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第十二話 俺、ついにモンスターを倒すからレベルアップがあるって信じてるよ? わかってるね?


 それからは、戦いの日々だった。


「ゴブリオ、あれがスライムだ」


「おおっ! ……液体タイプっぽいゴブ」


「小さなスライムは散らせば溶けていく。大きなスライムに遭遇したら核を狙え」


 ゴブリンの小さな足でスライムを踏みつぶすアニキ。

 ビチャッと飛び散ったスライムは、スウッと地面に溶けていった。


「こうした雨上がりの日に多く出現する。水たまりと間違えて大きなスライムに捕まらなければただのザコだ。放置してもいい」


 スライムを踏みつぶしたアニキのマネをして、ぴょんぴょん飛び跳ねてスライムを潰す俺、ゴブリオ。

 よっしゃ! ゴブリンが最弱モンスターじゃないってさ! 下には下がいたゴブ! 蹂躙ゴブ! 殲滅ゴブ! ゲギャギャ!


「オデ、戦エル?」


「もちろんだオクデラ。こっちはゴブリオに任せてアイツを狙ってくれ。あの大きさだとゴブリンではキツいかもしれん」


 オクデラとアニキの会話を聞いて、そっちに目を向ける。


 そこにはスライムがいた。

 でろーんと地面に広がった、デカいヤツ。


 たしかにゴブリンじゃ潰せそうもない。

 カラダも小さいし、体重も軽いからね! おっ、あの中心あたりにあるのが核ってヤツかな? うん? 待てよ?


「アニキ、スライムを散らそうとして失敗したらどうなるゴブ?」


「大きなスライムに捕まると、体内で溶かされていく。だから大きなスライムには近づかない方がいい。あの程度の大きさならオクデラは問題ないだろう」


 アニキの言葉に続いて、びしゃん! と大きな音がする。

 オクデラの両足ストンピングが大きなスライムに炸裂したみたいだ。

 スライムの体液が飛び散って、俺にもかかる。


「おお、やるじゃんオクデラ! 一番デカいのを倒したゴブ!」

「オデ、オデガ、敵ヲ、倒シタ」


 感動で震えるオクデラに近づく俺。

 うん? あれ?


「アニキ、ちょっと気になったんだけど……デカいヤツって、ひょっとして、核を潰して散らしてもしばらく死なないゴブ? ひょっとして分裂するタイプ?」


「ああ、そうだ。だからオクデラもゴブリオも、スライムを剥がすか散らせ」


 ビシャ、ビシャッと音を立てて言うアニキ。

 飛んできたスライムを散らしてるらしい。


 うん。

 スライムは敵を取り込んで溶かすタイプで、デカいスライムは分裂する。

 それでいま、オクデラがストンピングして、スライムが俺たちのカラダにかかった。

 おそるおそる、自分のカラダを見下ろす俺。


 おいいいいい! せっかくの毛皮と布が溶けてきてるじゃん! 布は貴重なのに!

 バタバタと手を振り回してカラダに付いたスライムを弾き飛ばす俺。


 さらに小さくなったスライムは、形を保てず溶けていく。俺の服も溶けていく。

 カラダは消化に時間かかるっぽいから痛くないけど! 服! 服はヤバい! スライムに服を溶かされるゴブリンって何だよ! 誰得だよ! エロ担当としてコラボするんじゃねえのかよ!


 俺のカラダについた分は始末した。

 イヤな予感がして、俺は視線を上げる。


 そこにはオクデラがいた。

 うまくスライムを散らせなくて、カラダに巻いた毛皮に穴が開き出した半裸のオクデラが。

 オクデラは必死に腕を動かして、運動で息があがったのか顔が赤い。

 ……うん、うすうす予想はしてた。


「アニキ、ゴブリオ、終ワッタラ、オデノ、取ッテホシイ」


 クネクネすんなァ! いまスライム退治してやるから! スライムに襲われて服を溶かされて身悶えするオークとか見たくねえよ! はいお約束のラッキースケベでしたね! ってなるかい!


 ビシャビシャと、オクデラのカラダにまとわりつくスライムを殺していく俺。

 オクデラは自分でできなくて申し訳ない、オデ不器用デスカラ、とでも思っているのか、ちょっと恥ずかしそうにしている。

 その表情やめろ! 服が溶けて恥ずかしいみたいになっちゃってるから! 力不足ですいませんの方な! わかってる、わかってるけど!


 うん、スライムは予想以上の強敵だった。

 俺のメンタル的に。

 あ、スキルは生えなかったし、レベルアップっぽいことも起こりませんでした。

 ほら、スライムだからね! ゴブリン以下の最弱モンスターだからね! ま、まだあわてるような時間じゃないゴブ!



 戦いは続く。


「ゴブリオが一角ウサギと呼んだウサギが、狩りの獲物として狙い目だ。ネズミの方が弱いが、ネズミは小さくて腹が膨れないからな」


 一角ウサギのジャンピング角アタックをひらりとかわして、アニキが棍棒を叩き付ける。

 俺とオクデラが倒したことないモンスターは、アニキがこうして見本を見せてくれる。


 さすがアニキ! 話しながら倒すとかイケメンっすね! よし、次は俺の番ゴブ!

 小石をくるんだ布をブンブン振り回す俺。

 このタイプのブラックジャックは、短く持てば当てやすい。

 威力は減るけど、倒せなかったらダメージ与えてもう一回攻撃すればいいし。


 つがいだったのか、アニキが見つけた巣穴からもう一匹の一角ウサギが出てきた。

 一角ウサギは何度か足をかいて。

 前に出た俺めがけてジャンプしてくる。

 え、けっこう速くね? アニキが簡単そうにしてたから油断した!


 慌てて避ける俺ゴブリオ、雑魚ゴブリン。

 ありがとうスキル【逃げ足】! いま役に立ったって信じてる! 【回避】とかじゃないから違うかもしれないけど!


 落ち着け、落ち着け俺。

 一角ウサギは着地して、また俺めがけてジャンプしようとしてる。

 よし、ここだ!


 半身でかわして、通り過ぎる一角ウサギにブラックジャックを当てる。

 よっしゃあヒット! うん、しっかりダメージ受けてますわ! いまトドメさすからな! いやそんな目で見られてもトドメさすし!

 肉は俺たちの栄養に、全身の皮は剥いで服にするし! ゴブリンに情けを期待してもムダゴブ! 鬼畜生だから!


 俺は一角ウサギとの死闘に勝利した。


 ちなみに避け損なってたら、あの角が腹に刺さるらしい。

 あっぶねえ! アニキができるゴブすぎて教師に向いてない件!


 あ、オクデラは俺が作った木の盾を横振りにスイングして、一角ウサギを倒してました。

 おおざっぱな感じだけどやるなオクデラ! アドバイスしたの俺だからね! 俺がアドバイスしなければもっと苦戦してたはずだからね!


 うん、一角ウサギに苦戦したのは俺だけでした。

 スキルも生えず、レベルアップも起こらず。



 戦いだけではない。


「ゴブリオ、見るならこの距離からだ。三人がかりなら勝てるかもしれんが……」


「あ、うん、わかったアニキ、ムリはしない。あの剣シカってやっぱり強いゴブ?」


「剣シカか。ああ、そうだな。この森では中ぐらいといったところだろうか」


「あ、そうでもないんだ」


「以前、里のゴブリン8匹の集団で戦って、6匹の犠牲で勝利した」


「ほぼ全滅じゃん! 生き残ったの2匹だけじゃん!」


 いま、俺もアニキもオクデラもしゃがんて、低い木の陰から剣シカを眺めてる。

 ゴブリン八匹で戦って、生き残りは2匹だけ。

 森で中ぐらいの強さの剣シカは、ゴブリンにとっては格上らしい。

 いちおう倒せるみたいだけど。


 ほーん、じゃあ俺を里に案内したリーダーっぽいゴブリンは、剣シカと戦って生き残ったヤツなのかも。剣シカの皮を着てたし。

 あ、そうだ。


「アニキ、俺、川の近くでめっちゃ強そうなクマを見かけたんだけど……アニキはどんなモンスターか知ってるゴブ?」


「……ああ、もちろんだ。あれはこの森の主。ゴブリンと戦ったことはないが……里にいるゴブリンと俺たち全員で戦ったところで全滅だろう。あれは火を吹く」


 やっぱり主なのかよ! あっぶねえ、ゴブ生初日でフィールドボスと遭遇してたんじゃん! そりゃ明らかにオーラが違ったけどね! というか火を吹くってなんだよ! クマじゃねえのかよ! そうだねクマ型モンスターだもんね!

 アイツを倒したらレベルアップとかしないかなあ。


 ……うん、もう気づいてる。

 スライムも倒したし、一角ウサギも倒した。

 アニキにお願いしてできるだけ俺が戦ったし、ネズミとか虫とかも殺してる。


 俺に変化はない。

 スキルも生えてこないし、レベルアップっぽく力が強くなるとか、頭の中に声が響くとかもない。


 マジっすか! マジでチートなしっすか! ちょっとぐらいあってもいいんじゃないですかね神様! 軽い、軽いヤツでいいんでお願いします!

 俺、ニンゲンになるどころかこのままじゃただの雑魚ゴブリンゴブ! 一角ウサギに殺られそうになったぐらいゴブ! 生き延びるのに精一杯ゴブ!



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