第二章 プロローグ
俺は、気づいたら森にいた。
しかも身長は130センチメートルぐらいで、耳は尖り、ワシ鼻で、額に小さな角があって、緑色の肌で。
ゴブリン。
よくファンタジーに出てくるゴブリンそのもの。
俺、元人間なのにゴブリンになってました。
戸惑いながら森をうろついてたら、同族のゴブリンから村八分にされて、同じはぐれ者、いや、はぐれゴブのアニキと、オークのオクデラと一緒にサバイバル生活をはじめて。
それからは大変だった。
元人間として、ゴブリンたちに捕まったニンゲンの女の子を助けようとした俺をかばって、アニキが行方不明になって。
ニンゲンがゴブリンの里を壊滅させて、今度はニンゲンの盗賊に捕まえられたニンゲンの女の子を助けようとして。
そんで、俺は死んだ。
あっけなく。
そしたら変な空間にいて、ライフポイントとやらを消費して『種族』と『スキル』を選んで復活できた。
まあライフポイントがあんまり溜まってなくて、また雑魚ゴブリンで【人族語LV1】を取っただけなんだけど!
それから俺は、オクデラとニンゲンの女の子・シニョンちゃん、三人で生活してる。
元人間で雑魚ゴブリンの俺。
オークなのに【ゴブリン語】しかしゃべれなくてEDで純情で弱気なオクデラ。
ニンゲンの残酷さを見てニンゲンが怖くなっちゃったニンゲンの女の子・おっぱいちゃん、違う、シニョンちゃん。
んんー、ポンコツ三人組! あらためて見るとヤバいなコレ!
俺とオクデラは、意味もなく拠点で暮らしてるわけじゃない。
追いかけても痕跡が見つけられなくて、いまは行方不明だけど。
俺たちは、ここで待ってるんだ。
アニキの帰りを。
顔の半分と体がウロコっぽいものに覆われたゴブリンで、里のゴブリンたちから追い出されて、俺たちと暮らしてたアニキ。
森の知識と戦闘能力で俺たちにいろんなことを教えてくれたアニキ。
俺が里のゴブリンからシニョンちゃんを助けようとしたら「俺の弟がニンゲンを助けようとしている。理由なんてそれで充分だ」って俺をかばってくれたアニキ。
オクデラがシニョンちゃんを担いで、俺と一緒に逃げ出したら「俺の分まで頼む! 犯して孕ませて強い群れを作れ!」って俺たちにエールを送ったアニキ。
あ、これは思い出す必要なかったわ! 賢くて頼れる俺たちのアニキだけど、アニキも立派なゴブリンだったわ! あれ、これアニキ帰ってきたらシニョンちゃんヤバくね?
まあいっか、その時はその時になったら考えるってことで!
「ゴブリオ、準備、モウスグ! ガンバレ!」
「おうオクデラ! 大丈夫、今度は油断しないゴブ!」
いま、俺は森を走ってる。
剣シカに追いかけられて。
いつかと同じように。
そう、これはリベンジってヤツだ。
ライフポイントが残っている限り、俺は死んだらあの空間に行って種族もスキルも選べる。たぶんだけど。
しかも一度獲得したスキルは、ライフポイントの消費なしでゲットできる。
ヒャッハー、ついにチートきました! とか調子に乗ってた俺は、剣シカに挑戦してあっさり殺された。
油断しまくって。
いや相討ちだからね! それにムダに死んだわけじゃないから! 雑魚モンスターは一匹1ライフポイントだけど、剣シカ倒したら2だってわかったから! ムダ死にじゃないゴブ!
これはリベンジってヤツだ。
もうちょっと、もうちょっとで予定のポイントだ! 働け俺のスキル【逃げ足】! よし、いまだ!
俺は走りながら半身になって、剣シカの足にボーラを投げる。
ボーラは、ロープの両端に石をつけた狩りの道具だ。
この前はただ走って落とし穴に剣シカを落としたけど、よく考えたらコイツら落ちる前にジャンプしたら回避できそうだし。
俺の後ろを追いかけてきた剣シカの足に、ボーラが絡まった。
剣シカが前のめりにこけて、勢いのまま転がる。
よしよし、作戦通り! そのスピードがアダになったゴブなあ! ほーら、転げる先は落とし穴ゴブ! 剣シカころりんすっとんとん!
ゴロゴロと転がった剣シカは、オクデラが掘って、俺が隠した落とし穴に落ちた。
「ゴブリオ、ヤッタ! ゴブリオ、スゴイ!」
落とし穴の近くで待機して、俺を見守ってたオクデラは大喜びだ。
どんな感じかと、足を止めて様子を見る俺。
剣シカは落とし穴に落ちて、底に固定しておいたニンゲンの剣と、何本もの一角ウサギの角にブッスリ刺さってた。
ボーラに足を取られて転んだからか、横向きで脇腹をさらして。
さすがモンスター、まだ息があるゴブな! でもこの前の剣シカより弱ってるゴブ! そりゃそうだ、一角ウサギの角も増やしたし、ボーラが足に絡まってバランス取れなかったもんなあ。ゲギャギャッ!
この前は油断して相討ちになったけど、もう俺は油断しないゴブ!
まだ息がある剣シカを見ながら俺は、一角ウサギの角をつけた槍を投げ込む。
一思いには殺ってやらないゴブ! 単に俺に力がなさすぎるだけなんだけど! 油断して近づかないで、剣シカが死ぬまで槍を投げまくってやるゴブ!
この前は落とし穴に飛び込んで一撃でやろうとして、剣シカがぐにゃんって首を曲げて攻撃してきた。
だから俺は、今度は近づかないように攻撃を続ける。
ゴブリオ学んだ、手負いの獣は危ないゴブ!
死んだかどうかどうやって確かめるって?
モンスターなら簡単ゴブ! 俺のライフポイントが増えるからね、死んだかどうか近づかないでもわかるゴブ! 単純だけどサバイバルライフじゃけっこうチートゴブ! ゲギャギャッ!
頭の中でスキルウィンドウを見る俺。
■ ゴブリオ(ゴブリン)
【ライフポイント】
16
【スキル】
夜目、ゴブリン語:LV2、覗き見、逃げ足、人族語:LV1
【称号】
森の臆病者
前に剣シカに殺られてから、というか最初の生き直しの時からスキルは増えてない。
なにかスキル取ろうかと思ったけど、その時は雑魚ゴブリン選んだらあと12しかライフポイントがなかった。
言語以外のスキルはライフポイントが10以上必要で、2しか残らないのはちょっと怖くて見送った。
さすが【森の臆病者】! 2残るなら【投擲術】あたり取ればよかったゴブ! そうすればきっとこんなに何本も投げなくても……あ、ライフポイント18になった! よし、無傷で剣シカ仕留めたゴブ!
「オクデラ、やったぞ! 剣シカを殺ったゴブ! 今夜はお祭りゴブ!」
「ゴブリオ、スゴイ! ゴブリオ、強イ!」
ぴょんぴょん飛び跳ねて、手を取ってキャッキャと喜ぶ俺とオクデラ。
いや、ゴブリンとオーク。
うん、まったくかわいくない。
せめてシニョンちゃんを連れてくればよかった! 小躍りするゴブリンとオークとか誰得だよ! まったくかわいくねえな!
すぐに正気に戻る俺。
「血の臭いがするからここでざっと捌いて、あとは拠点でやるゴブ」
「ワカッタ、オデ、ガンバル!」
「いやオクデラ一人でやらなくていいからね? 俺も手伝うゴブ!」
持ってきたロープをさっそくほどいて、やる気満々のオクデラ。
健気すぎるオクデラを止めて、とりあえず俺が落とし穴の中に入る。
上からロープを下ろしてもらって、剣シカの体にロープを巻き付けていく俺。
あ、ちなみにこのロープは盗賊のアジトからいただいたヤツです! いただいたっていうか盗んだんだけど! しょうがないよね死体には必要ないから! さすがゴブリン、鬼畜生!
ロープで剣シカを固定したら、オクデラに引っ張り上げてもらう。
直接じゃなくて、一度太い木の枝を通してオクデラの体重を利用すれば、ラクに剣シカは引っ張り上げられる。
俺はニンゲンの剣とか一角ウサギの角を抜いて、回収する係だ。
そういえば、ライフポイントを溜めるために俺はモンスターを殺しまくってるし、オクデラもこうして付き合ってるけど、俺もオクデラも、スキルと称号に変化はない。
■ オクデラ(オーク)
【スキル】
夜目、ゴブリン語:LV1、鈍感
【称号】
オーク the ED
オクデラは【鈍感】で【オーク the ED】のままだ。
不憫すぎるぞオクデラァ! でもいいヤツなのは俺がわかってるから! いつかきっと報われるから! がんばろうなオクデラ!
スキルは生まれつきなのか、それとも見えないけど熟練度みたいなのがあって、いつかスキルが手に入るのか。
その辺はわからない。
わからないというか、今日シニョンちゃんに聞くことになってる。
シニョンちゃんはすっかりニンゲンが怖いらしくて、まだ街に帰れないみたいだ。
ついでに今日、シニョンちゃんのスキルと称号も聞いてみようと思ってる。
一緒に森でサバイバル生活をする以上、知っておいた方がいいと思って。
なにしろシニョンちゃん、ちょっと襲われすぎだからね! 俺が知ってるだけでゴブリンから二回、ニンゲンから一回襲われてるゴブ! どこの桃のお姫様だよ! それともアレか、あのおっぱいは魔性ゴブか! 俺も何度手が伸びそうになったことか……ダメダメ、ゴブリオ、ジェントルゴブ!
オクデラが剣シカを吊り上げて、俺は血を抜いてモツを抜いているところだ。
盗賊からいただいた、ナイフを使って。
さすが金属、斬れ味バッチリ! やっぱり止められないね死体漁り! あ、違った、盗賊のアジトは狭い洞窟だったけど宝箱がいっぱいあったゴブ! ぬののふくとか、かわのよろいとか入った宝箱が! ゲギャギャッ!
「よしオクデラ、ここまでにしよう。時間経ったし、さっさと離れた方が良さそうゴブ」
あたりには血の臭いが広がってる。
ほかのモンスターや獣が近づいてくる前に、俺とオクデラはこの場を離れた。
しょせん俺たちは雑魚ゴブリンとオークだからね! 森の強者にはかなわないゴブ! そうだ、シニョンちゃんからこの森の生態系も聞いてみようっと!
ともかく俺は、剣シカにリベンジを果たした。
これでライフポイントは18。
次に死んだら武器系スキルか【投擲術】あたりを取ろうかな! これで一つ強くなるゴブ! 強ゴブリンでチートで無双する日も近いゴブな!
違う違う、俺はニンゲンを目指すゴブ! これでまた一歩ニンゲンに近づいたゴブな!
ニンゲンになるには100万ライフポイント必要だから、あと999,982ライフポイント!
…………。
先が長すぎだろ……なんだよ100万ライフポイントって……。
はやくニンゲンになりたいゴブ!
そしたら街で文明的な生活をしたり、美味しいものを食べたり、おっぱいちゃんとデートしたりイチャイチャしたり、あ、ああ、あんなこととか、こんなこととかしちゃったり……ゲギャッ。
とりあえず。
今日は鹿肉パーティゴブ! 焼くと匂いがするから生だけど! そのせいでシニョンちゃんは木の実と果物しか食べてないけど! はやく文明的な生活がしたいゴブゥ!
章タイトルは変更する可能性があります。
■ ゴブリオ(ゴブリン)
【ライフポイント】
16
【スキル】
夜目、ゴブリン語:LV2、覗き見、逃げ足、人族語:LV1
【称号】
森の臆病者
■ オクデラ(オーク)
【スキル】
夜目、ゴブリン語:LV1、鈍感
【称号】
オーク the ED
■ シニョン(普人族)
不明





