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「もしかして、コレじゃないのかな?」
「えぇ? だって、何も書いてナイじゃん!」
「だから……バス停自体こんな錆ちゃってるから、時間、消えちゃったんじゃないかな?」
「はぁ!? ソレ、困るンですけどぉ!?
こっからバス乗り継いで20分かかるって、パンフには書いてあったんだよ!?
どーすんのよ!?」
どうするもこうするも、ココには待合ベンチも無ければ、タクシー乗り場も無い。通りかかる車すら1台と見えない。
いつ来るか分からないバスを待つか、地図を頼りに歩くか……
そのどちらかしか無いだろう。
(オーイ、何だよ、この計画性の無さぁ……)
幹事責任を問いたい。
でも、星加チャンを責められる筈も無い。だから必然的に渡辺を睨む。
(ハァ……今頃、島田の奴はゼミ仲間と海に行ってんだよなぁ、羨ましい……)
「渡辺、どうすんだよ?」
「えっ?」
「時間が消えっぱなしなのか、廃線になったから消したのか、その辺も分かんないんだろ?」
「うん……ロッヂに電話して迎えに来て貰おうか!」
渡辺にしては良い発想。
然し、早速 電話をかけさせるも、何度コールしようと誰も出ないと言う。
(チェックインの時間が近づいてるってのに、受け付けに待機すらしてねぇのか!?)
5回にも渡って電話をかけたが、敢え無く敗退。
スッカリ不貞腐れる星加チャンは、渡辺に目を向けるでも無い。
全て太一の所為だ! と、その背は言っている。
渡辺は溜息を落とし、仕方なしに言う。
「歩こう。1本道みたいだし、迷わないだろうから」
結局、労力を使わざる負えない状況。
星加チャンは反論する余地も無く、渋々と足を運ばせる。
ソレでも、手荷物の全ては渡辺に持たせているのだから、かなりの高待遇だ。
ガサガサガサガサ……
凸凹の土の上を歩く。
最初の内は星加チャンのご機嫌取りに笑い話を投下していた渡辺も、この灼熱の温度と2人分の重い荷物に疲労が隠せない。遂には項垂れ、無言になった。
(森を抜ければ景色も変わって、気も晴れるだろう)
そんな一縷の希望を抱いてはみたものの、延々と続く森の中を ひた進むだけ。ただ分かるのは、陽の翳りが色濃くなった事。
携帯を見れば、時刻は13時を過ぎた所。
最悪な事に、ココは電波が通っていないらしい。
グネグネと地味なアップダウンを繰り返す1本道を1時間余り歩いた所で、漸く山奥ロッヂの看板を発見。一気にテンションが上がる。
星加チャンは道の先を指差し、やっと笑顔を見せる。
「ねぇ、アレじゃない!? ロッヂ、何個も並んでる!」
森の中にウッスラと浮かぶウッディーな建物は、間違いなくロッヂ。
思わずガッツポーズ。足取りを速めて俺達はロッヂへと邁進。
200m程を歩いた所だろうか、
ロッヂの群れを眼前に収めるなり、俺達は言葉を失う。
(ボロイ……って言うか、何だよ、ココ、使われてるのかよ?)
本来 茶色いだろう柱や壁が、蜘蛛の巣が張って白んでいる。
勿論、人の気配も無い。安いにしても限度がある佇まい。
ソレは星加チャンも同じく思ったらしく、愕然としている。
渡辺は苦笑を浮かべ、気持ちを紛らわせるように言う。
「も、もしかしたら、使われてない方のロッヂなのかも知れない!」
「何? その、使われてない方って?」
「良くあるじゃないか。新館 作って、旧館を壊さないまま残しておくホテル!
兎に角、話を聞いてみないと!」
そう言って、渡辺は受け付けを探して右往左往。
俺は ただただ廃墟のような周囲を見回す。
(何か、嫌な予感がするんだがぁ……理由は分からない、でも……)
足元を見るも地面にタイヤ跡も無い事から、車の出入りも無い事が判る。
(道を間違えたか?
迷いようも無い1本道だが、そもそも下りたバス停が間違っていたって事は?)
俺は預かったままのパンフレットを鞄から取り出す。
コレに書かれた通り、順路に間違いは無さそうなのだが……
次の瞬間、バタン!! とドアが開く。
「「「!?」」」
俺達は驚きの声をゴクリと飲み込み、体を固くする。
ソレ程、精神的に怯えきっていたと言う事だ。




