第十話 木の上で生活をはじめたら、三人の中で俺が一番モンスターっぽいんですけど!
アニキに案内してもらったバオバブの木を拠点にしてから10日が経った。
太い幹の上はすり鉢状になっていて、なかなかいい感じだ。
フチがちょっと高くなってるから落ちにくいしね! 寝返りうったら落ちたとかシャレにならん! いや俺じゃなくてね? オクデラがやりそうだと思ってね?
幹の上はゴブリオこと俺とアニキ、オクデラが並んで寝るにはちょっと狭いけど。
でも夜は交代で見張りしてるから、三人並ぶことはないし問題ない。
うん、ぼっちじゃないってすげえラク! ちゃんと寝られるし! ありがとうオクデラ! マジ誘ってよかったアニキ!
下からは見えなくて、登りづらい木。
おかげでいままで襲われたことはない。
「初めて登った時は、ほんと大変だったゴブ」
俺とアニキはよかった。
とりあえず上をチェックしようって話になって、最初に挑戦したのは俺。
一角ウサギの角と錆びたナイフを手に持って、幹に刺しながら登ったのよ。
途中まで登って、ツタを上に投げて枝にひっかけて、そこからはラクだったけど。
あ、初日の夜に作ったツタのロープです! うん、なんでも取っておくもんだね!
あとやっぱり死体漁りも大事だね! 角も錆びたナイフも死体から持っていったヤツだから! 今後も死体を漁るつもりです! ヒュー、外道ゥー!
で、俺が最初に登って。
アニキはラクだった。
俺が一角ウサギの角と錆びたナイフを落として、途中まで登ってもらって。
あとは俺が上から垂らしたツタを掴んでもらって。
うん、チームゴブリンな俺とアニキは簡単にいけたのよ。
問題はオクデラだ。
オークのオクデラだ。
オクデラはデカい。
身長2mぐらいで、体重100kgは超えてそう。
俺とアニキが二人でやったって引っ張れない。
ハシゴを作ろうとしたんだけど、そもそも手頃な木材がないし縄もない。
というか刃物が錆びたナイフと黒曜石のナイフしかない。
悩んだね。
そんでオクデラは言ってたね。
「オデ、下デ、イイカラ。オデ、仲間、守ル」
健気すぎだろオクデラ! オークってそんなんだったかおい! EDか! EDがオクデラの自信をなくさせてるのか!
あまりにあんまりなんで、俺とアニキでうんうん考えて。
けっきょく、倒木を探してきた。
デカくて太めなオクデラの体重に耐えられそうな太さの倒木って、すげえ重かったけど。
そんで二階建てぐらいの高さに届く倒木って、すげえ重かったけど。
ゴブリンとオークでも普通のニンゲンよりは力があるのかもなー。じゃなきゃ3人がかりでも運べないっしょ。
それか元の世界と木の種類が違うから実は軽いとか? なんでかバオバブが森に生えてるし! まあ考えてもわからないけど! 俺ゴブリンゴブ!
ともかく三人がかりで運んで、不器用そうなオクデラのために一角ウサギの角で滑り止めの刻みをつけて。
拠点に選んだバオバブに、倒木をナナメに立てかけて。
ようやくオクデラも登れるようになった。
だからいま、拠点にいる時は倒木が立てかけてあるんだ。
モンスターが上がって来れなくもない。
なので俺はバオバブの樹皮をはいで縄を作ってる。
ひたすら作ってる。
縄梯子にしようと思って。
縄梯子なら三人上がったら巻き取っちゃえばいいし、出かける時も隠しやすいからね!
それに縄があればいろいろ使える。
だいたいあの倒木、オクデラが登る時にギシギシ鳴ってるし! いつ折れてもおかしくないから! 俺の番じゃないことを祈る! さすがゴブリン、鬼畜生ゴブ!
ということで、俺は拠点でちまちま縄を作ってる。
「今日はアニキ、何か獲ってこれるかなー。そろそろ木の実だけじゃなくて肉を食べたいゴブゥ……」
生肉だけどね! 最初はビビったけど意外に腹を壊さなかったゴブ! さすがゴブリン!
いまアニキは森に狩りに、オクデラは川で洗濯……じゃなくて、落ちてる木を拾ったり、細めの木を折ったりしてる。あと食べられる木の実を集めたり。
いや俺もサボってるわけじゃないからね! 縄って大事だから! 縄があればハシゴが作れるし、他にもいろいろ縛れるし! ほら、女の子だって縛れ……いないけど! ここにはゴブリンとオークしかいないけど! 縛ったところで誰得だよ!
……あれだ、作業に慣れてくるとついついどうでもいいこと考えちゃうね。俺ゴブリンだけど元人間だから。考えるアシだゴブ!
俺の仕事が一番ぬるく思えるけど、縄は大事だ。
とりあえず縄梯子を作って、あとは荷揚げ用の長い縄も作りたい。
いま、荷物抱えて倒木登って拠点に運んでるんすよ……。
最初のツタのロープは長さが足りなくて。
倒木はナナメってるから危ないし大変なんすよ……オクデラなんていつ転ぶか。
アニキ? アニキは大丈夫そう。なんたってエリートゴブゴブ! 革新ゴブ!
それに縄ができれば、武器を作れる。
アニキはせっかくスキル【棍術】があるんだし、そのまま棍棒を使ってもらうつもり。
それよりオクデラだ。
とりあえずいま、オクデラには持ち手を削った太い木を持たせてる。デカい棍棒だね! オクデラのオクデラな棍棒は役立たずだけどね! EDだからね! すまんオクデラ!
オクデラの力は強い。
だから倒木を運んでこれたんだし。
俺とアニキだけじゃぜったいムリ!
すげえなってオクデラを褒めたら頬を染めてた。照れたらしい。
ピュアかよ! ピュアなオークってなんだよ! 哲学かよ!
オクデラはせっかく力が強いんだから、棍棒の先に縄で石をくくり付けて、石斧を作ってやろうと思ってる。
あといまオクデラが持ってきてる木を縄で束ねて、木の盾も作るつもり。
石斧と木の盾。
それなら不器用なオクデラでもイケるでしょ。あとすげえオークっぽいし! ちょっとずつ自信を取り戻そうな! そうすればきっと治るから!
俺の武器?
俺は木の棒に一角ウサギの角を縄でくくり付けて、槍っぽいのにする予定。
接近戦とか怖い……じゃなかった、ほら、俺スキル【覗き見】とか【逃げ足】あるからね! 投げてもよし、突いてもよしな槍にする予定!
接近戦にビビってないですよ? 俺をビビらせたらたいしたもんですよ? あ、ゴブ生ビビりまくってたわ!
でもほんとにビビってるわけじゃなくて、スキル構成を活かそうと思って。
遠くから覗き見て、イケそうなら槍を投げて一撃離脱。
それに俺の武器はそれだけじゃない。
もう一つの武器はもう腰にぶら下げてる。
いや腰の真ん中の方じゃなくてね! 横ね! 真ん中にもぶら下がってるけど武器じゃないから! むしろ弱点だから!
腰の横に、ニンゲンにやられたゴブリンのボロい布を使ってぶら下げてる。
石をいくつか布でくるんだだけの簡単な武器。
でもこれ実はすげえ強いの。
ブラックジャック。棒状バージョンじゃない方。
ほら、靴下にコイン入れて振り回したら武器になるってヤツ。アレよアレ。
【覗き見】が得意で【逃げ足】が速くて武器はブラックジャック。
……アレかな? 俺、裏社会のお仕事でもするつもりなのかな? ゴブリンなのに! あ、でもずるがしこくて卑怯なのはゴブリンのイメージ通り? 俺、元人間だけどね! なんか俺が一番モンスターしてませんかねえ……。
そうそう、黒曜石のナイフはアニキにあげた。
狩った獲物を捌くのに、ナイフがあるとやりやすいだろうと思って。
拠点に血の臭いがつかないよう、アニキは外で獲物を捌いてくる。
肉は食用で、皮はいま加工中らしい。
あと一角ウサギの胃袋も。
なんかふくらませて干したら水を入れる皮袋になるんだって。
……それか! くんできた水がいっつも臭いと思ってたら! 死体漁りで手に入れた皮袋も臭いと思ってたら! いや必要だからしょうがないけどね!
はあ、文明的な生活を送れるようになりたいなあ。
すぐニンゲンに、とは言わないから! せめて刃物、金属の刃物をください!
ナイフの錆は水をひいて石でこすって落としたけど、貴重品だしできるだけ使いたくない。
芯まで錆がまわってたらポキッと折れちゃうし。
「ボスゴブリンから剣を盗んでくればよかったゴブ」
……うん、発想がゲスい! まあしょうがないよね、アイツら仲間じゃないから! 最近やっとアニキとオクデラを仲間って思えるようになったぐらいだし!
ちなみにアニキやオクデラが下にいると、里のゴブリンを見かけることがあるらしい。
ここもゴブリンの縄張りの中だから。
ゴブリンは舌打ちするか無視するぐらいで、襲ってくることはないそうだ。
いちおう俺とアニキは同族だしね! なんだかんだ甘いなアイツら! あれ? 俺の方がモンスターっぽい考え方? さすがゴブリン、鬼畜生!
まあ見逃してくれるんならラッキーだ。
そんなこんなで、この木の上を拠点にして10日、森暮らしは順調だ。
もうすぐ縄梯子には充分な長さになるし、これができれば拠点はもっと安全になる。
上にあげちゃうか外せばいいからね!
そうすれば武器作りにも取りかかれる。
武器ができたらアニキに稽古をつけてもらって、雑魚モンスターとか獣を狩るんだ! ほら、レベルアップとかあるかもしれないし! 訓練すれば武器スキルが生えるかもしれないし!
アニキにもオクデラにも、訓練と狩りのことは話してる。
アニキは賛成で、オクデラもビビりながら賛成してくれた。
森で生きていくには強さは大事だって。そりゃそうだ! 弱肉強食! 俺が狩られないようがんばるゴブ!
ゴブリンの縄張りでちょっとでも安全を確保しつつ、武器を作って、訓練する。
うん、ゆっくりだけど前に進んでる気がするね!
ニンゲンになりたい? そりゃ変わらないけど、まず生き延びることが大事だから! 森での生活とか油断したらすぐ死ぬから!
とりあえず。
武器を作って、雑魚でもモンスターを倒して。
レベルアップがあることを期待します!
頼むぞ神様ァ! チートの一つぐらい用意してるでしょ! 用意してるよね? お願いします! ほんとマジでお願いします!