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第五話 はぐれ者、いや、はぐれ雑魚ゴブだと寝るのも大変すぎるんですけど!


 里を出た俺は、とりあえず来た道を戻る。


 ゴブリンたちは全員いなくなったわけじゃない。

 子供っぽいまだ体が小さいゴブリンや、メスっぽいゴブリンが里に残ってた。


 何が言いたいかっていうと、里から何も持ってきてません!

 俺、死体漁りはしたけど窃盗犯じゃないんだ!

 あれ? 死体から物を盗るってすでに窃盗のような?


 …………。

 うん、細かいことを考えるのは止めよう。


 そもそもここは剣と魔法のファンタジーで、モンスターがいる異世界だ。

 きっと法律とかいろいろ違うだろ。

 だからセーフ、セーフ!

 ……ゴブリンに適用される法律とかなさそうだけど。ゴブ即斬っぽいけど!


 里から持ち出せた物はない。

 でも逆に、何も取られなかった。


 俺の持ち物は、腰に巻いた布と毛皮、水が入った皮袋が二つ、棍棒がわりの木の棒、黒曜石っぽいナイフ。

 あ、木の実が入ってた空の皮袋は、里の泉で水を汲みました。

 物を盗んだわけじゃないしそれぐらいはね?

 ボスゴブリンたちがいなくなった後で、子供とメスの目線が痛かったけどそんなの気にしてられないよね!


 それと。


「よし、あった! まあそりゃそうだ、あれから二時間も経ってないしね!」


 里に行く前に木の根元に隠した、錆びたナイフ。


 ゴブリンの里を見たいまならわかる。

 これ、すげえ貴重品だ。


 ほかに金属の武器を持ってるのは、ボスゴブリンだけだった。

 ゴブリンの里は鍋なんかも見当たらなかったし、釘を使った様子もなかった。

 というか木を折ったり削ったりしてたぐらいで、ちゃんと加工した感じもなかったからなあ……。

 文明度低すぎィ!

 まあ高度な文明を築いてるゴブリンなんて物語でも少数派だけど!


 あ、あと一角ウサギの角も無事に拾えました。よしよし。


 さて、ここで問題が一つ。

 俺はゴブリンだから人里には行けない。

 森にいるしかないんだけど、ゴブリンの里は追い出された。


 ……今日どこで寝ようか。

 剣シカとかクマなモンスターがいる、この森の中で。


 空に夕焼けの色が広がるいま、かなり切実な問題だ。

 というかこの世界の夕陽も赤いんだなあ。


 暑さ寒さで言ったら、一晩過ごすぐらいは厳しくないと思う。

 モンスターのことを考えなければ。


 うん、来たら逃げるしかないよね。その時はがんばれ俺のスキル【逃げ足】! 【夜目】があるから夜でも安心だぞ! 寝なければ! 寝なければ……。

 あれ? そもそもゴブリンって夜に寝るのか? スキル【夜目】もあるんだし、モンスター的には夜行性なんじゃないの?


 うん、いまはわからないし考えるのは止めよう。

 現実逃避も止めよう。


 夜が迫ってる。

 どうすっかなあ。


 実はもう、だいたいの場所は決まってる。

 ゴブリンの里から見えないぐらい離れた場所で、でもゴブリンの里の近く。


 なんでかって?

 強そうなモンスターとかニンゲンに襲われたらゴブリンの里に逃げ込むからですよ!

 アイツらが相手してる間に逃げるからですよ! ヒュー、外道ー! まあしょうがないよね、俺ゴブリンだし! 鬼畜生だし!


 錆びたナイフを拾い直した俺は、まわりに注意しながら森を歩く。

 モンスターを警戒して、仮の宿にできそうな場所を探して。


 大岩とか倒木とか、窪みとかあるといいんだけど……。

 それか、木の上にするかなあ。


 そういえばこの世界の鳥をまだ見てない。

 ただの鳥じゃなくてモンスターとかいるんだろうなあ。

 ああ、木の上だと猿系のモンスターもあり得るのか。


 悩ましい。

 まあ悩んでもしょうがないんだけど! だって情報がないもの! もうね、運だよ運! はあ、なんで俺ゴブリンの里であんなこと言ったんだろ。

 しばらくガマンして里で生活できれば、いろいろ知識を得られたはずなのに。


 まあ落ち込んでもしゃあない! 切り替え切り替え!

 パンッと頬を張って気持ちを奮い立たせる。

 落ち込んでたらマジで死ぬからね。

 くよくよしないで野営の準備しないとやばいからね。


 よし、やっぱ木の上にするわ! 鳥とか猿系のモンスターが怖いけど、いないかもしれないし! 地上には、頭から剣が生えたシカとかゴツいクマがいるのは確定だし! 鳥とか猿が来たら地面に逃げるってことで!


 まわりを見ながら森を歩いているのに続いて、ちょいちょい木を見上げる俺。

 ツリーハウスを作るつもりなら木の種類とか枝とか気になるけど、一晩ならわりとどうでもいい。

 いまから横になれる場所を作れるわけないし、座れればいい。


 良さげな木はすぐ見つかった。


 さっそく近くの木に巻き付いてるツタを黒曜石のナイフで切る俺。

 うん、もうあれだ、この黒曜石っぽい石は黒曜石でいいわ。


 長いツタ、ゲットだぜ!


 グルグルまとめたツタの片方の端を右手で握って、木の後ろにツタの束をまわして、左手でもツタを握る。

 両手で木の幹を掴むと、木の後ろ側にまわったツタの束が引っ張られる感じ。

 これでとっかかりがなくても木を登れる。


 俺、なんでこんなこと知ってんだろ。

 ニンゲンだった頃はサバイバルでもしてたのかな?


 思い出せそうもないのでそんな疑問もスルー。

 スルーばっかだな俺。


 木の幹に両足をかけて、尺取り虫みたいに木を登っていく。

 足で木を掴む。

 体を伸ばして手とツタで木を締め付けて、体重を支える。

 体を曲げて足を引きつける。

 足で木を掴む。その繰り返し。


 地面から5メートルぐらい、狙ってた枝にすぐ到着した。

 あんまり登りすぎるとすぐ下りられないしね。


 太い枝に腰掛けて、ふうっと息を吐く俺、ゴブリン。

 この後は適当にまとめただけのツタをねじり合わせてロープがわりにしたい。

 命綱と、下まで急いで下りる時に使えるように。


 でもとりあえず休憩。

 やっと落ち着けたから。

 腰に付けた皮袋を外して水を飲んで、ひと息。

 激動の一日だった……。


 気づいたらなぜかゴブリンで、お仲間ゴブはニンゲンを襲おうとして別のニンゲンに瞬殺されて、死体漁りして森に来て。

 明らかに俺より強そうなモンスターたちを見かけて、ゴブリンの里から追放されて。


 今日だけで何度死にかけたことか。

 むしろ、俺よく生きてますわ。


 転生っぽいのにゴブリンでチートなしって、ちょっとハードすぎませんかねえ。

 まあレベルアップとか進化とかあるかもしれないけど! あるといいなあ! はあ。


 ああ、なんでかスキルが表示されたりもしたなあ。

 しかも日本語で。


 よし、意味がわからない。

 考えるのは明日だ、明日。

 明日考えたところで何もわからなさそうだけど!


 明日、明日か。

 明日も生き延びよう。

 はあ、ニンゲンになりたいなあ。

 そうすれば今ごろあのニンゲンたちと一緒にいたか、道を歩いていたか、人里にいたのに……。



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