第十八話 ニンゲンたちが鬼畜すぎて鬼畜生なゴブリンとしてはどん引きなんですけど!
ニンゲンたちがゴブリンの里を蹂躙したのを見届けて、俺とオクデラは拠点に帰ろうとしてた。
そこで遭遇した聖職者の女の子は、前に俺たちが助けてあげたのを覚えてたらしい。
ゴブリンとオークの俺たちを見逃してくれたんだけど……。
なんであんな場所にいたのか気になって、引き返した俺は見た。
田舎の若者っぽい男が縛られているところを。
二回もゴブリンに襲われそうになった女の子が、今度はニンゲンに縛られてるところを。
おいニンゲン、学習能力ゥー!
どうなってんのよおっぱいちゃん! 襲われグセでもあるのかな? そうだね縛られてるからおっぱいすごいことになってるもんね! すばらしい眺めゴブ!
『****! **********』
『**、************!』
俺を見逃した三人のニンゲンのうち、ヒゲ面のおっさんは盗賊とグルだったらしい。
縛られてる二人をニヤニヤ眺めながら、盗賊と仲良くしゃべっている。
おっぱいちゃんのおっぱいを見つめながら。
うん、なんとなく何言ってるかわかるわ! 「俺が一番な」とか言ってるんだろ! おっ、俺【ニンゲン語】わかるようになったのかな? 違った、俺もゲスかっただけゴブ! しょうがないよね、俺ゴブリンだから! 鬼畜生!
盗賊は四人、プラスヒゲ面のおっさん。
ここで奇襲しても無理だろうなあ。オクデラは手伝ってくれるかもしれないけど、俺、雑魚ゴブリンだし。
んじゃ音を立ててほかのニンゲンかモンスターを呼んでくるとか?
この距離じゃ聞こえるかどうか微妙ゴブ。
それに、その後必死で逃げなきゃいけなくなるしなあ。
何しろゴブリンの里にはあの鉄兜がいるからね! アイツ怖いゴブ! ゴブ即斬しか考えてなさそうゴブ!
うん、とりあえず後を追ってみよう。
ニンゲンとかモンスターに見つかったら、混乱してる時に助けるって方向で。
そう都合良くいかなさそうだけど。
何しろあの女の子襲われすぎだから。
「オクデラ、見つからないように追いかけるゴブ」
「ウン、ワカッタ、ゴブリオ」
……なんで追いかけるのか疑問持っていいんだぞオクデラァ! どう考えてもいま追いかける必要ないゴブ! ニンゲンなんて放っておいて拠点に帰れば平和だからね!
うーん、これが終わったらオクデラにいろいろ考えさせるようにしないと。
そんでちょっとは自信持ってもらわないと。
そうすればED治るかもしれないしね! がんばろうなオクデラ!
俺がどうでもいいことを考えているうちに、ニンゲンたちは森の奥に進んでいってた。
この森の先は、西側がずっと崖になってる。
ニンゲンたちが向かっているのはそっちだ。
森の奥、崖の方へ。
オクデラは俺よりだいぶ後ろを歩かせて、気づかれないように慎重にニンゲンを追う。
田舎の若者な男は縄で縛られて歩かされて、女の子は盗賊の一人の肩に担がれてた。
盗賊とヒゲ面の男は会話をしながら歩いて、時々、田舎の若者を殴る。
おうっふ、いまの腹パン絶対いいところに入ったゴブ! 訓練の時に、オクデラがアニキのみぞおちぶっ叩いたみたいに! うん、あの時はごめんアニキ! イジメ、ダメ、ゼッタイ!
あと肩に担いだおっぱいちゃんのお尻を触ったヤツ! うらやまし……じゃなかった動けない女の子にそんなことするなんて許せないゴブ! ああっ、おっぱいも触りやがって! 俺ゴブリンだけど助けた時そんなことしなかったジェントルゴブゴブ! ゴブリン以下だなニンゲン!
そんなどうでもいいことを考えながら、ニンゲンを追って、一時間ぐらい経った頃。
ニンゲンたちは、ようやく目的地に着いたみたいだ。
森の奥、崖の前に。
そこには二人の男たちが待っていた。
崖にはちょっと裂け目があって、そこから奥に行けるらしい。
おおう、ここが盗賊のアジトゴブな! 入り口が見えやすいのはアレだけど、それさえ隠せば使いやすそうな拠点ゴブなあ! もらってやってもいいゴブよ?
わかってる、これはただの現実逃避だ。
いま、俺の目の前には残酷な光景が広がってる。
ゴブリンも真っ青だ。
肌が緑だから何色になってるかわからないけど!
『****、******!』
『*、******! ******!』
六人の盗賊とヒゲ面のおっさん。
あの女の子に見せつけるように、田舎の若者を縛っていた縄を緩めて走らせている。
逃げ出す田舎の若者、大騒ぎしながら弓矢を射つ盗賊。
逃がすつもりはないのか、盗賊のうち二人が男の両横を走ってる。
『*、***、**********!』
『******、********!』
『***、************。*******! ********!』
『*****! ********!』
一発の矢が、田舎の若者の背中に刺さった。
盗賊たちの遊びはこれで終わりなのか、倒れた田舎の若者を担いで崖の裂け目に向かう。
田舎の若者はまだ生きてるみたいだ。
女の子は泣きながら、手を縛られたまま祈ってた。
アイツらくっそ外道ゴブ! 鬼畜生ゴブ! まあ俺はゴブリンで、鬼畜生は俺なんだけど! ハハッ、笑えないゴブゥ!
盗賊は一人を見張りに残して、あとの六人は中に入っていった。
入り口はただの裂け目で狭いけど、中は広いのかもしれない。
えっと、ほら、グランドキャニオン的な? それかアンテロープキャニオンだっけ?
俺がいるのは森だし、あんなに乾いてないけど。
むしろアフリカのアレに近いのかもしれない。ええっと、両側が崖になってて、中央が凹んでる大規模な……うん、覚えてないゴブ! 俺ゴブリンだからしょうがないよね! 元人間だけど!
元人間、かあ。
ほんと、ニンゲンって何だろうなあ。
モンスターって何だろうなあ。
俺には、里のゴブリンもアイツらもモンスターに思えるゴブ。
アニキの方がよっぽど立派……あ、アニキも犯して孕ませろとか言ってたわ! しっかりゴブリンでしたわ!
長い一日だ。
陽は落ちてきて、だんだん夜が近づいている。
薄暗くなってきた森の中で、俺は考えていた。
これからどうするか。
捕まった男の方はたぶん殺されるんだろう。
じゃなきゃあんな鬼畜なゲームしないだろうし。
捕まったあの女の子は。
きっと、いろいろされちゃうんだろう。
男たちのゲスい目つきとか、ここまで連れてくる時のお尻の撫でっぷりとかニヤニヤ笑いを見ればわかる。
だから、俺は。
元人間の、俺は。
「オクデラ、ここで待っててほしいゴブ」
入り口に一人残った見張りを見つめながら、そっと伝える。
考えるまでもない。
いまはゴブリンだけど元人間の俺は、あのニンゲンたちを助ける。
背中にブッスリ矢が刺さった男は間に合わないかもしれないけど。
俺は元人間でニンゲンになりたいから、ニンゲンらしいと思えることをする。
俺のこの考えのせいで、アニキは行方不明になった。
だから、この考えを止めたら、あの時のアニキに申し訳ないから。
「ゴブリオ、何スル、ツモリ?」
「悪いニンゲンを倒して、良いニンゲンを助ける。俺、さっきアイツらに助けられたゴブ」
「オデ、オデモ。ゴブリオガ、ヤル。オデモ、ヤル」
「オクデラ、俺に付き合うことはないゴブ。敵は七人もいる。死ぬつもりはないけど、危ないゴブ」
「ゴブリオダケ、危ナイ。オデモイル、危ナイ、減ル」
うん、いいヤツすぎだろオクデラ! オクデラの爪の垢をあのクソニンゲンどもに呑ませてやりたいゴブ! オークって何かね!
「オクデラ、なんでそこまで……」
なんかアニキの時も聞いた気がする。
俺は、ゴブリンにもなりきれない俺は、不安なのかもしれない。
なんでこんな俺にここまでついて来てくれるのかって。
ほら、存在理由的なアレもよくわからないし?
「ゴブリオハ、オデノ、仲間ダカラ。仲間ガスル、オデモスル」
……よし、オクデラ。いつかオクデラが困ったことがあったら俺に言ってくれ。その時は俺が力になるからな! でもニンゲンを食べるとか犯すのはナシね! あ、犯す方は大丈夫か! オクデラEDだもんね! ハハッ! ……すまん。
目から出た汗を拭く俺。
ぜ、ぜんぜんうれしくなんかないんだからね! ちょっと目から汗が出ただけなんだから!
オクデラは俺のワガママに付き合ってくれるらしい。
あの時のアニキと同じように。
仲間だから。
ただそれだけの理由で。
よっし、作戦立てるぞ作戦! 木の上から持って帰ってきた道具もあるゴブ! どんな手でも使ってあのニンゲンたちを助けてやるゴブ! 外道? こちとらゴブリン、元から鬼畜生ゴブ!
心まではゴブリンでいられなかった元ニンゲンの俺が、またニンゲンを助ける。
俺は変ゴブゴブな!
でも、ニンゲンを助けるためにニンゲンを襲うことになるのか。
ニンゲンを襲うゴブリン。
うん、一周まわってただのゴブリンゴブ! ゲギャギャッ!
アフリカのアレは大地溝帯ってヤツですね。
それの小規模な感じのイメージです。





