第四話 ひさしぶりに〈ストレンジャーズ〉だけで野営、ってよく考えたら四人だけで野営するのは初ゴブな!
『このへん、異常はないゴブ?』
『ガキ、おまえ誰ゴブ?』
『いいもん着てるじゃねーかゴブ』
ヤンキーかよ! あと語尾のゴブが取って付けたような感じになっちゃってるから! いや俺もだけど!
『カシラに言われて来たゴブ。様子を見てこいって』
『ちっ、アイツか。ゴブづかいが荒いヤツに当たったゴブ』
『そんなこと言っておまえこの前ビビってたゴブ! ゲギャギャッ!』
ゴブづかいってなんだよ! そうだねお前らニンゲンじゃなくてゴブリンだもんね! あ、俺もでしたわ! 俺も鬼畜生でした!
『ニンゲンも見かけないしつまらないゴブ』
『んじゃカシラに異常なしって報告しておくゴブ……カシラはどっちにいるんだっけ?』
『ゲギャギャッ! コイツそんなことも忘れたゴブか!』
『バカなゴブゴブ! あっちに決まってるゴブ!』
バカはお前らだけどな!
草原の先、森の中で見つけたゴブリン五匹とオーク一匹の群れ。
俺はお仲間ゴブのふりして話しかけて情報を聞き出した。
ちょっと怪しまれたから一瞬焦ったけどコイツらやっぱりバカゴブなあ!
右手を背中にまわして、一つハンドサインを送って。
『おう、用が済んだらさっさと行くゴブ』
『そうそう、俺たちはこれからニンゲンを見つけて襲うゴブ!』
『男は殺せ! 女は犯せ! でっかいお祭りゴブ!』
後ろにまわした手で、俺は投げナイフを手にした。
『わかった、じゃあ用を済ませるゴブ』
『なに言ってんだ、カシラに伝えゴブッ!』
『おいどうした血が出てるゴブゴブッ!』
敵ゴブを殺すって用をなあ! 情報聞き出したら用済みで騙し討ちで始末するとかさすが鬼畜生! 卑怯? 何のことゴブか?
よし、まず二匹! 一本一殺って効率いいゴブな! やっぱり取っててよかった【投擲術】!
『コイツ、裏切りゴブゴブッ!』
はいコイツも語尾のゴブだか悲鳴のゴブだかわからない感じになりました! しょせん雑魚ゴブ、【短剣術】で一振り、おっと!
三匹目のゴブリンを殺したところで、残り二匹のゴブリンが武器の棍棒を振ってきた。
俺は難なくかわす。
ボスオーガの攻撃と比べたら止まって見えるゴブ! これ【回避LV2】がなくても余裕なんじゃない? 俺も強くなったゴブ!
さっと短剣を振って一匹仕留めて、まわりを【覗き見】する。
よしよし、増援はいないゴブな? そんでやっと俺を敵だって認識したオークはこっちを向いてていいゴブ? まあ注目させるために、俺が牽制でナイフを投げたんだけど!
ドタドタと音が聞こえてゴブリンとオークが振り返った時には、もう遅い。
タワーシールドを掲げたオクデラが突進してくる。
敵ゴブははね飛ばされて、木に打ちつけられてずるりと崩れ落ちた。
これもうシールドバッシュって威力じゃないゴブな! オクデラ凶悪すぎィ!
敵オークも倒れてちょっと転がる。
ぶつかった反動を利用して、オクデラは突進を止めた。
『オーク、オデノ敵!』
倒れたオークに容赦なくハルバードを振り下ろすオクデラ。
防ごうとしたオークの腕ごと断ち切って、斧の刃がぐちゃっと体に食い込む。
オクデラちょっとえげつなさすぎるんじゃないですかねえ! これひょっとして称号【オーク the END】のせいで性格まで変わっちゃってない? 大丈夫?
『ゴブリオ、無事カ? ケガ、ナイカ?』
オークが死んだのを見てとって、すぐ俺のことを心配するオクデラ。
落差がヒドいゴブ! いや根は変わってないみたいでうれしいけど!
『問題ないゴブ』
ぐっと親指を立てて答える俺、できる男ゴブリオ。
オクデラは小首を傾げている。
そりゃそうだ、サムズアップが通用するわけないゴブ! あと返り血を浴びたオークが首を傾げてもかわいくないから!
『耳だけ切り取って、さっさとここを離れよう』
そう言って、俺はゴブリンの右耳を切り取る。
猟奇的だけどこれは俺の趣味じゃなくて、討伐証明部位だからだ。
ゴブリンとオークの討伐報酬はたいしたお金じゃないけど、借金ができる可能性が高い俺としては見逃せない。
まあゴブリンとオークの体の中にある魔石は見逃すんだけど。
雑魚モンスターの魔石ははした金にしかならないし、これ以上血の臭いをさせるとマズイからね! オオカミ付きのゴブリンとオークのグループもいるし!
アニキはちょっと離れた場所でシニョンちゃんの護衛と周囲の警戒を担当してもらってるけど、ここはもう敵の本拠地と思った方がいい。
行商人と別れて各個撃破はじめたのが今日の午後からなのに、倒したのはこれでもう二グループ目だから。
雑魚ゴブとオークなら余裕だけど、次々に仲間を呼ばれたり包囲されたらたまったもんじゃないゴブ! ほんともう数ばっかり多くて四匹並べたら消えないゴブか? おっとそれじゃ俺がライフポイント稼げなくなっちゃう! さっさと死んで俺の糧になるといいゴブ!
『オクデラ、行こう。アニキに合流するゴブ』
『ワカッタ!』
布でオクデラの顔を拭いてやって、素直なオクデラを連れて。
俺は、アニキとシニョンちゃんが待つ場所へ戻った。
『アニキはともかく、シニョンは港町に行かなくてよかったの?』
『もう、怒りますよゴブリオさん。私だって〈ストレンジャーズ〉なんですから』
ぷくっと頬をふくらませたシニョンちゃんはかわいい、じゃなくて。
俺たちは今日の索敵と各個撃破を終えて、ニンゲンの道まで戻って広場で野営している。
もそもそと保存食を食べ終えたいまは雑談タイム、じゃなくて今後の方針を話し合っているところだ。
ちなみに火は焚いていない。
なんたって俺たち全員スキル【夜目】持ちだからね! 暗いところでも見えるってこういう時に便利ゴブ! 明かりをつけたらモンスターに見つかっちゃうかもしれないし!
『とりあえず、行商人と待ち合わせた三日後までは今日の感じを続けていくゴブ』
『ワカッタ』
『はい、わかりました』
『ゴブリオに任せよう』
…………。
……え、丸投げされたんですけど。
『ニンゲンの予想だと、大群の到着は一週間後らしいゴブ。行商人と会った時にニンゲンの情報を確認して、それからどう動くか決めるゴブ』
『ワカッタ』
『はい、わかりました』
『ゴブリオに任せよう』
…………。
……おいいいいい! みんなちゃんと考えて! いまゴブリオけっこう重要なこと話してるゴブ! 俺が〈ストレンジャーズ〉のリーダーで元人間で頭脳役だからってみんな丸投げしすぎィ!
頭を抱える俺。
オクデラとシニョンちゃんは純粋な目で俺を見つめてくる。
アニキはキョロキョロと周囲の警戒に忙しい。
おっと、警戒は【覗き見LV2】の俺の役目ゴブな! もういいか、リーダーで元人間で頭脳役の俺は三人から信頼されてるってことで! んじゃ俺の判断でやらせてもらうゴブ!
『任されたゴブ! でも違う意見があったら言ってほしいんだ。俺ひとりじゃ思いつかないこともあるから』
俺の言葉に力強く頷くシニョンちゃんとアニキ。
オクデラはきょとんとしている。
はいそこォ! わかってないゴブな! でもいつものことだしオクデラはそのままでいてほしいゴブ! オーク相手に鬼気迫ってたからむしろゴブリオちょっと安心しました! オクデラは小鬼でも大鬼でもないオークだし!
行商人と別れて、今日はちょっと動いただけで二グループを発見して潰した。
合計で15匹削ったことになる。
5000のうちの、たった15。
でも俺もトドメさしてるし、ライフポイントは溜まってきたゴブ!
いま71だから、行商人と再会するまでには100LPに届きそう! 夢の大台ゴブな! ニンゲンになるにはあと四ケタ足りないけど! ニンゲン遠すぎィ!
次に死んだら、俺はスキルを取ろうと思ってる。
ニンゲンになることを諦めたわけじゃないけど。
港町を攻めてくる5000のモンスターを率いているのは、あのボスオーガだ。
俺はボスオーガに勝てなかった。
俺とオクデラとアニキとシニョンちゃん、若女将とプティちゃんが生きているのは、あのボスオーガがたまたま見逃したからだ。
ボスオーガと再会したら、また同じことになるだろう。
いまのままじゃ俺に勝ち目はなくて、また見逃してもらえるかボスオーガの気分と運に任せるしかない。
そんなのイヤすぎるゴブ!
だから俺は、ニンゲンになるためにLPを溜めるんじゃなくて、LPを消費してスキルを取る。
何のスキルがあればボスオーガに勝てるかまだ思いつかないけどね!
とりあえずあの行商人が用意する武器に期待してるゴブ! ほらもし聖剣や魔剣が見つかったらあっさり勝てちゃうかもしれないし!
ムリっぽい? ダメダメそんなネガティブなことは考えちゃダメゴブ! お願いだからシニョンちゃんの【受難LV2】はしばらく仕事しないでください! 5000の大群プラスあのボスオーガって受難もいいとこだからおかわりはなしでお願いします神様ァ!
『ゴブリンサバイバー 1』発売後初の日曜、明日28日も更新します!
18時更新予定で、毎日更新は明日までかなあ。
■ ゴブリオ(ゴブリン)
【ライフポイント】
50 → 71
※護衛中に倒したモンスターも含めたポイントです