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病み憑き  作者: 坂戸樹水
4/6


 開け放たれたドアを見つけるのは容易い。直ぐ手前のロッヂだ。

俺は怖ず怖ず そちらを見やる。男が2人。

渡辺は男達を見るなり、ホッと肩の力を抜き、愛想の良い笑みを浮かべる。


「あぁ! すみません、えっと、今日 予約した、」


 渡辺が言い終えぬ間に、ずんぐりむっくり太った男が1歩を踏み出す。

その瞬間、俺は無意識にも叫んだ。



「駄目だ、渡辺! 逃げろ!!」



 分からない。

何故そんな事を言ったのか、自分でも見当が付かない。

渡辺も理解できない様子で、キョトンと間抜けヅラを俺に向ける。

ソレが、渡辺の相手に与えてしまった隙だ。

太った男は瞬く間に渡辺に掴みかかる。


「!? ――ぅ、うわぁ!!」

「渡辺!!」

「きゃぁあぁ!!」


 太った男は渡辺の頭に齧り付く。

何が起こったのか解からずに混乱する渡辺は、バカな事に手荷物を捨てもせず、大事に抱え込んだまま逃げ果せようとしている。


「渡辺!」

「ぅ、あぁあぁ!!」


 1度は太った男の手を振り払うが、渡辺は躓いて転んだ。

星加チャンは半分 腰が抜けかかった体で必死に走って逃げようとしているが、

俺は何故か、ソレが出来ずにいた。


 助けを求めて手を伸ばす渡辺に、背を向ける事が出来なかったんじゃない。

兎に角 奇妙な光景が、俺の体を凝結させたんだ。


「ぅ、ぁあ、ぁ……ぁ……」


 太った男は渡辺の頭が気に入ったのか、驚く程 大きな口を開けてスッカリ口内に収める。

太った男の口の中から、人間の首から下が生えてるみたいだった。

口の中に入ってしまった渡辺の顔がどんな表情を見せているか、そんな事は分かりっこないが、手足がバタバタと暴れている。

ソレはまるで、水揚げされたばかりのイカやタコのように。


 そして、太った男の口に渡辺の両肩が飲み込まれる頃には、暴れていた両手足はだいぶ大人しくなり、指先が痙攣するように細かく震えた。



(渡辺……まだ、生きてる、のか……?)



 どれだけ時間が経過したのか分からない。

ドアの前で佇む男も又、太った男の食事の様を無表情で見つめるばかりで動こうとしない。



「ゎた、な、べ……」



 まだ、痙攣している。


(駄目だ……見ちゃいけない……見届けちゃいけない……)


 理性が、硬直していた俺の体を動かそうとしている。

まさに金縛り状態だ。ソレでも ゆっくり黒目で逃げ道を探す。

来た道を見やれば、星加チャンの背がだいぶ小さくなっていると知る。


(逃げ、逃げるんだ、俺も、で、でなきゃ、俺も……)



 渡辺のように飲み込まれる。



 そう思った途端、止まっていた時間が動き出した。

俺はダン! と思い切り地を蹴り、走り出す。

その音に佇んでいた男も我に返ったのか、俺を追う素振りを見せるが、ソレを振り返って確認する余裕は無い。


「星加チャン!!」


 生まれたての子鹿のような星加チャンに追い着くのは容易かった。

本当なら、夢の中を走る時のように足が縺れて……って、ソレくらいの危機感がある筈なのに、俺ときたら全くの逆で、全力疾走・猛ダッシュが叶っている。


 俺は星加チャンを追い越す傍ら、背後を振り返った。



「ぅ、わ、あぁあぁあぁ!!!」



 さっきは出なかった叫び声もサッと飛び出した。



「な、何だよ、アイツ、手、手足が、手足がぁ!!」



 俺が余りにも取り乱して叫ぶもんだから、余裕も無いのに星加チャンは後ろを振り返る。


 太った男は、まだ渡辺を飲み込んでいる最中だろう。

追い駆けて来たのは、手足がヒョロ長いモヤシのような男だった。

どうも手足を上手く扱えないのか、奇妙な角度で関節をしならせながら這い蹲って、俺達を追い駆けて来る。

白目ばかりで黒目が無いから何処を見ているのか分からないが、追って来ると言う事は見えているのだろう。


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