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第九話 アニキのスキルは普通だったのでとりあえず三匹、いや三人の拠点を探します。


 オークのオクデラのスキルと称号は微妙だった。

 ぶっちゃけ微妙すぎてツッコミが追いつかないぐらいだった。

 あまりに微妙で、思わずそっと肩に手を置いて励ましたぐらいだ。


 純情ぼっち弱気オークで、同族とは言葉が通じなくて【鈍感】で【ED】だもんなあ。

 一緒にがんばろうな。


 オクデラの肩に手を置いて、うんうんと頷く俺。

 仲間扱いに感動したらしく、オクデラは泣いている。

 いやチョロいなおい! さすが純情系!


 アニキはそんな俺たちを見て満足そうだ。

 仲良きことは美しきかな、とか思ってるんだろう。「新しき村」とか作っちゃう?

 あ、うん、村はともかく住処はどこかに作らなきゃいけないんだけど。

 さて。


「アニキ、アニキにも試してほしいんだ。『スキルウィンドウ』って言って、浮かんだ模様を書いてほしいゴブ」


「ゴブリオが言うのなら、きっと必要なことなんだろう。『スキルウィンドウ』」


 物わかりいいなアニキ! あと俺はゴブって付いちゃったけどアニキは付かないのな!

 どっちが元人間かわからないゴブ!


 アニキが集中して地面に文字を書いている間、俺はまわりを警戒する。

 ゴブリオ、できるゴブゴブ。

 背中を岩につけて、左右と正面。

 風で葉っぱが揺れる音とか、遠くから鳴き声が聞こえるけど、いまのところ近くは問題なさそうだ。

 ありがとう俺の【覗き見】スキル! きっと役に立ってるって信じてる!


「ゴブリオ、終わったぞ。それで、これに何の意味が?」


 ペン代わりの木の枝をそっと地面に置くアニキ。

 声をかけられた俺は、アニキが書いた文字を見る。


 それはやっぱり、ぐちゃぐちゃに崩れた文字だった。

 外国人が書く、日本語のような。


 オクデラより見やすいのは、アニキの方が器用だからかな。

 そういえばDEXとかSTRとかないのな! 俺、魔法使いたい! ゴブリンだけど! INT低そう!


 アニキのスキル。

 俺はワクワクを抑えて目を向ける。



 まずスキル【夜目】。

 お揃いだなアニキ!

 俺にもアニキにもあって、オクデラにもある。

 ひょっとしたらゴブリンとかオークとかの種族共通スキルなのかもしれない。

 でも、三匹とも夜目が利くってのはメリットだ。

 夜の見張りもラクになるね! 今日から俺ぼっちじゃないしね!


 次。

 スキル【ゴブリン語LV3】。

 LV、3。

 うん、なんとなくわかってた。俺よりアニキの方がしゃべりうまいもんね! 俺、時々語尾にゴブって付いちゃうもんね!

 元人間より話ができるゴブリンってそれどうなの? ゴブリン的にアリなの? むしろ元人間的にアリなの?

 よし、がんばろう俺。

 たぶんLV3だと語尾にゴブが付かないんだろうし! たぶんだけど!


 続いて。

 スキル【棍術】。

 おお、あるんだそういう武器系スキル! さすがアニキ! 木を削っただけの棍棒が輝いて見えるぜ! 気のせいだけど!

 ……あ、俺もオクデラも武器系スキルないわ。

 さすが雑魚ゴブリンと弱気オーク。

 この差はなんなんですかねえ。


 最後。

 スキル【鱗化】。

 …………。

 何だコレ。いやまあ何かはわかる。

 アニキの顔とか腕とか足とか、このスキルの効果なんだろう。

 もっとこう! 効果の詳細とか! ヒントくださいよォ!


 もしかしてこの世界、マイナススキルとかあるタイプなんだろうか。

 オクデラは【鈍感】持ちだったし。

 考えたところで答えは出ない。

 だいたいなんで日本語なのかもわからないし。

 保留だ保留。


 大丈夫、オクデラの時より落ち着いてる。

 【鱗化】はともかく、スキルに変なのなかったし! むしろ俺より優秀なゴブリンな感じだったし! エリートゴブゴブ! アニキって呼んでもいいですか! あ、もう呼んでたわ! ゲギャギャッ!


 さて、あとは称号だ。


 称号【突然変異の革新者(ミュータント)】。


 …………。

 うん、もう「新しき村」作っちゃう? 武者小路(むしゃのこうじ)(さね)あっちゃう?

 これアレじゃね? アニキ主人公なんじゃね? 俺むしろ脇役とか、物語を盛り上げるピエロ的なアレじゃね? これ俺死んでアニキが覚醒するパターンじゃね?


 オクデラの時に続いて、後ろの岩に頭を打ちつけ出した俺。

 止めてくれたのはやっぱりアニキだった。

 アニキィ! 俺、死ぬ気はないからね! いざとなればアニキを肉壁にして逃げるからね! ゲスいけど鬼畜生だからしょうがないよね! 元人間だけど!


 アニキに止められて、深呼吸を繰り返す俺。

 落ち着け、落ち着け。

 素数を数える? ゴブリンにそんなのわかるわけないゴブ! 元人間だけど!


 よし、ちょっと落ち着いてきた。

 とりあえず、二人のスキルは把握した。

 うん? 二人? 二匹? 一ゴブ一オーク?

 ……アレだ、みんな人型だから二人でいいか! めんどくせえしな!


 二人のスキルを把握したことだし、次だ。

 俺? スキルだけ伝えても説明しないとわからないだろうから、とりあえず黙ってます。

 いくらアニキの休憩場所だからって、ずっといたら危ないだろうし。


 次。

 俺たち三人の、住処の問題だ。


「なあアニキ、安全な住処って心当たりない? 俺たちは森で暮らすわけで、でも里には入れないわけで。寝るところがないと困るゴブ」


「そうだなゴブリオ、家は必要だな。どんな場所がいいだろうか」


「うーん。とりあえずゴブリンの縄張りの中の方が安全だろ? だからその中で、水場に近くて……何より安全第一かな。モンスターやニンゲンから見つからないとか、逃げ場があるとかいいゴブなあ」


「ふむ。里以外となると難しいものだな。ゴブリオ、昨夜はどこで過ごしたんだ?」


「昨日は木に登って、太い枝に腰かけてたよ。落ちないように縛ってた。ちょっとウトウトしたぐらいゴブ」


「すまない。やはり昨日、俺が里にいれば……」


「アニキ、それはもういいんだって! それで、どうゴブ?」


 うん、なんかもうアレだ、語尾にゴブが付くのはスキルのせいかもと思ったら、気にすることもなくなったよね。ニンゲン何にでも慣れるものゴブ。ニンゲンじゃないけど! ハハッ!


「そうか、木の上か。確かに見つかりにくいだろう。であれば……いい場所がある」


「よっしゃあ! さっすがアニキ! 案内をお願いするゴブ!」


 ……アレ? アニキがゴブリンで、俺が元人間だよね? いまの会話、自然に逆転してない?


 あ、ちなみにオクデラは会話に入ってきませんでした。

 同じオークとは言葉が通じなかったから、理解できる会話が交わされるのを初めて見たんだって。どうしたらいいかわからなかったんだって。

 ぼっちこじらせすぎだろ! しょうがないけどさ! オークなのに【オーク語】ないから!


 がんばろう、がんばろうな、オクデラ。

 俺、応援してるよ。

 大丈夫、いつかEDも治るって。

 あ、それは関係なかったわ。



「ゴブリオが木の上で過ごしたと聞いて、この木が思い浮かんだんだ。ここはどうだ?」


 アニキの声が耳に届く。

 どうやらアニキが案内したかった目的地に到着したらしい。

 俺の耳に届くけど、あんまり頭には入ってこなかった。


 だって、だってさ。

 え、ちょっと待って、なんでこの木がここにあんの? ここ森だよね?


 森の中、左右にも木があって、もちろん低い木とか薮もある。

 なのに、その木がそこにあった。

 サバンナとかに生えてる木。

 バオバブ。


 ほら、アフリカの写真とかで、乾いてるっぽい地面に生えてるヤツ。

 ぶっとい幹で途中に枝がなくて、上の方だけ枝が広がってるヤツ。

 徳利みたいな形で、なんか禍々しい見た目で悪魔の木とか呼ばれるヤツ。


「登るのは大変だが、上まで行けば下からは見えないだろう。木の上か。たしかに安全性は高い。盲点だったな」


 アニキの感想が耳に届く。

 どうもゴブリンは木に登る習性がないらしい。


「どうしたゴブリオ? ここじゃダメか?」


「なに言ってんだアニキ! 最高だよアニキ! よっしゃ、これで勝てるゴブ!」


 バオバブ。

 下からは見えないし、登りづらい形の木。

 高さは二階建ての一軒家ぐらいで、この木はバオバブにしては小さい方だろう。いや、サバンナのバオバブと同じ種類か知らんけど。ここ異世界だしね!

 幹の太さはバオバブの特徴で、この木も直径で3オクデラぐらいありそう? だいたい6メートルぐらいかな。


 この木に登れれば地上にいるモンスターからはかなり安全だと思う。

 あのクマなモンスターはこれでもなぎ倒しそうだけどね!

 それに……。


「アニキ、この木の実って食べれるゴブ?」


「ああそうだゴブリオ。たまに落ちてくる実はごちそうだぞ」


 やっぱりか!

 バオバブの実は食べられるし、種子からは油が採れる。

 樹皮をはがして加工すればロープにもなる。

 いざとなれば、この太い幹の中に水分が溜まってる。

 サバンナのバオバブと同じならね?


 おおおおお! 最高っすよアニキ!  鳥系と猿系の対策は必要だけど地上はほとんど気にしなくていいし! よしよしよし! アニキに声かけてよかった!


「ゴブリオ、オデ、オデ、下デ、平気。オデ、登ル、大変」


 オクデラ、健気(けなげ)かよ!

 …………あ、どうしよ。

 オクデラはデカくて不器用だ。

 この木に登るのはムリっぽい。っていうか俺も大変じゃん!


「なに言ってんだオクデラ! 大丈夫、登れるようになんか考えるゴブ!」


 でも大丈夫! 元ニンゲン様の知恵を舐めるなよ! このゴブリオにかかればすぐ木登りの道具ぐらい思いついて……思いついて……えーっと、どうしよ。


 だ、大丈夫!

 純情ぼっち弱気健気オークを肉壁として地上に置き去りにはしないから!

 肉壁にするつもりなんて最初からこれっぽっちもなかったし!


 がんばろう、がんばろうなEDオーク!

 いつかEDも治るから!

 あ、いまそれは関係なかったわ。

 すまんオクデラ。



■ ゴブリオ(ゴブリン)

 【スキル】

  夜目、ゴブリン語:LV2、覗き見(ピーピング)、逃げ足

 【称号】

  森の臆病者(チキン)


■ オクデラ(オーク)

 【スキル】

  夜目、ゴブリン語:LV1、鈍感

 【称号】

  オーク the ED


■ アニキ(ゴブリン)

 【スキル】

  夜目、ゴブリン語:LV3、棍術、鱗化

 【称号】

  突然変異の革新者(ミュータント)

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