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第五話 悪いことがさらに重なるってどうなってんの? あとゴブリオ雑魚過ぎて主人公でもなくなったゴブか? 前編

短めです。

主人公ゴブリオ視点ではありません。

ご注意ください。


 港町・デポール。

 海と川に面した港町は、石壁に守られている。


『うわあ、おっきい石!』


『プティ、これは小さな石を積み上げてできてるのよ』


『へええええ! すごいねえ、おかーさん!』


 港町に入った漁村の村人と冒険者たち。

 門を通って石壁をくぐり抜けた幼女は興奮しきりだ。

 若女将や周囲の村人は、そんな幼女を微笑ましく見守っていた。


 港町の陸側に設けられた石壁は高さ5メートルほど。

 幅は4メートルほどで、上は兵士が並んで歩ける広さがある。


『これなら安心だね!』


 木の柵しかない漁村で育ったプティちゃんはニコニコ笑っている。

 その笑顔と言葉で、漁村の村人も励まされようだ。明るい幼女である。


『みなさん、避難場所はこちらだそうです!』


 村人を先導するのは冒険者ギルドの美人受付嬢だ。

 港町で生まれ育った美人受付嬢は、街の門番から聞いてすぐに避難場所を把握したようだ。

 陸路で漁村から避難してきた一行は、ぞろぞろと港町を歩く。


『俺はちょっと抜けるわ。あとは任せた』


『お父さん? どこ行くの?』


『ああ、領主様に到着の挨拶をな。知らない仲じゃねえんだし、言っておいた方がいいだろ』


 美人受付嬢に声をかけたのは彼女の父親、コワモテのギルド職員だった。

 この男も港町が出身で、冒険者時代の拠点も港町。

 優秀な冒険者として、またその後はならず者も多い冒険者たちをまとめるギルド職員として、この地の領主と面識があるらしい。


『わかった。でも落ち着いてからでもいいんじゃ』


『情報は早い方がいいだろ。ってことで母ちゃんによろしく言っといてくれ。じゃあ行ってくる!』


『え? あ、うん。……あ! お父さん、まさか漁村の冒険者ギルドに押しかけてきたこと、お母さんに言ってないんじゃ!』


『娘よ、任せたぞ!』


『ちょっと待ってお父さん!』


 呼び止める愛娘の声を振り切って、ギルド職員の男は港町を走る。


 5000のモンスターの大群が近づいてくる港町。

 街には活気がなくなっていた。

 少なくとも、港から遠いこのエリアでは。




 港近くの高台にある豪奢な屋敷。

 その一室に、コワモテのおっさんギルド職員がいた。

 村人よりは良質な服を着ているが、それでもこの屋敷では浮いている。


『いくら大氾濫(スタンピード)ったって、街に活気がなさすぎる。なんかあったか?』


 一度受け入れてからは、ゴブリンのゴブリオにも変わらず接してきたコワモテのおっさん。

 おっさんは、ここでも変わらず話しかけていた。

 ここは領主の屋敷で、対面に座るのは領主なのに。


『そう、ただ篭城して敵の数を削り、援軍を待てばいい。物資の調達、補給、祝勝、復興、素材の売却。いつもならむしろ活気づくはずなのだがな』


 ぞんざいに話しかけられた領主だったが、気を悪くした様子はない。二人は知己なのだろう。

 どっかりとソファに体を預ける領主。

 ソファが、ミシッとイヤな音を立てる。

 貴族の屋敷に置かれているほど豪華でしっかりした造りのはずなのに。


 領主は単純に、太っていた。

 ぜい肉だらけの体をソファに沈め、ギラギラと装飾品を輝かせて領主が話を続ける。


『人の口に戸は立てられぬ。お主には我から話しておくか』


『何があった?』


『物資と援軍の到着が予定より遅れているのだ』


『はあ、お得意の権力争いってヤツで?』


『本国の腐れ貴族め、ヤツらは暗黒大陸をわかっておらぬ!』


 肥満体で、装飾過多な服と過剰なアクセサリーを身につけた領主がダンッと拳を打ちつける。

 ここで言う『腐れ貴族』は領主自身のことではない。別の意味の『腐っている』でもない。


『大変です領主様! あっ、失礼いたしました!』


『コヤツはかまわぬ。何があった?』


 領主とギルド職員、二人で話していた部屋に、部下らしき男が駆け込んでくる。

 客がいるのに入ってくるあたりそうとう慌てている、もしくは緊急の報告なのだろう。

 領主はこのまま聞くことにしたようだ。


『遭難者が流れ着きました!』


『それがどうかしたのか? 珍しくもあるまい』


『それが、その者が言うには……本国から送られた船団の一員だったとのことで……』


『は?』


『第一陣の援軍と支援物資は……航海中に未知のモンスターに襲われて、壊滅したと……』


 報告を聞いて領主の顔がみるみる青くなっていく。

 冒険者として経験を積んできた、コワモテのおっさんも。


『何隻か離脱して本国に逃げ帰ったようで……未知のモンスターのことが報告されれば、その』


『最悪だ。援軍も物資も、来ぬかもしれぬと言っているのだな? 危険な航路に船は出せぬと』


『……はい』


『ひとまずその遭難者をここへ連れてこい。ああいい、我が行く』


 体を起こしてソファから立ち上がる領主。

 ちらりとギルド職員に目を向ける。


『あー、俺は黙っておくが』


『人の口に戸は立てられまい。お主が黙っていても、いずれ我の街にウワサは広まるだろう』


 でっぷりした腹を揺らして歩きはじめる領主。

 箝口令を敷くつもりはないらしい。


『神は我らを見捨てたもうたか』


 領主は立ち止まって天を仰ぐ。天井しか見えないはずだが、そういうことではない。


『はっ、冒険者やってりゃこんな窮地はいくらでもある。まあ漁村の連中は任せとけ。それに……』


『それに?』


『案外、神様は見捨ててねえかもしれないぜ? これは乗り越えられるはずの神様の試練ってな』


『ふん。では矮小な人間は、せいぜい足掻くとするか』


『でかい体して『矮小』かよ。まあ俺も足掻いてくるわ。……足掻くのは、ニンゲンだけじゃないかもしれねえけどな』


 領主に続いて部屋を出るコワモテのおっさん職員。

 最後の呟きは、誰にも聞こえなかった。


 港町に攻め寄る5000のモンスターの大群。

 援軍と物資は遅れており、それどころか第一陣は届かない。追加で送られてくるかもわからない。


 港町・デポールは、かつてないほどの危機に陥ったようだ。


 まるで、神から試練を与えられたかのごとく。


書籍版の『ゴブリンサバイバー 1』ではシニョン視点を書き下ろしましたが、

webでは初めて?の主人公以外の視点でした!


『ゴブリンサバイバー 1』書籍発売後最初の週末を終えましたので、

次話からはいままで通りの更新ペースに戻します!

ということで次話は6/2(金)18時更新予定!

今話の続きで、ゴブリオ以外の視点で後編です。

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