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第六話 醜いゴブリンたちだけどゴブリンたちなりにブサイクとかいるっぽいです。


 朝になった。

 あんまり寝れてないけど。

 木の枝に腰かけて、ちょっとウトウトしたぐらい。


 とりあえず……。

 スキル【夜目】便利だわ! 暗くても見えるってすげえ!


 夜の間、森には夜行性の動物やらモンスターやらがウロウロしていた。

 オオカミっぽい動物、フクロウっぽい鳥、普通のウサギにネズミっぽいヤツ。

 どれも大きさは動物と同じぐらい。

 だからモンスターなのか動物なのかわからない。


 体が大きくないからか、木に登れないからか、俺を襲ってくるヤツはいなかった。

 すぐ横をフクロウが通り過ぎて行った時はビビったけどね!

 アイツら暗闇を無音で飛んでくるとかヤバすぎでしょ!

 ……アレで大きいヤツとかいないよね? いたら瞬殺だよ? 俺が。


 いま、俺はゴブリンの里に向かってる。


 なんでかって?

 皮袋に水を補給したいじゃん?

 でも川まで行くの大変だし、例のクマなモンスターに遭遇したらヤバいじゃん?

 だから、ゴブリンの里で水をくんでこようと思って。


 ほら、アイツらがもしニンゲンに追いついて襲ってたら、主力はもういないわけで。

 追いつかなくて帰ってきてたとしても、バカそうだしイケるかなーと思ってたんだけど。

 そこまでバカじゃなかったらしい。


「臆病ゴブめ! 二度と俺の前に姿を現すなって言ったゴブ!」


 俺の前に、一番カラダがデカいボスゴブリンが立ちはだかる。


 ダメか。

 まあいいや、あわよくばって感じだったし。


 スゴスゴと引き下がる俺。

 けど、途中で足を止めた。

 なんか揉めてるのが目に入ったから。


「ボス! コイツ、どうするゴブ?」


「ああん? 昨日話しかけてきたヤツか。放り出せ、ゴブリンじゃないなら仲間じゃないゴブ」


 ゴブリンの集団に囲まれて、ぐりぐりと棍棒で突かれながら歩く一体のモンスター。

 ボスゴブリンの前に連れ出されたソイツは、ゴブリンの里に受け入れられないらしい。


 うん、そりゃそうだろ。

 ゴブリンの自覚がない俺でもわかる。

 ソイツ、ゴブリンじゃないもんね。


 デカいカラダを縮めて、怯えた目でボスゴブリンを見るモンスター。

 ちゃんと立ったら身長は2メートルぐらいか。

 太鼓腹で、豚のような鼻。

 ゴブリンと並び立つ有名なモンスター。


 オークだ。たぶん。

 というかこの見た目でオークじゃなかったら俺もゴブリンじゃないわ。


 そりゃ受け入れられないだろ。

 ここはゴブリンしかいないゴブリンの里で、ソイツ、オークだもん。


 むしろなんで里に入れると思ったし!

 里に溶け込めるわけがない、って俺はゴブリンなのに里に溶け込めなかったけどね!

 同族なのに! ぜ、ぜんぜん悔しくなんかないんだから!


 カラダはデカいのにゴブリンたちに突つかれて怯えるオークは、諦めたような目で里の外に歩き出した。


 う、うわあ、なんか関係ないのに俺の罪悪感がヤバいんですけど。イジメ、ダメ、ゼッタイ!

 どうせ里から追放されてんだし、これ以上悪化しないだろ。

 俺がビシッと言ってやる! と思って、歩き出した瞬間に。


 ゴブリンたちとオークの間に割って入る人影があった。


「そこまでにしておけ。受け入れられないのはわかるが、イジメることはないだろう」


 低くて渋い声。

 立場に理解をしつつも、イジメを咎めるその言葉。

 なにより語尾にゴブってついてない!

 その人影は。


 やっぱりゴブリンだった。


 期待した俺のこの悲しみをどうすりゃいいの……。誰か俺を救ってください……。

 一人、いや一ゴブ百面相する俺。

 そんな俺を誰も気にせず話が進む。


「ああん? てめえ、何様のつもりだ? ボスの俺に逆らうゴブ?」


 なあ、昨日から思ってるんだけど、ゴブってつくの会話の最後だけじゃね?

 ってことはコイツら実はゴブってつけなくても話せるんじゃね?


「そのつもりはない。ゴブリンの尊厳を貶める行動を止めただけだ」


 ……。

 …………。

 ヒュー! なにこのゴブリン!

 語尾にゴブってついてないし、尊厳とか言ってる! ゴブリンの尊厳って何ですかね!

 言葉も行動もカッコ良すぎるんですけど! アニキって呼んでもいいですか!


 顔? うん、まあね。ゴブリンだよね。

 というか顔の半分以上、鱗みたいな感じになってる。


 よく見たら顔だけじゃなくて、布を巻き付けた上半身も、腕も足も、肌が鱗っぽい感じになってる。

 そういうゴブリンの種類なのか、それとも何かの病気なのか。

 言動はイケメンだけど、顔は俺でもちょっと引くぐらいアレな感じ。


 どうやらそれは、他のゴブリンにとっても同じだったらしい。


「ゲギャギャギャギャ! 醜いゴブが何か言ってるゴブ!」


 あ、笑い声そんな感じなんだ。ゲギャギャ!


 ビクビクするオークを背中にかばう行動イケメンゴブリン。

 ボスゴブリンから笑われても、まわりのゴブリンが笑っても動揺しない。


 ハート強いなおい! さすが行動イケメン!

 アニキって呼んでもいいですか!


「せっかくリーダーにしてやろうって目をかけてたのに、醜くなって残念ゴブなあ?」


 語尾語尾ィ! 付けるならちゃんと付けるゴブ!


 あ、やっぱ権力闘争とかあるんだ。

 集団生活を送るんだ、まあ当然だよな。

 社会性のある動物だって群れの中で序列をつけるって言うし。

 それであの行動イケメンゴブは、見た目が劣化して序列が下がったと。

 異世界でもゴブリンでもブサイクは不遇とか……ツラいです……。


「リーダーなど気にしていない。望まれれば立つし、望まれなければそのままだ」


 ……。

 なんかすいません! 俺こんなんですいません! 行動イケメンゴブリンの凛々しさは俺のハートを突き刺すな! アイツ死体漁りとかしないんだろうな!


「チッ、調子に乗るなゴブ! てめえも追放だ! 見た目がおかしいゴブは俺の里にはいらないゴブ!」


 指を突きつけて、ビシィッ! と言い切るボスゴブリン。

 うん、俺から見たらお前たちの見た目もおかしいけどね? ゴブリンだし。小鬼だし。俺もそのゴブリンなんだけど!


「おら、さっさと出てけゴブ!」


「そうか。では荷物をまと」


「いますぐ出てけゴブ! てめえの荷物は俺たちで使ってやるゴブ!」


 ダンダンと地面を踏みならして、行動イケメンゴブリンとオークに詰め寄るボスゴブリンと愉快な仲間たち。


 ちょっと見た目が違うから排除するって、集団って怖いなあ。

 あ、ちょっとどころじゃなかったわ。一匹はオークだったわ。種族が違うわ。なんでゴブリンの里に来たし!


 俺がそんなことを考えていると、行動イケメンゴブリンとオークは、連れ立って森に消えていった。

 残されたのはボスゴブリンと取り巻き、泉の近くで見守っていたゴブリンたちだけ。


「よし、邪魔ゴブは追い出したゴブ! 昨日のニンゲンがいないか探しに行くゴブ! 見つけたら……男は殺せ! 女は犯せ! ニンゲン狩りゴブ!」


 ボスゴブリンの大声に、盛り上がるゴブリンたち。

 うん、どっちかって言うとお前らが狩られる方な。俺もだけど!


 …………そうだ!

 そこまで見届けて、俺は木の陰から離れる。

 たった今、二匹が消えていった方向へ。


 一人、いや一ゴブだと寝るのも大変だ。

 ゴブリンの里には受け入れられなかった。


 でも、ひょっとしたら。

 はぐれ者同士、一緒に生活できるかもしれない!

 そうすりゃいろいろ知識も手に入るし、夜の見張りだって交代でやればいい! 寝不足しんどいっす!

 狩りだって、モンスターに対抗するのだって一緒なら!

 いざって時は肉壁にすればいいしね!


 ……あ、うん、さっきの行動イケメンゴブリンより俺の方がタチ悪いわ。

 同じゴブリンで、俺は元人間だったのに! 鬼畜生!



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