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六階に着いた。そこにもきちんと部屋があった。僕は住人がいるのか気になったが、すぐに別のあることを発見した。まだ階段がある。まだ見ぬ七階がある。僕はもうためらうことなく歩みを進めた。恐怖など微塵も感じなかった。ただ先へ行きたい、先を知りたいと思っていた。
そして、七階の先には、八階があった。その先には当たり前のように九階、十階があった。十階まで来たら、もう二倍の高さである。しかし、階段は何ともないように上へ続いている。僕は迷わず進んだ。十一階、十二階、十三階。不吉な数字でも迷わず上り続けた。上りに上って、僕はもうここが何階なのか解らなくなった。僕は流石に恐ろしくなった。怖くて怖くて、駆け足で五階に戻りたくなった。しかしそれは出来なかった。僕の身体は呪いにかけられたように自分の意思とは無関係に独立して動いていた。これじゃダメだ! 僕は全身に力をみなぎらせて、全力で身体の動きを止めた。そのとき、右足で何か柔らかいものを踏んだ。恐らくチューインガムだろうと察した。本日二度目だ。僕は、一体自分は何をやっているのだろうと呆れ、初めて後ろを振り向いた。その瞬間、見事に僕は腰を抜かした。
そこには、人間とも他の動物とも言えないようなおぞましい生物(なのかも解らない)がいて、その異常に巨大な眼で僕を凝視し、その大きな口で笑いながら僕の首に両手を伸ばし、次の瞬間、すさまじい力で首を絞め始めた。そして、意識が朦朧としている僕に、それは笑いながら言った。
「君の後ろにずっとついていたよ。だけど君は全然振り向かなかったね。だから君の思いは相当強いってことだよね。何を言ってるのか解る?」
しかし声なんて出る筈がなかった。僕はその場に倒れ込んだ。ここまで来て僕は死にたくないと思った。呆れるくらい身勝手な奴である。
結局、僕は死んだのに死にきれなかった。おかげで、永遠とも思える時間、名前の知らない場所で浮遊し続ける羽目になった。そしてあるとき、下の階から、死にたがっている誰かがこちらに上って来たような気がした。
僕がこのサイトに初めて投稿した短編小説『無限階段』は、この第3話で完結する。この小説は、今年の2月末から3月にかけて執筆した。その後、細かい部分に筆を入れ、今回の投稿に至った。