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第十五話 アニキを助けに里に戻って逃げ出してこれでまた厳しいサバイバルライフ再開っすなあ。


 ちょこまかと短い足を動かして森を走る俺。

 後ろからオクデラが走る音が聞こえる。


 ニンゲンの女の子を道まで送り届けて、俺とオクデラは、森を走っていた。

 俺たちを逃がすために一人残った、アニキの元へ。

 音に気づいて襲ってくるモンスターがいたら、トレインしてゴブリンの里にぶつけてやるつもりで。

 うん、やっぱり俺は外道ゴブ! でも元人間として越えちゃいけない一線はあるゴブよ! アニキもオクデラも、俺のワガママに付き合うことなかったのに……。


 アニキのことを考えないように、悪い想像をしないように、足を進める。

 ゴブリンの里へ。

 アニキの元へ。



 見知ったエリアに入って、そして。

 ゴブリンの里が見えた。


「アニキィ!」


 里の外で足を止めて、叫ぶ。

 ゴブリンの里は静かで、争う音は聞こえなかった。

 理由は、考えたくない。


「アニキ! どこにいるゴブ!?」


 大声で叫びつつ、里のまわりを歩き出す。

 中心には近づかないように。

 もしもの時は逃げられるように。


 そんな風に考える自分がイヤになる。

 アニキは、俺のために敵の中に飛び込んでくれたのに。

 これじゃ臆病ゴブって言葉を笑えないゴブ。称号【森の臆病者(チキン)】通り。


「おお、臆病ゴブとはぐれオークが死にに来たゴブ!」


 何をしていたのか、里の中心、泉の方からゴブリンたちが現れた。

 ボスゴブリンと取り巻きと、雑魚ゴブリンたちとともに。

 アニキの姿はない。


「アニキ、アニキはどうしたゴブ!」


 焦りのままに叫ぶ俺。

 落ち着けと言い聞かせても、心はざわめく。


「ああん? あの裏切り者か! アイツはボッコボコにしてやったゴブ!」


「ウソだ! アニキがお前らなんかに負けるわけないゴブ!」


 俺の言葉を、ボスゴブリンと取り巻きたちは嘲るように嗤った。


「ああ、生意気にまあまあ強かったゴブなあ。でも戦いは数ゴブ。雑魚どもが手足を押さえたら……あとは俺と俺の剣の出番だったゴブ」


 ボスゴブリンの言葉に、俺の顔が青ざめるのがわかる。ああうん、ゴブリンは緑色の肌だから青になってるかわからないけど。ってそんなことどうでもいいゴブ!


 アニキのスキル【鱗化】は打撃に強い。

 俺の攻撃じゃちょっと痛いかもぐらいで、オクデラがみぞおちに一撃入れてやっとうずくまる程度。

 だから、大丈夫かもしれないと思ってた。あれだけ囲まれても、アニキならって。


 でも。

 ボスゴブリンは剣を持っていた。

 アニキの【鱗化】は、斬撃にあんまり効果がない。

 くっそ! やっぱりあの剣は盗んでおけばよかったゴブ! 元人間の誇りなんかいらなかったゴブ! いまゴブリンだから!


「ウソだ! アニキ、アニキはどこだ!」


 信じたくない。

 でも、アイツの剣が血に濡れている。


 信じたくない。

 たぶん、隣にいるオクデラも同じ。


「あの裏切り者はピクリとも動かなくなったゴブ! 反応がなくなったらもう斬っても殴っても面白くないからなあ。最後は川に捨ててやったゴブ! 裏切り者らしい最期ゴブ!」


 ゲギャギャギャギャッ! と嗤うボスゴブリンと取り巻きたち。


 まだ、まだだ。

 動かなくなったからって死んだわけじゃない。

 出血が多くても心停止でも、生きてる可能性はある。俺ゴブリンだけどそれぐらいは知ってるゴブ! 元人間だから!


 だったらやることは一つだ。

 この場を切り抜けて、アニキを捜しに行く。

 でも隣から、ギリッと歯を食いしばるような音が聞こえた。

 え? オクデラ?


「オデ、オデ、許セナイ!!」


 あ、うん、俺も怒ってるけど、今このタイミングで急に怒る要素あった? 純情弱気オークゴブな?


「ゲギャギャ! あんな裏切り者は食う価値もないゴブ! 死んだのに食われないとかゴブリン最大の恥ゴブなあ! オークもそうだって聞いたことあるゴブ!」


 あ、そういうこと。

 なんだその種族ルール! 意味わからないゴブ! 俺ゴブリンだけどゴブリンの価値観に馴染めない件!


 でも、ボスゴブリンの言う通りらしい。

 オクデラが、あの弱気なオクデラが、一歩前に出た。俺より前に。


「許サナイ! 殺シテヤル!」


 普段大人しいヤツが怒ると怖いよね。しかもデカいし。

 うん、そんなこと言ってる場合じゃないゴブ。


「オクデラ! そんなヤツほっとくゴブ!」


「ゴブリオ、ダッテ、アイツ、アニキニ、ソンナ恥ヲ」


「オクデラ! アニキは死んだって決まったわけじゃないゴブ! 川に助けに行くゴブよ!」


「エ?」


「動かなくても死んでないことはあるゴブ! 狩りでアニキにそう教わったゴブ!」


「ソウダ、オデ、覚エテル。ダカラ、油断スルナッテ!」


 そうだ。

 アニキは言っていた。

 獲物が死んだように見えても油断はするなって。

 最後の一撃を狙ってる可能性があるから。

 生き残ろうと、死んだフリをしてる可能性があるから。

 ゴブリオとオクデラはうっかりしてるからな、気をつけろとか言って。


「こんなヤツらはほっといて捜しに行くゴブ!」


「ウン、ゴブリオ!」


 オクデラは、やっとアニキが生きてる可能性に気づいたのか、落ち着いたみたいだ。

 川、川か。

 コイツらが泉の方から来たってことは、繋がってる川だろう。

 そっちに向かおうとして。


「おおっと。逃がすわけないゴブ! 変なことを言い出したのはそこの臆病ゴブで、はぐれオークはニンゲンを逃がしたゴブ」


 ニヤニヤと嗤いながら、ボスゴブリンと取り巻きたちが近づいてくる。

 でも。

 ニンゲンを捕まえてた時と違って数が少ない。


 アニキが雑魚ゴブリンを倒したのかもしれない。

 それか、ニンゲンの女の子っていうわかりやすいエサがなくて集まりが悪いのかもしれない。

 どんな理由でも今はかまわない。


「オクデラ、行くゴブ! 二番で会うゴブよ!」


「ワカッタ。オデ、オデ」


「いいから行け! 二番で会って、それからアニキを一緒に捜すゴブ!」


 尻を叩いてオクデラを先に走らせる俺。

 オクデラは俺より足が速いけど、追われたら転びそうだから。

 ヒロインタイプだからね! しかも足とかくじいてそう! 俺、オクデラを抱っこもおんぶもしないからな! できないけど!


「アニキも俺も、おまえらなんかに殺されるわけないゴブ!」


 近づいてくるゴブリンたちに言い捨てて。

 俺も、里の外へ逃げ出した。

 アニキ、アニキ! まだ大丈夫ゴブな? アニキがこんなところで死ぬ訳ない! こんな雑魚ゴブリンに殺られるわけないゴブ! コイツらをまいて、アニキを捜しに行くから! 助けに行くから!


 アニキにもなかったスキル【逃げ足】と【覗き見】。

 同じゴブリンでも、俺とアイツらは違う。

 オクデラの方に行かないように追いかけてくるゴブリンを挑発しながら、俺は森を逃げていった。



 なんとかアイツらをまいて、俺が向かったのはある場所。

 俺とアニキが考えた、もしもの時の避難場所で集合場所。


 合図は単に「二番」と決めた、川の近くのエスケープハウス。

 いやハウスっていうか物を隠すぐらいしかしてないんだけど。

 元々アニキの狩りの時の休憩場所だし。


 もしアニキが自力で助かってたら、川のそばの二番に向かう可能性が高い。

 だからあの時、俺はオクデラに二番と伝えて、別行動をとった。

 オクデラは先に向かう役、俺は囮として後から。


 そして、森の中、俺たちの集合場所には。


 オクデラしか、いなかった。


「ゴブリオ、オデ、アニキ、アニキハ」


「オクデラ、無事でよかったゴブ。アニキはまだ来てないみたいだなあ。よし、一緒に迎えに行くゴブ」


 ぐるっとまわって逃げたけど、実はここはゴブリンの里から近い。

 さっきこっそり上流を見てきたけど、アニキはいなかった。

 だから、オクデラと一緒に行くのは川の下流だ。


 見つけた場所から動けない状態かもしれないから、隠していた皮袋と縄の束を取り出す。

 俺たちが、初めて三人並んで背中を預けた、大きな岩の下から。


「よし、オクデラ、行くゴブ!」


「ウン、ワカッタ!」


 可能性はある。

 アイツらの口ぶりだと、動けないイコール死んだと判断したみたいだった。

 それで、ゴブリン的には最大の侮辱として死体を食わずに川に捨てたと。

 だからアニキが生きてる可能性はある。

 ありがとう謎のゴブリンルール! 食われてたら絶望的だったけど! というか死んだら食われない方が恥ずかしいのな! ゴブリンまじよくわからないゴブ! ゴブリンの尊厳って何かねアニキィ!


 俺とオクデラは、川の横を歩いていった。

 時に隠れて、時に休憩して。

 慣れない道、モンスターへの警戒、少ない食料。

 ゴブ生初日を思い出す緊張感だ。


 俺とオクデラに森の知識を教えてくれたアニキは、今はいない。

 寂しさと生命の危機を感じながら、歩く。


 日が暮れて一度野営して、二日目。


「ゴブリオ、アレハ」


「アレは……ニンゲンの、街だな、たぶん。川はこのまま壁の内側に流れてるゴブ」


「アニキ、ジャア、アニキハ」


「まだ決まった訳じゃないゴブ。俺たちのアニキだぞ?」


「デモ、ニンゲンハ、オデタチヲ、見ツケタラ、襲ウッテ」


「見つけたら、な。俺たちは気づかなかったけど、アニキはどこかで隠れてるかもしれないゴブ」


 森を流れる川をたどって見つけたのは、ニンゲンの街。

 石の壁に囲まれて、中の様子はわからない。

 川は街を避けることなく、石の壁の下をくぐってる。

 たぶんニンゲンたちは、川の水を生活用水なんかに使ってるんだろう。


「帰ろう、オクデラ。この先は危ないゴブ。アニキはどこかで隠れてて、ひょっこり戻ってくるゴブよ」


 アニキの死体は見つかってない。

 ボスゴブリンの言葉は、アニキが死んだと決まった訳じゃない。

 どこかで川から上がったのを俺とオクデラが見逃してたり、アニキに体力が残ってて痕跡を隠したかもしれない。

 もしニンゲンの街まで流されてても、エリートゴブのアニキなら逃げてこられるかもしれない。


 だから俺たちは、森の拠点でアニキの帰りを待つんだ。


 そう、オクデラに言い聞かせて。

 俺を信じて、「ゴブリオハ、頭ガイイ」と言って目を輝かせるオクデラに見つめられ。

 自分に、アニキは死んでない、と言い聞かせて。

 俺とオクデラは、森に帰った。



 ……あ、ゴブリンたちと完全に敵対したんだったわ。

 ゴブリンの縄張りの中にある拠点は使えないゴブ。

 いままでみたいに無視だけで終わるわけないからね!

 ああうん、ゴブ生初日みたいなサバイバルの始まりゴブ!


 とりあえず。

 アニキも知ってる「三番」に向かおう。

 あそこならちょうど見晴らしもいいし。


 アニキ。

 ゴブリン失格な元人間の俺のワガママに付き合って、ゴブリンと敵対したゴブリンのアニキ。


 アニキが、生きてるって信じてる。

 俺とオクデラは、拠点で待ってるよ。

 文明的なニンゲンの街には入らないで。


 まあ入りたくても入れないんだけどね! 俺ゴブリンだから! オクデラはオークだから! サヨナラ石の壁に囲まれた文化的な生活! もう二度とゴブリンに捕まるなよおっぱいちゃん!


 調理された美味しいご飯とか……いろんな情報とか……異世界の知識でお金を稼いだりとか……はあ、街に入りたかったゴブ。

 ニンゲンだったら、助けたあの子に惚れられちゃったりなんかしてゴブな! 早くニンゲンになりたいゴブ!

 でも俺、拠点でアニキを待つゴブ! ゴブリンだから! どうせ街には入れないし!





アニキの生死がまったくわからないし、そうれはもうぜんぜん想像もできませんね!w

しばしお待ちください!

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オレタチノアニキゴブゴブ
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