? オクデラが一人で森をさまようこともなかったし、純情弱気オークになることもなかったゴブか?
……それはそれでどうかと思うゴブ! そしたら俺と出会わなかったし!
ボスオーガの攻撃を【回避】しながら、そんなことを考えてた。
ボスオーガは、俺が仲間を気にしてることに気付いてるんだろう。
まるでウォーミングアップみたいに、自分の動きと体の調子を確かめるように攻撃してくるだけで、前回みたいな怒濤の攻撃はない。
だから俺は【回避】してまわりを見る余裕があるわけで。
ボスオーガの強者の驕りゴブなあ! コイツ、俺だけじゃなくてオクデラやアニキのことも気になってるゴブか? まさかシニョンちゃん目当てじゃないよね?
「断ル! ニンゲンハ、オデニ優シイ! オデ、ニンゲン守ル!」
オクデラが吠えた。
生まれたオークの群れから追い出されて、ゴブリンにも受け入れられずに、俺とアニキと暮らしたオクデラ。
はじめてオクデラを受け入れてくれた群れは、漁村・ペシェールの村人たちだった。
斧槍亭の若女将は俺たちを泊めてくれて、看板幼女のプティちゃんはオクデラと仲良しで。
オクデラにとって、守るべきものはニンゲンだ。
敵対するのは、オクデラが滅ぼすと誓ったのは、オークだ。
「グッグッグッ。バカなオークだ!」
強オークは嗤った。
当たり前なんだけどね! 中身は違ってもオクデラはオークだから! むしろ強オークの方がモンスターとしては当然ゴブ! ところでオークってそんな笑い方なの? コイツだけ?
「ならば俺は、さっさとお前を殺してニンゲンの巣を襲ってやる!」
強オークは大盾を前に向けて、槌を肩に担いだ。
「ニンゲンの味を知らんのだろう? ニンゲンは美味くてなあ、小さいニンゲンは俺の大好物だ! 柔らかくてなあ。それに、泣きわめく小さなニンゲンを喰ってやった時の、ニンゲンたちの顔!」
強オークは嗤う。
オクデラの動きが止まった。
「小サイ、ニンゲン? ……プティ?」
オクデラの呟きが聞こえる。
肌が赤みを増していくのは怒っているからか。
わなわなと、オクデラが震え出して。
「プティ、オデニ優シイ! プティ、トモダチ!」
オクデラは、タワーシールドを投げ捨てた。
自分の身を守ることを捨てて、ただ強オークを殺すことを考えているかのように。
「オデ、オマエ殺ス、ゼッタイ!」
オクデラはハルバードを、〈斧槍亭〉の若女将から託された斧槍を、大きく振りかぶって頭上に構える。
そのまま、強オークに向かって駆け出した。
俺が教えた突進、じゃない。
オクデラがニンゲンを守るために、ニンゲンの敵を殺すために、自分で考えて、自分で突っ込んだ。
防御を考えずに、オクデラは両手で斧槍を振り下ろす。
全力の一撃。
覚醒オクデラの【腕力強化】と【槍術】【斧術】、あとたぶん称号【オーク the END】のオーク特効を込めた一振り。
大振りでバレバレの一撃に、強オークは盾をかざした。
激突する。
オクデラの渾身の一撃は、強オークの盾を砕き、左腕を潰した。
でも、それまでだった。
攻撃をさばいた強オークが、右腕の槌を振るう。
がら空きの腹に当たって、オクデラは吹っ飛ばされた。
『オクデラ! 大丈夫ゴブ!?』
ボスオーガの股下をくぐり抜けて叫ぶ。
頭上は【覗き見】しない。
いま絶対いいところに入ったゴブ! 内臓は大丈夫ゴブか? オクデラはスキル【鈍感】があるって言っても痛くなければいいってもんじゃないゴブ!
オクデラはゴボッと血を吐いて立ち上がって。
ふたたび、駆け出した。
『オオオオオッ!』
俺が教えた突進のように、でもいつもと違って構えるのは盾じゃなく、斧槍を突き出して。
まるで、最後の力を振り絞った一撃のように。
『シニョン! 魔法を!』
オクデラがいるのは〈聖域〉の中だ。
川で小舟に乗ってるシニョンちゃんからは離れてる。
でも、〈聖域〉の中なら。
『はい、ゴブリオさん! 神よ、此の地に在りし者たちに癒しの奇跡を与え賜え。領域治癒!』
シニョンちゃんが新しく覚えた範囲回復魔法が届く。
走るオクデラの体が、やわらかな光に包まれた。
あとアニキと俺も。
なんか元気がわいてくる気がするゴブ! 俺はまだケガしてないけど! ともあれ、味方だけが対象なタイプの範囲回復魔法は便利ゴブな!
オクデラは気にせず駆けて。
「オデ、ニンゲン守ル! プティ守ル!」
盾を失った強オークに、体ごとぶつけて槍を突き刺した。
斧槍の先が強オークの背中から見える。
オクデラのひと突きは、強オークを貫通したらしい。
「グッ!」
まだ強オークは死んでない。
ヤバい。
イヤな予感がして、俺は短剣を投げた。
強オークが振り下ろした槌が、オクデラの左肩に当たる。
【聞き耳】の効果か、骨が砕ける音が聞こえた。
あっぶな、いま短剣が強オークの腕に刺さらなかったらオクデラの頭が潰されるところだったゴブ! トマトみたいに! 危うく汚い花が咲くところだったゴブよ!
強オークが倒れる。
オクデラはだらんと左腕を下げてるけど、立ってる。
勝った。
オクデラが、純情弱気オークが、中ボスっぽい強そうなオークに。
『シニョン!』
『大丈夫ですかオクデラさん! 神よ、此の地に在りし者たちに癒しの奇跡を与え賜え。領域治癒!』
呼びかけただけでシニョンちゃんはわかったみたいだ。
以心伝心ってヤツゴブな! これで三回目の魔法だけどオクデラのためには必要だったゴブ! あれぜったい鎖骨あたりが折れてるでしょ! いくら【鈍感】で痛みを感じにくくても、いま魔法を節約したらオクデラ戦線離脱しちゃうから!
「コレデ、オマエ、プティ、喰エナイ」
倒れた強オークを見下ろすオクデラ。
右腕一本で斧槍を振り、頭を叩き潰した。
トドメは大事だからねってオクデラえげつないゴブ! いや戦場じゃ必要なことだけど!
「ふむ。アヤツに勝つか。だがアヤツの動きが悪かったような」
俺と同じように戦いをチラ見してたボスオーガが呟く。
ちょっと首を傾けてる。
いやオーガが小首を傾げてもかわいくないから!
あと気のせいじゃないゴブか? 動きが悪かったって、そんなまるで毒でも効いてたみたいな、ねえ? 棒状の金属に塗ってた神経毒がまわってたけどデカい図体に対しては少量だったからちょっと動きが悪くなる程度だったみたいな、ねえ?
そんなのぜんぜん気のせいゴブ! さっき投げてた棒手裏剣? ゴブリオなんのことかわからないゴブ! ほら俺、鬼畜生だから! 卑怯な小鬼だから! ゲギャギャッ!
次話、8/18(金)18時更新予定です!





