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第十三話 生活が安定してきたからいろいろ考えてみたけど結局よくわからないわ! 俺ゴブリンだから!


「よし、できたゴブ!」


「ゴブリオ、それは?」


「これはオクデラの手甲ゴブ! 俺が初めて狩った一角ウサギの皮を使ったゴブ!」


 バオバブの木の上に作った、ゴブリオこと俺とアニキとオクデラの拠点。

 寝る前は俺の作業時間だ。

 木の頂上、すり鉢状の場所はそこそこ快適な空間になっていた。


「ゴブリオ、オデ、オデヨリ、アニキカ、ゴブリオニ」


 俺は皮と木と縄で作った手甲を渡そうとしたけど、オクデラはなかなか受け取らない。

 健気かよ! オークって強欲なんじゃねえのかよ! いやわかってたけどね! わかってたから準備してあるけどね!


「オクデラ、心配するな。俺のはこれから作るゴブ。それとアニキにはこれを」


「……これは?」


「俺が初めて狩ったウサギの皮の、尻尾の一部。アクセサリーにしてみたゴブ! アニキ、黒曜石のナイフを貸して」


 以前、俺がアニキにあげた黒曜石のナイフを借りる。

 まあ元々は死体漁りしてゲットしたヤツなんだけどね! いまはアニキの物ゴブ!


 武器としては使えないが、獲物の解体には役立ってるみたいだ。

 黒曜石のナイフは、持ち手に縄を巻いて持ちやすく改造していた。

 これで元の持ち主の知り合いが見ても誰の物かわからないゴブ! そんで一回ほどいて、ウサギの尻尾をアクセサリーっぽくつける! よし、キュートなポンポンがついたゴブ! はいもう原型なし! 完全犯罪成立ゴブ!


 うん、わかってる。このテンションは単なる照れ隠しだ。


 俺が初めて狩った一角ウサギ。

 アニキが原始的な方法でなめして、俺が受け取ったヤツ。

 カラダの部分のデカい皮はオクデラの手甲にして、余った尻尾の一部はアニキの黒曜石のナイフのアクセサリーに。


 最初は肉壁とか言ってたけど、いまじゃすっかり仲間だから。

 ……恥ずかしいゴブ! 言わせんな! いや言ってないけど!


「ありがとうゴブリオ」


「た、ただの飾りだから役に立たないゴブ。あ、オクデラのはちゃんと使って……」


 オクデラはずびずび鼻を鳴らして泣いていた。

 単純だなおい! いやわかってたけどね! 石斧とか木の盾を渡す時もそうだったもんね! ピュアかよ! オークなのに!


「オ、オデ、オデ、コレデ、ゴブリオト、アニキヲ守ル」


「ああうん、頼むゴブ」


 うるんだ目で鼻水垂らしたオクデラのぐしゃぐしゃな顔に、ちょっと引いたのはナイショだ。



 この三人で、森で生活をはじめてから60日が経った。


 拠点はそこそこ快適で、生活はまあそれなりに順調だ。

 狩りに出てモンスターを倒してもケガしてないし、食べていけてる。

 あいかわらず里のゴブリンたちは俺たちのことを無視してるけど。


 ちなみに、この拠点からはゴブリンの里の泉のあたりが、木の隙間から遠くに見える。

 つまりアイツらが大人数で何かしようとしたら気づけるってことだ。抜け目ないね!


 うん、生活はそこそこ順調だ。

 でも! 火を焚くのが危険ってのはわかってるけど……肉は生で食いたくないゴブ! いいんだけどね腹も壊さないから! もう慣れたしね!


 あ、いまではヘビも虫も食べてます。

 いや違うから、虫って言っても幼虫みたいなヤツだから! ほらハチの子とか蚕のサナギみたいな! 元の世界でも食べるんでしょ? ああいうヤツだから! セーフ、セーフ! 元人間の尊厳は捨ててないゴブ!

 あ、生肉食ってる時点で尊厳とかないわ。ゴブ生にも慣れたもんゴブ!


 三人で暮らすようになって60日だから、俺のゴブ生は61日目だ。

 ニンゲンになりたいとは思うものの、いままでは生き延びることを優先してきた。

 しょうがないよね、死んだら元も子もないから。こっちはゴブ生初日に何度も死にかけてるから。よく生きてたゴブ!


 いまのところ、ニンゲンになるヒントはない。

 そして俺のチートのヒントもなァ!

 スライム倒しても一角ウサギ倒しても出っ歯なネズミ倒しても、訓練してもダメ。

 レベルも上がらないしスキルも生えない。

 クソゲーゴブ! チュートリアル、チュートリアルをお願いします!


 俺のスキルは変わらず【夜目】【ゴブリン語:LV2】【覗き見(ピーピング)】【逃げ足】だけ。

 時々オクデラとアニキにも聞いてるけど、書く模様は変わらない。

 アニキが書く日本語がだんだん上手くなってるけどね! 器用かよ! さすがエリートゴブゴブ!


 そう、スキルが日本語で見えるのもあいかわらずだ。

 不思議なことはまだある。


 アニキにいろいろ教えてもらってるけど、この森には食べられる木の実や果実が多い。

 でも、その割には食物連鎖的なアレがおかしい気がする。

 肉食モンスター多くね? その割りに草食の獣とか虫の種類と数が少なくね?

 まあ雑食なんだろうし、俺も詳しくないからはっきり言えないけど。

 そもそも食物連鎖的なアレってなんだよ! ぼんやりしすぎだろ!


 危険だけど不快な感じはない森。

 あ、うん、里のゴブリンたちの体臭は別な。

 キレイな水場があるんだからカラダ洗え! 俺とオクデラとアニキはちょいちょいカラダ拭ってます! 俺、チビでブサイクでハゲな雑魚ゴブリンだけど清潔です!


 危険だけど食料は簡単に手に入る森。

 実際、戦って獲物を狩らなくても木の実と果実、あとは虫を食う覚悟さえあれば生きていける。

 ゴブリンの里を見つけるまで、オクデラがそうだったらしい。ぼっちで。

 ……不憫すぎだろオクデラ! 草食オークってなんだよ! そんなんじゃ女騎士にやられるぞ! まあやれないんだけど! EDだからね! うん、強く生きようなオクデラ!


 森もおかしいけど、それよりスキルだ。

 そもそもスキルが存在する世界ってなんだ? 初日のニンゲンたちを考えたら、アイツらもスキルあったっぽいし。それに魔法も。

 一角ウサギのジャンプっぷりとか、スライムの分裂っぷりとか、クマが火を吹くとか、他のモンスターにもスキルはあるんだろうと思ってる。


 当たり前だけど、元の世界にそんなものはなかった。

 あったらゴブリンでも使えたかもしれないのに! 向こうでもこっちでもチートですって! まるで相手にならないんですが、みたいな! 言ってみてえ!


「あー、今日の見張りは最初に俺がやるゴブ」


 考えたいこともあるしね。

 スキルが存在する世界。

 それも、日本語で。

 まるでゲームみたいに。

 でも。


「わかった。二番目は俺が担当しよう」


 ゲームだとしたら、敵モンスターなはずのアニキとかオクデラとか、里のゴブリンたちでさえ頭が良すぎるんだよなあ。

 俺が知らない間にVRMMOとか開発されてた? 超天才が作った超スゴいAI的なアレで? そんで俺、その世界に入っちゃった?

 うん、知ってる、それはない! だって食べてるし! 食べたらとうぜん出るし! ゲームならそんなリアルいらないっしょ!


 考えても答えは出ない。

 もしゲームなんだとしたら、ここで死んだらわかるかもしれないけど。

 ムリムリムリ! そんな賭けはできませんから! 違ったら終わりじゃん! さよならゴブ生! ゴブリンでも生きてたいゴブ!


 考えても答えは出ないけど、考えてしまう。

 生活に余裕ができたってことなのかもなあ。

 これまで生き延びるのに必死だったもの。まだゴブ生61日だけど!

 うん、考えてもわからないから今日はもう終わり! 切り替え切り替え!


 とりあえず。

 ゲームでもなんでもいいからチートください神様! チートがダメならせめてニンゲンになりたいです! 安全で健康で文化的な最低限度の生活を送りたいです!


 ああうん、でも。

 チートでもなんでも、もし俺に力があるなら。

 このまま、アニキとオクデラと森で生活するのも悪くないかもしれないけど。

 強くなれば、火で調理して敵が集まっても返り討ちにすればいいんだし。


 行動イケメンだけど見た目がアレなゴブリンと、ゴブリン語しかしゃべれない純情弱気EDオークとの生活かあ。

 最初は肉壁ゲット! とか思ってたのに、変われば変わるもんだなあ。


 あれ? 俺ひょっとして、心までゴブりはじめてないかゴブ?

 ……ニンゲン、ニンゲンになりたいです! なんだよゴブりはじめるって! 動詞かよ! ゴブるゴブる時ゴブればゴブれ! 五段活用かな? いや知らんけども! 俺ゴブリンだから! あ、元人間だったわ。


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[一言] やっぱり憲法は大事だね
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