第十一話 訓練してるけどスキルは生えないしチートもないっぽいんだけど厳しくないですかねえ?
「アニキ、そうじゃないゴブ。腹を攻撃するならみぞおちを狙った方がいいゴブ」
「ほう。ゴブリオ、どうなるか知りたい。俺のみぞおちを攻撃してくれ」
「わかったゴブ!」
ゴブリオこと俺と、アニキ、オクデラが木の上を拠点にしてから30日。
いま俺たちは、拠点からちょっと離れた場所で訓練してる。
もちろんアニキとオクデラも一緒だ。
そう、縄梯子が完成して、みんなの武器も作ったんだ。
まあアニキは棍棒のままだけど!
スキル【棍術】持ちのアニキに棍棒の使い方を教えてもらおうと、俺も持ち手を削った木の棒を振り回してる。
俺の武器は槍とブラックジャックだけど、アニキに教わったら【棍術】のスキルが生えないかな、と思って。
あ、ちなみに縄梯子を作ったり武器を作ったり拠点を整えたりしたけど、【工作】も【木工】も【建築】も生えませんでした! ちょっと何かしたらすぐ覚える系チートはないみたいです! うん、知ってた!
訓練になるとまわりが見えないから、オクデラは見張り役。
三人で見張りをローテーションしながら、一日の終わりに訓練する。
それがこのところの日課だ。
「ていっ!」
アニキのみぞおちに棍棒を叩き付ける俺。
ちょっと顔をしかめるアニキ。
あんまり効いてねえし! みぞおちに思いっきり棍棒を叩き付けたのにあんまり効いてねえし! どんだけ弱いの俺! さすがゴブリン、ゲームによっては最弱候補ゴブ!
いや違う、わかってる。
原因は俺が弱いせいじゃない。実際弱いんだけどね! 雑魚ゴブゴブ! まあそれはそれとして!
戦闘訓練を始めて判明したこと。
アニキのスキル【鱗化】は、鱗状になった肌のところが打撃に強くなってるっぽい。
アニキは顔の半分を残して、上半身も腕も足も鱗な感じの肌になってる。
だから非力な俺の攻撃じゃほとんどダメージを与えられないみたいだ。訓練がはかどるね! さすがエリートゴブ! 雑魚ゴブの俺とは違う突然変異の革新ゴブゴブ!
俺が弱すぎてツラい件。
神様ァ! チートの件どうなってるんですかねえ! 話したことありませんけども! でも異世界転生にはお約束じゃないすか!
あ、ちなみにアニキに打撃が効きづらいって言っても無効なわけじゃない。
いまみたいに俺の攻撃がいいところに入ったらちょっと痛いらしいし、それに。
「オクデラ! アニキのここんところに一発お願いするゴブ!」
「待てゴブリオ、オクデラに攻撃されたら俺も痛いわけだが」
「ゴブリンの弱点、まあニンゲンとか人型ならたぶんだいたい弱点だけど、それを身をもって知るためゴブ! 弱点を狙うようになったらアニキはもっと強くなるゴブ!」
「う、うむ。強くなるためには必要か。オクデラ、やってくれ」
「ダ、大丈夫? オデ、力、強イ、ゴブリオ言ッテタ」
「かまわん。頼む」
「そうだオクデラ! ビビってたら強くなれないゴブ! ほらほらひと思いにドカンと!」
……全力で攻撃したのに効いてないのが悔しかったわけじゃないよ? だからオクデラを煽ってるとかそんなんじゃないからね?
これはアニキにゴブリンの弱点を教え込むため! あとオクデラの弱気を直すために必要なんだ! 必要なことなんだ! ちょっとは痛がれアニキィ! 訓練のたびに俺は痛い思いしてんだぞ!
オクデラの棍棒がアニキのみぞおちを打つ。
あ、ちなみにオクデラ用の石斧と木の盾も完成してます。
訓練では石斧は使わないけどね! 死んじゃうから! 俺は!
うん、アニキにもダメージが通ったみたいだ。
アニキは地面に両ヒザをつけて、カラダをくの字に折り曲げてる。
「オ、オデ、アニキ、大丈夫? オデ」
オロオロと泣きそうな声で心配するオクデラ。
さすが純情系オーク! ヒロインかな? オークだしオスだけど! 俺こんなヒロインやだ! というか純情系オークってなんだよ!
「心配するな。たしかに効いたが、これは訓練だ。うむ、ゴブリオ、理解した。他にも弱点があったら教えてほしい」
……。
アニキはアニキでイケメンすぎィ! さすが行動イケメンゴブリン! 見た目はアレなのに!
あ、うん、俺が一番ゲスいモンスターしてますわ! 元人間なのに! ニンゲンって怖いね!
モンスター種族の存在理由や人間という種の怖さと汚さを哲学しながらアニキにいろいろ教える俺。
うん、こうして考えると【鱗化】はマイナススキルじゃないのかもしれない。
見た目アレだけど! でもこれでアニキが顔もイケメンだったら俺と行動してなかったからいいか! ブサメン万歳! ゴブリンのイケメンってよくわからないけどね!
マイナススキルがないなら。
オクデラの【鈍感】ってどうプラスになるんだろうなあ……やっぱり主人公的な? でも【難聴】スキルが足りないよ?
鈍感。
普通に考えて、感覚とかが鈍いこと。
うーん、痛みに鈍いとか? だったら戦闘に関してはプラスな部分があるんじゃない?
「オクデラ、ちょっといいかな。アニキみたいに攻撃をカラダで受けてほしいゴブ」
「ワカッタ。オデ、攻撃サレル。痛イ、ナイ、イイナ」
そう言って、ちょっとうつむくオクデラ。
罪悪感やべえ! 言葉が通じないオークの群れを追い出される時めっちゃ攻撃されたのかとか想像しちゃったじゃん!
と思いながらも、オクデラの腕に棍棒を叩き付ける俺。
鬼畜ゥー!
しょうがないよね、俺ゴブリンだし! 小鬼とか言われるし! それにこの検証は必要だし!
オクデラはたいして痛くないようで、ちょっと首を傾げている。
「痛くないゴブか? ちょっと腕を見せてほしいゴブ」
オクデラの腕をとって見る。
俺の攻撃を受けたところは赤くなっているが、オクデラに痛みはないらしい。
グッと押してみる。心を鬼にして。まあカラダも小鬼なんだけど! ゴブリンだからね! ハハッ!
「ウッ!」
「あ、ごめん、オクデラ。でもこれでわかった! オクデラにぴったりの攻撃があるゴブ!」
打撃を受けた箇所を押したら、さすがに痛かったらしい。
顔をしかめるオクデラに、言い訳するように伝える俺。
俺の言葉を聞くと、オクデラが目をキラキラさせて見つめてくる。
ピュアかよ! 罪悪感やべえ! でもちゃんと思いついたから!
痛みを感じにくい。
盾役としては大事なポイントだと思う。
痛いからって腰が引けたり逃げたら大変だからね! うん、もう肉壁にしようなんて思ってないから! どうしようもない時はするけど! 外道ゥー!
「オクデラはデカくて、力持ちだ。痛みも感じにくい。だから、盾を構えて突進すればいいゴブ! 勢いをつければゴブリンなんか蹴散らせるゴブ!」
「なるほど。確かにオクデラが突進してきたら、俺にはかわすことしかできない」
あ、うん、かわせんのねアニキ。そりゃそうだよね。
「い、一対一なら避けられるかもしれないけど! 敵がたくさんなら避けられないゴブ!」
おい、それじゃ突っ込んだ後、囲まれるじゃん……ダメじゃん俺のアイデア。
「オ、オデ、オデガ、攻撃シテ、蹴散ラセル……」
あ、うん、乗り気なのねオクデラ。そっかそっか。
駆け抜けたり、狙ったところで止まれるように練習すればイケるかな? もちろんメインは盾役でお願いしたいんだけど! 攻撃されると痛い雑魚ゴブとしては!
「よーし、じゃあ訓練するゴブ! みんなで強くなって森で生き抜くゴブよ!」
ごまかすように叫ぶ俺。
アニキはうむ、とばかりに頷いて、オクデラはギュッと拳を握って。
俺たちはまた、訓練を続けるのだった。
あれ? アニキは【棍術】と【鱗化】があって、オクデラも【鈍感】が実は戦闘に役立ちそう。
ねえ俺は? 俺のスキルは? 【覗き見】と【逃げ足】なんですけど! 戦闘に役立ちそうにないんですけど! え、この三人、ひょっとして雑魚って俺だけ?
……そ、そんなわけねえし! きっとまだ気づいてないだけでチートとかあるし! あるよね神様? あると言ってくれ!
そして、5日が経って。
「うん。ゴブリオもオクデラも、これほど戦えるなら問題ないだろう。明日からは狩りに連れて行こう」
「よっしゃあ! がんばってきた甲斐があったゴブ! モンスターを倒してレベルアップしてやるゴブ!」
「レベルアップ? ゴブリオ、何のことだ?」
「あ、気にしないでアニキ、こっちの話ゴブ!」
ついに、アニキと一緒に狩りに出る許可が出た。
ついでに、森の歩き方や獲物の追い方、モンスターや獣の討伐方法も教えてくれるらしい。
ありがとうアニキ! マジであの時アニキに声かけてよかった! エリートゴブ様々ゴブ!
待ってろモンスター! 明日は敵即斬して殲滅してレベルアップして雑魚ゴブじゃなくなってやるゴブ! 明日がおまえらの命日だ! 俺の命日にならないように気をつけようっと!
けっきょく武器系スキルは生えなかったけど……大丈夫だよね神様? 訓練を続けたり敵を倒せば武器系スキルも生えるよね? それにレベルアップもあるよね? 種族進化みたいなアレもあるよね? チートくれェ!
「戦イ、行ケル。オデ、ミンナ、一緒、行ケル。オデ、オデ……」
あ、うん。
よかったなオクデラ。
いままでずっとぼっちだったもんな。
これからは森で一緒に戦えるって。
俺とアニキと一緒にがんばろうな。
だからほら、そのうれし涙を拭いてな。
……乙女かよ! オークなのに! オスのオークなのに! 俺こんなヒロインやだからね!





