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病み憑き  作者: 坂戸樹水
5/6


 体があんな調子だから速度は遅いが、時間をかければ星加チャンには追い着けるだろう。

俺の足には どうしたって敵わないだろうが。


 星加チャンは恐怖の余り、遂に腰を抜かす。

ビタン! と尻餅を付き、俺に手を伸ばす。


「ぁ、阿久津、クン、た、たす、けて、一緒、逃げ、て、」

「ぁ、あ、ああ!」


 そうだ。置いて行く何て出来ない。


「掴まって!」

「ぅ、うん、」


 俺が手を取るも、星加チャンは何度も何度も両膝を地面に突く。

膝からはダラダラ血が流れていて、でも 手当てしている時間は無い。

俺は容赦なく引っ張る。


 モヤシ男を見れば、かなり近づいて来ている。

この儘では追い着かれる。間違いなく。そう思うと、俺の体は震えた。


(ォ、オイ、今更ビビッて体が動かなくなるとかアリか!? マ、マズイ! マズイぞ!!)


 渡辺は、もうスッカリ飲み込まれた頃だろうか?

そう言えば、蛇は自分の体よりデカイ物を平気で丸呑みするが、食べた後は消化に時間がかかるから暫く動けないのだと、何かの映画で見たっけ。


(なに呑気な事、考えてんだ、俺!! 早く逃げ ――)


 緊急時、脳はパニックを起こす事を恐れ、何の変哲も無い日常を思い出させたりするって、そんな小ネタも何処かで……あぁ、マンガ本だ。



「きゃぁあぁあぁ!!」


「!!」



 気づけば、星加チャンの足首をモヤシ男の手が掴んでいる。


「いやぁあぁあぁ!! ヤダぁあぁあぁ!! 助けて! 助、助けてぇえぇえぇ!!」


 モヤシ男は星加チャンを力任せに引っ張る。

俺の手からは、スルリ……と、星加チャンの手が離れる。


「いやぁあぁあぁ!! 阿久津クン!!」


 星加チャンの絶叫。

もう1度、星加チャンに手を伸ばそうとしたが、もう遅かった。

モヤシ男は這い蹲りながらバタつく星加チャンの両足を一纏めに押さえつけて、自分の口の中に押し込んでいた。


(あぁ……コイツも、こうやって食べるのか……)


 細い手の割りに力は強いのか、星加チャンはモヤシ男から逃れられず、必死に腹這いになって俺に手を伸ばす。

然し、その努力も虚しく、ズルズルと男の口の中に飲み込まれて行く。


 ふくらはぎ。膝。


 飲み込まれていく毎に、星加チャンの顔色は赤くなったり青くなったり、涙をボロボロと零しながら叫ぶんだ。


「ぎぃやぁあぁあぁ!! イタ、痛い!! 痛い!! 痛いぃぃ!! 阿久津、クぅン!!」

「せ、星加、チャン……」


 見ているだけの俺には良く分からないが、痛いらしい。


(ぁ、あぁ……ソレもそうか、

男の喉に星加チャンの両足が飲み込まれて行ってるのが見えるけど、もうだいぶ締めつけられて、細くなって、片足分の太さも無い。

骨は細かく砕かれているだろうから、痛いに決まってる……)


「星加…」


(生きたまま飲み込まれるって言うのは、どんな感じ何だろうか?

あんなに苦しんでいるのに、どうして星加チャンは生きていられるのだろうか?)


 尻まで飲み込もうと言う所で、モヤシ男は立ち上がる。



「ぎゃあぁあッッ!! ……、、、がぁ、あ、がッ、が、、」



 立ち上がった遠心力を利用して、星加チャンの尻を丸っと口の中に収める。

その瞬間、星加チャンは渡辺のように震えだした。

そして、訳の分からない短い濁音を叫びながら、口から血の塊を吐き出す。

噴水のようなスプラッシュだ。



ゴボゴボ、、ドバ……!!

ボトボトボト!!



 ソレでも意識は鮮明らしく、黒目が、俺を見ている。

口は、多分 俺の名前を呼んでいる。声は出ないでいるから分からないけれど。

もう、あの愛らしい星加チャンの面影は微塵も無い。

目も頬も落ち窪んだ山姥のような顔だ。


「ご、めん、星加、チャン……」


 俺は ゆっくり後ずさる。星加チャンから目を離さずに。


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