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ゴブリンサバイバー〜転生したけどゴブリンだったからちゃんと生き直して人間になりたい!〜  作者: 坂東太郎
『第四章 港町 デポール』

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第十六話 けっきょくボスオーガと戦うことになったけど、ゴブリオうすうす予想してたゴブ!


 体の震えを抑える。

 重装歩兵オークを蹴散らして、オクデラが近づいてくる。


『ゴブリオ! オデ、ゴブリオ守ル!』


 今度こそ、俺を守るんだと。

 そんな俺たちを見て、ボスオーガはわずかに口元を歪めた。


 笑っているんだろう。

 いやほんとそんな俺たちなんてたいしたことないから! もっと強者のところに行ってほしいゴブ! ほら港町にはきっと俺たちより強いヤツがいるから! それで港町に侵攻してるゴブか?


『アニキ! 袋、ぜんぶ取ってきてほしいゴブ!』


『ゴブリオ……ああ、わかった』


 ボスオーガの登場で、俺たちを囲んでいたオークもゴブリンも引いた。

 このスキに、舟に積んでた荷物を持ってきてもらうようアニキに頼む。


 なんで逃げないのかって? 例えば森でクマさんに出会ったら一目散に逃げられるか想像してみるといいゴブ! 背中見せるってめっちゃ勇気いるから! いくら俺が【逃げ足LV2】持ちっていってもボスオーガはすぐ目の前でこれ逃げられるゴブか? アニキはともかく、オクデラは川に入る前に捕まっちゃうゴブなあ!


「我を前に逃げず、我に敵対する。その意気やよし!」


 そんな評価いらないゴブ! こっちは嫌々だから! 「その意気やよし」っていうか逃がしてくれないゴブか? ダメゴブ?


「王が戦うまでもありますまい。ここは俺にお任せを」


 ボスオーガの後ろから、さらにモンスターが現れた。


 戦化粧なのか、全身に黒い模様を描き、毛皮をまとったモンスター。

 手にしているのは大きな盾と槌。

 オクデラと同じような武器を持ち、オクデラ同様2メートル近い体格で、オクデラと同じオーク。


 ずいっとボスオーガの前に出る。


 え、ええー。

 コイツ明らかに雑魚オークより強そうなんですけど。

 ボスオーガだけでも無理ゲーなのに中ボスがいるとか聞いてないんですけど。


 動揺する俺の視界に、オークがもう一匹入り込んできた。

 俺の正面、敵側からじゃない。

 俺の横に、そして俺の前に出る。

 俺を守るように。


『ゴブリオ、心配イラナイ! オデ、強クナッタ!』


 オクデラだ。

 純情弱気オークだったオクデラが、俺を励ますように、守るために。

 盾を構えて、俺の前に立った。


 ……オクデラ強くなったゴブな! 戦闘だけじゃなくてハートが! ぷるぷる震えてた弱気オークだった頃が懐かしいゴブ!


 目の前にはボスオーガ、その隣に強そうなオークの上位種……長いから強オーク。

 ボスと中ボスの後ろには、雑魚ゴブリンと雑魚オークがうじゃうじゃいる。

 港町に向かってるヤツらもいるけど、半分ぐらいはこっちに来てるから雑魚は少なめに見積もって2000ちょっと。

 状況は最悪だ。


 でも。

 俺は、一人じゃない。


『モウ、ゴブリオ、置イテイカナイ! オデ、一緒ニ戦ウ!』


 絶望的な状況なのに、それでも俺の前に立つオクデラ。


『ゴブリオ、これはすぐに必要だろう? ほかはここに置いておく』


 舟から荷物を取ってきてくれたアニキ。


 おっ、さすがアニキ、気がきくゴブな。

 そうそう、『四番』の布袋はすぐ欲しかったゴブ。

 そのために手配してもらった武器が入ってるからね!


『神よ、姿形は人と違えど、困難に立ち向かう勇敢な者たちを見守ってくださいますように。願わくば、彼らに御力を』


 俺たちのために祈りを捧げるシニョンちゃん。


 俺は一人じゃない。

 ゴブリンとして生きて出会った仲間が、〈ストレンジャーズ〉がいる。


 俺は四番の布袋の口を開いて、鞘に入った短剣を腰のベルトに差し込む。


 俺たちの後ろ、港町にはコワモテのおっさんや美人受付嬢や若女将やプティちゃんや漁村の村人がいて、目つきがエロい行商人がいて、港町の住人がいる。


「あのゴブリンは我の獲物だ。譲らぬ」


「はっ。では俺は、同種の手で裏切り者の息の根を止めてやりましょう」


 だから俺は、絶望的な状況でも生き残るゴブ!


 ゴブリンサバイバーとして!


『オクデラ、俺はボスオーガを足止めするゴブ! あのオークを頼む!』


『ワカッタ! オデ、一緒ニ戦エル、ウレシイ! オーク殺ル、ウレシイ!』


 オクデラ、素直なところは変わってなくてよかったと思ったら、やっぱり血気盛んになってるのね! でもいまは【オーク the END】のオーク特効に期待しておくゴブ! そんなのついてるかわからないけど! あるって信じてる!


『アニキはオクデラと一緒に……ああいや、シニョンちゃんと舟を守ってほしいゴブ』


 二人掛かりで強オークをさっさと倒して、こっちに手を貸してって言おうと思ったら。

 ボスオーガと強オークの背後にいたゴブリンどもが、シニョンちゃんを見てゲギャグギャ騒ぎはじめた。

 ニンゲンの女がいるゴブ! 女は犯せ!っていつもみたいに。


 くっ、いまボスオーガ&強オークと俺たちのパーティ戦じゃないゴブか!? 雑魚が参戦して数で押してくるとかズルいゴブ!

 オクデラァ! なんとか強オークを倒してはやく俺を助けにきてね! 雑魚ゴブリンを蹂躙したアニキでもいいから! ボスオーガと一対一ってゴブリオ死んじゃうゴブ!


 ……あ、俺死なないんだったわ。死んでも復活できるんだったわ。

 それにほら、ライフポイントの供給源は腐るほどいるし。


 いよーし、ゾンビアタック開始ゴブ!

 生き残る? ゴブリンサバイバー?

 ほら最後に生きてるヤツが勝ちみたいなアレで! ゲギャギャッ!




 最初に動き出したのは強オークだった。

 盾を前に構え、槌を振りかざして走ってくる。

 それを見て、オクデラも同じようにタワーシールドとハルバードを構えて走り出した。


 ガゴッ! と大きな音を立てて衝突して、どっちも止まる。

 オクデラの突進を止めたヤツとか初めて見たゴブ! え、オクデラ一人にして大丈夫? アニキはゴブリンの群れと戦い出してて……ほらボスオーガ、ちゃんと統率して雑魚ゴブを押さえておくゴブ!


『オクデラ!』


『ゴブリオ、オデ、大丈夫! オデ、強イ!』


 足を止めてガコガコ打ち合いながらオクデラが叫ぶ。

 俺を心配させまいとしてるんだろう。


『わかった、オクデラ! ソイツは任せるゴブ!』


 そんではやく倒して俺のこと助けに来てね! いくらボスオーガでもみんなで戦えば勝てる、いや勝てなくても川を利用して逃げるぐらいはできるはずだから! できるって信じてる!


「まさかもう一度戦えるとは。ここまで来た甲斐があったものよ!」


 ゆっくりと近づいてくるボスオーガ。

 その手に武器はない。

 どうやら最初から本気で、得意の【格闘術】で戦うみたいだ。

 大丈夫大丈夫、前回はゴブリンリーダーだった俺がしばらく足止めできてたゴブ! いまの俺はゴブリンレンジャー! スキルも充実したエリートゴブの力を見せてやるゴブ!


 俺は走り出した。

 正面からゆっくり近づいてくるボスオーガに向かって、と見せかけて横へ。


「む?」


 ゴブリオの力を見せてやるゴブ! 元人間の頭脳と汚さをなあ! 一騎打ちって誰が言ったゴブ?


 俺は、まわりで戦いを見物していた敵ゴブリンの群れに紛れ込んだ。

 働けスキル【隠密】! ゴブリンの群れの中を【逃げ足LV2】と【回避LV2】で移動して、俺を見失ったボスオーガに【投擲術】でナイフをシュッとね! 卑怯? なんのことゴブか? こちとら鬼畜生のエリートゴブ! ゲギャギャッ!


 混乱する敵ゴブリンの隙間を【覗き見】して、投げナイフを投擲する。

 ボスオーガは裏拳でナイフを弾く。

 その後ろの、棒手裏剣には気付かずに。

 棒手裏剣はボスオーガの左のこめかみに当たった。

 惜しい! 最後に気付いて避けられなきゃ左目に当たったのに! 肌が傷付きずらいって、目や口の中もゴブ? その慌て方、そんなことはないゴブな?


 敵のゴブリンの一部は、統率を離れてシニョンちゃんの方に向かっていった。

 でも、ここには敵ゴブも敵オークも大量にいる。

 そんで俺はゴブリンレンジャーになって身体能力が上がってるしスキルもあるし、雑魚ゴブと雑魚オークの中を走るのなんて余裕になった。


 ついに俺はゴブリンとオークの肉壁を手に入れたゴブ! ゴブリンの里はすぐ追い出されちゃったし、アニキとオクデラはすぐ情が移っちゃったからね! すりつぶしていい肉壁ははじめてゴブなあ! ……ゴブ壁? オーク壁? 肉壁でいいか! 種類は関係ないんだし! ヒュー、鬼畜ゥー! ゲギャギャッ!


「ふむ……」


 ボスオーガがこめかみににじんだ血を拭うと、傷口はもうふさがってた。

 あいかわらず規格外の【体力回復】でズルい、とか考えてたら、ボスオーガがファイティングポーズをとる。


 イヤな予感がして、視線から【回避】する。


 ボスオーガが正拳突きをかまし、続けてミドルキックを放った。

 何もない空中に。

 でも。

 視線の先にいた敵ゴブリンが吹っ飛び、腹から血を流して倒れていく。


 …………。

 ……はい? コイツらぜんぜん当たらない場所にいたゴブな? たしかに突きと蹴りの延長線上だったけど。

 え? ボスオーガ、遠距離攻撃とかできちゃうタイプ? 遠当てってヤツ? それとも魔法? 魔力とか空気を飛ばして攻撃しちゃう感じ?


 ゴブリンが倒れ、俺とボスオーガをさえぎるものがなくなった。

 オクデラと強オークの雄叫びと武器を打ち合う音が聞こえる。

 あと、たらりと冷や汗が流れる。


「そこか」


 軽く腰を落として、ぐっと力を溜めるボスオーガ。

 またイヤな予感がするゴブ!


 俺がダイビングして緊急回避をはじめたところで、ボスオーガが飛んだ。

 はい美しいフォームの飛び蹴りですねってライダーキックっぽいんですけど! ボスオーガはモンスターの親玉で俺がレンジャーなのに、ボスオーガの飛び蹴りがライダーキックっぽいんですけど! 神様これどうなってるゴブか!? アイツが悪役じゃないゴブか!?


 ゴロゴロと地面を転がる俺ゴブリオ、ゴブリンレンジャーで〈ストレンジャーズ〉のリーダー。

 スタッと華麗に着地するボスオーガ、モンスターで大氾濫(スタンピード)を起こしたゴブリンとオークの親玉。


 なんか俺が悪役でボスオーガが主役っぽい!

 でもボスオーガが強くて武人っぽくてライダーキックしてても、俺の方が弱くても汚くても、どんな手を使ってでも勝ってやるゴブ! どんなに汚くても勝った方が正義! 生存競争じゃ当たり前ゴブなあ! イーッ!


 あ、逃げられればいいんだった。


 危ない危ない、乗せられてノリで死ぬところだったゴブ! あ、いつものことか! いつもそんな感じで死んでたか! ゲギャギャッ!



次話、8/4(金)18時更新予定です!

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