表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/96

第十七話 ニンゲンに攻められてゴブリンの里が蹂躙されたんでやっぱりニンゲン怖い!


 ゴブリンの里を潰すために、ニンゲンが森を進んでいる。

 いまゴブリンの縄張りで気にするべきなのは、同族のゴブリンじゃなくてニンゲンだ。


 だから、俺とオクデラはバオバブの木に帰ってきた。

 ここからならゴブリンの里も【覗き見】できるし、伏せれば下からは見えない。

 あとせっかく作った道具もいろいろ取りに来たかったゴブ! 里のゴブリンたちもニンゲンたちも、俺たちを捜してるわけじゃないからね! ざっと様子を見て、ニンゲンたちが帰る前にいなくなればいいゴブ!


 俺が最初に登って、縄梯子を下ろしてオクデラが登って。

 二人で剣シカのカラダを引っ張り上げるのは大変だったゴブ! でもやっぱりもったいなくて捨てられないゴブよ! 血の臭い? どうせもうすぐ血の臭いが広がるゴブ! 俺たちは一回逃げて戻ってくるから、もしここに置いた剣シカとか一角ウサギが見つけられても問題ないしね!


 里のゴブリン対ニンゲン。

 結果だけなら見るまでもない。

 剣シカを余裕で狩るニンゲンたちに里のゴブリンが勝てるわけないゴブ! 俺も勝てるわけないんだけど! 雑魚ゴブリンだから! ゲギャギャ!


 でもやっぱり俺は、結果を見届けなきゃいけない気がした。

 俺がニンゲンを助けたせいでゴブリンの里がバレたんだから。

 それに。

 ボスゴブリンはああ言ってたし、あれから何度か覗きに行っても見つけられなかったけど、アニキが捕まってる可能性も……ないゴブなあ。ニンゲンのメスならともかく! オスゴブリンを捕まえておく理由はないゴブ! やおい穴は死語ゴブ! 存在しないゴブよ!


「ゴブリオ、コレ、何ダ?」


「ああ、もしこっちを見ても、葉っぱしか見えないようにしたゴブ」


 俺とオクデラは木の拠点の上で伏せている。

 葉っぱをかぶって、パッと見ても気づかないようカモフラージュして。


 そして。

 ニンゲンたちが里を囲むように森に散っていった。


 ほとんど見えないけど何人かは見える。

 すげえぞ【覗き見】スキル! これで双眼鏡とスナイパーライフルとかあったら無敵ゴブ! ハッ、これがチートな可能性!? ないなあ……ライフルとか絶対ないし。


 俺がくだらないことを考えている間にニンゲンたちの準備は整ったらしい。

 そういえば剣と魔法のファンタジー世界お約束のエルフもドワーフも獣人もいなかったゴブなあ。たまたま、たまたまゴブ! そんな夢のないことを言っちゃダメゴブ!


 リーダー役らしいニンゲンは、普通に歩いてゴブリンの里に入っていった。

 とうぜん里のゴブリンたちが騒ぎ出す。

 マジかよ! 余裕過ぎだろニンゲン! そんで気づくの遅すぎだろゴブリン! アレか、見張りもしてなかったのか! そうだね、俺が様子を見に来た時もガバガバだったもんね!


 一人で里に入って行ったニンゲンと戦うためか、ゴブリンたちが集まってくる。

 ああ、コイツらホントにバカだったゴブ……そうだよなあ、遠距離武器を作ってなかったし。ひょっとして知らなかったゴブ? さすがゴブリン、しょせん鬼畜生!


 里に入ったリーダーっぽいニンゲンは鉄兜をかぶっていた。

 表情はわからない。


 さっと手を上げて、下ろす。

 その簡単な合図一つで。

 無数の矢が、里のゴブリンたちに飛んでいった。


 ニンゲンたちが里のまわりから姿を現す。

 それでゴブリンたちは大混乱だ。

 というかボスゴブリン! あんなに仕切ってる感じだったゴブ! いざって時は指示も出せないゴブか! これ俺もうちょっとやりようがあったんじゃ……。


 過去を思い出してへこむ俺。

 俺の気持ちとは関係なく、ニンゲンたちの蹂躙がはじまる。


 同士討ちになるからか、飛び道具はもう使わないようだ。

 右往左往するゴブリンたちを、剣で、槍で、メイスっぽい武器で倒していく。

 まるで遊びのように。


 そりゃそうだ、ボス以外のゴブリンの武器は棍棒しかない。

 皮鎧やチェインメイルや金属の鎧に攻撃を受けたところで、ダメージはたかが知れてる。

 蹂躙ゴブ! 殲滅ゴブ! 仲間意識はないしアニキの仇なのになんでかあんまり嬉しくないゴブなあ! いやアニキは死んでないけど! きっと!


 うん。

 戦いじゃなくて、まるで害虫駆除だ。


 ボスゴブリンもカラダがデカめの取り巻きたちも雑魚ゴブリンも関係ない。

 ニンゲンたちは容赦なく殺していく。


 特にあのリーダー役の鉄兜はヒドいゴブなあ! なんかゴブリンに恨みでもあるゴブ? ゴブリンたちの行動パターンのせいで心当たりありすぎて困るゴブ! え、まさかマジで小鬼を殺す者? 俺ヤバくね?


 ……うん、もう見るものはないゴブ! 見つかる前にさっさと帰るゴブ!


 ゴブリンの里は血に染まり、アニキが捕まってたってこともなかった。

 ニンゲンたちは、ゴブリンの死体やら住処にしてた場所の木やら枝やらを中央に集めている。

 害虫駆除は終わって、後片付け。


 片付けるのは、またゴブリンの里にならないように程度の理由なんだろう。

 どこかダラけて笑いながら、ときどき盛り上がりながら作業してる。

 たまに住処に隠れてたメスゴブリンや子供ゴブリンが見つかると、もてあそぶように殺して。

 リーダー役っぽい鉄兜だけは、生き残りがいないか里の中をきっちり捜索してるけど。

 アイツ怖いゴブ! 一匹も逃すつもりはなさそうゴブなあ! 見つかったらゴブ即斬されるゴブ!


 俺たちが助けたおっぱいちゃんがいなかったのは非戦闘員だからか、この残酷な様子を見せたくなかったからか。



 なあアニキ、ニンゲンって何だろうなあ。

 モンスターって何だろうなあ。


 俺、この世界のニンゲンともゴブリンとも価値観が合わないっぽいゴブ。

 はぐれ者ゴブ。いや、はぐれゴブゴブ! ハハッ!


 うつ伏せで顔まで伏せた俺に、オクデラがそっと手を触れる。

 優しいなおい! でもそんなんされても惚れないからね! オクデラは立派なオスのオークだから! ああうん、立派っていうのはやっぱり保留ゴブ! ほら、治ったらね?


 うん、悩んでる場合じゃないゴブ。


「オクデラ、いまのうちに帰ろう。ネズミとウサギとシカはここに置いていくゴブよ」


「イイノカ? セッカクノ獲物」


「俺たちと敵対したゴブリンたちはいなくなったゴブ。ニンゲンが帰ったら、またここに来ればいい。もしこの拠点が見つかっても、俺たちがいなければ問題ないゴブ」


「……ワカッタ。ゴブリオガ言ウ通リニスル」


 うん、あんまりよくわかってないらしい。

 大丈夫かオクデラァ! その絶対の信頼が怖いぞ! ちょっとは自分で考えるクセをつけて自信を持てるようになろうな!


 俺が警戒して、先にオクデラが木から下りて。

 続けて俺も下りる。


 とりあえず拠点から持ち出したのは便利な皮袋と縄、拾った剣シカの角だけ。

 またここを使えればありがたいけど、ニンゲンたちに潰されても問題はない。

 どうせ森の中でサバイバル生活だから! ゴブリンの縄張りじゃなくなったし、ここがどうなるかわからないゴブ! とりあえず火を吹くクマが来ないといいゴブなあ!


 そんなどうでもいいことを考えてるあたり、俺もちょっとショックを受けたのかもしれない。

 ゴブリンの弱さと、見知ったゴブリンたちが死んだことに。

 ニンゲンたちは容赦なくて、どっちがモンスターかわからないほど嬉々として殺していたことに。

 ほとんどのニンゲンが、メスや子供を、遊びながら殺していたことに。


 だから気づくのが遅れたのかもしれない。


 すぐ近くにニンゲンがいた。


 いきなりの遭遇で俺たちが驚いたように、ニンゲンも驚いてる。

 驚いて足を止めている。

 ニンゲンは三人。


「オクデラ、三番ゴブ」


「ダメダ、ゴブリオ、オデ、モウ、誰モ、置イテ行カナイ」


 ああうんそう言うと思ったよ! 最初からそのつもりだったっぽいもんね! でも今は言うこと聞いてほしかったゴブ!


 ヒゲ面のおっさんと、田舎の若者っぽい男。

 それと、この前助けたニンゲンの女の子。

 はい? あの聖職者のおっぱいちゃん?


 目が合って俺と女の子が固まる。


『**、***********』


『*、*****。*******』


 二人の男が武器を構える。

 田舎の若者はちょっと手が震えてて、ヒゲ面のおっさんは余裕な感じで。

 でもその武器が振られることはなかった。


『****、**********!』


 あの女の子が二人を止めた。

 マジかよ! 俺たちゴブリンとオークだぞ、見分けついたのかよ! 俺、ゴブリンもオークも見分ける自信ないのに! すげえなおっぱいちゃん!


 驚く俺をよそに。

 二人の男との話し合いが終わったらしく、女の子がペコリと頭を下げる。


『****、**********』


 なんて言ってるかはわからない。

 それでも、前に助けたことに感謝されて、見逃してくれるんだと思った。

 まあそれで油断するようなゴブリンじゃないけど! 油断させてブッスリ殺るつもりゴブ? うん、そんなことしなくても瞬殺ゴブ! 俺が!


「オクデラ、目を離さないように、ゆっくり、離れるゴブ」


 声をかけて、三人のニンゲンを回り込むように動く。

 通り過ぎたらオクデラを先に歩かせて、俺は後ろを見ながら進む。


 あの女の子が二人の男をなんて説得したのかはわからないけど……。

 ありがとうおっぱいちゃん! なんかニンゲンにがっかりしたけど、いいニンゲンもいるゴブな! 俺がニンゲンになるまでそのままでいて欲しいゴブ! あ、襲われグセは直しといてな!


 殺したモンスターをそのままにしたり、ゴブリンたちをもてあそんで殺したり。

 俺の中で地の底まで落ち込んだニンゲンたちの評価が上がる。

 聖職者で巨乳で美人で優しいってスゴいゴブな! すっかり癒されたゴブ!



 三人のニンゲンたちも見えなくなって。

 俺とオクデラは森を進んでいった。


 さっきのニンゲンたちが後をつけて来る様子もない。

 どうやらあの女の子は、というかあの三人は本当に俺とオクデラを見逃してくれたらしい。

 マジか、他に巣がないか泳がされたんだろってちょっと疑ってたのに! 尾行されると思ってウロウロしてたのに! 俺の努力がムダじゃん! 疑ってごめんなさい! でもむしろおっぱいちゃんはもっと疑おうね! 俺たちゴブリンとオークゴブ!


 信じやすいおっぱいちゃん。

 だから、ゴブリンとオークの俺たちを逃がしてくれたんだろうけど。

 わるいごぶりんとおーくじゃないよ、って信じて。

 大丈夫かおい! そんなんだから二回もゴブリンに襲われるゴブ! ちょっとは疑った方が……あれ?


 そこまで考えて気づいた。

 あの三人はなんであの場所にいたんだろう。


 俺とオクデラと遭遇して驚いてたから、逃がしたゴブリンがいないか見まわってたはずはない。だったら驚かないし。

 それに。

 女の子が何か言ったところで、二人の男がモンスターを逃がすのはおかしい。

 初心な感じの田舎の若者はともかく、あのヒゲ面のおっさんは抜け目ない感じだった。

 あそこはニンゲンたちが森を進んだ時に通ったルートでもない。ニンゲンに遭遇したくない俺がそんなルートを帰り道に使うわけないし。


 三人が向かってったのは森の奥だ。

 ゴブリンの里だった場所からも離れていってる。


 え、ええー。

 ひょっとして、あの女の子騙されてる? ハハッ、まさかね、そんなわけないゴブ! だって二回もゴブリンに襲われたんだよ? さすがに危機感高まってるでしょ? 攫われるのがお仕事なお姫様とかじゃないゴブよ?


 立ち止まる俺。つられてオクデラも立ち止まる。


 でも、今も危機感ないから俺とオクデラを逃がしたんじゃね?


 ええー?

 と、とりあえず、見に行ってみようかな! まさかとは思うけど! ほ、ほら、別にいますぐ三番の拠点に帰らなきゃいけないってわけじゃないんだし! そんなに離れた方向じゃないし! ね、念のため、念のためね、うん!



 そして。


『****、**********!』


『**、**********!』


 うん、これ捕まってますわ。

 田舎の若者とあの子、縛られてますわ。

 ヒゲ面のおっさん、盗賊とグルでしたわ。


 おいニンゲン、学習能力ゥー!





…鉄兜はついノリで……。

チョイ役だったので許してください!w

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] チョロインか [気になる点] 盗賊はドコに [一言] 俺は世界を救わない。ゴブリンを殺すだけだ
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ