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(つか、
『迷惑だ帰れ』って言えない渡辺の小心ぶり知ってて聞く俺も性格ワリぃよなぁ。
でもしょうがない。可愛い星加チャンに誘われて断るバカが何処にいる?)
別に、渡辺に恨みは無い。
寧ろ、この手の性分の男は友達として理想的。
前にも出なけりゃ後ろに下がりすぎもしない。兎に角、便利なんだ。
だから、大学を卒業するまでは良い付き合いを続けたい。
「あ! バスだよ! 時間ピッタリ!」
荷物は渡辺に押し付けて、バスの到着を今か今かと待ち侘びる落ち着き無い星加チャン。
「ロッジって、なん部屋あんの?」
「ンとねぇ、リビングと2階にベットが3つ。
私も同じ部屋だけど、イイよねぇ? 阿久津クン?」
あわよくば。
ちょっとした あわよくばを狙ってるだけで、渡辺から星加チャンを奪おうとは思ってない。
「あ~ああ。俺は気にしないよ」
「フフフ! そ? 良かったぁ~~」
そんな邪な思いで、俺は2人のデート旅行に乱入した。
バスに乗り込んで、目的地までの1時間半、渡辺は眠っていた。
いや、眠ってはいないだろう。狸寝入りだ。
バスは2人座席だって言うのに、星加チャンは端から決めていたように俺を隣に座らせたもんだから、渡辺は文句1つ言わず後ろの座席に1人で着いた。
本当なら部外者の俺が気を使って2人を一緒に座らせてやるものなのだろうが、
渡辺は せめてもの抗議のつもりか、直ぐに背凭れを倒して寝の体勢に入ってしまったから、俺は面倒臭くなって星加チャンの計らいに流される事にした。
そうして、星加チャンは『宿泊先のパンフレット』だと言って、白黒の簡易印刷された用紙を1枚寄越した。
「ロッヂの近くに小さい湖があって、スワンボートも漕げるって書いてあるからさぁ、荷物 置いたら乗りに行こ!」
「良いけど、ソレって2人乗りじゃないか?」
「ん。そーだよ? 一緒に乗ろ?」
(ホラみろ。星加チャンは絶対 俺に気がある!)
「渡辺は?」
「太一は直ぐ疲れた疲れたって言うんだモン。ほっとけばイイよ」
「ハハハ! そんじゃぁしょうがねぇか!」
可愛い星加チャンのおねだりポーズを断れる筈が無い。断りたくも無い。
俺は少し有頂天。優越感に浸りながらパンフレットに目を落とす。
(山奥ロッヂ。沢山の自然がお持て成し……
って、山ん中で何もねぇってオチとか? 湖がどうのって書いてあるけど、胡散臭いな?)
宿泊は1泊2食付き。
自家源泉の温泉も引かれてるって言うのに、1人3千円もしない低価格。
こうまでしないと客が引けない程の山奥か?
ソレを判断したくても、ロッヂの写真が荒くて良く見えない。
そもそも このパンフレット……
と言うには褒めすぎな、学校のわら半紙お便り以下のクオリティーに加え、随分 古い物のように思う。
「星加チャン、コレ、何処で見つけたの?」
「大学の図書館。
本の間に挟まってて、誰か、しおり代わりにしてたんじゃないかなぁ?」
「有効期限みたいなの、大丈夫かぁ?」
「大丈夫だよぉ、電話で予約したんだからぁ。
まぁ、受け付けの人、結構 年くってそうだったけど。
でもでも、田舎のロッヂってそんなモンって思うよ?」
少し不安はあったが、この破格値は懐寂しい大学生には有り難い。
1人で来たわけじゃ無し、3人でいれば多少の事は笑って流せるだろう。
バスの車窓からは見渡す限りの田んぼ。
そこを過ぎると、舗装もされていない森の中に突入する。
無造作に茂った木々がバスの窓にガチガチと容赦なく ぶつかる。
(薄暗いな……)
分厚い緑が太陽の日差しを遮断し、外も車内も薄暗い。
そんな中にバスが停まる。
「降りるよ!」
星加チャンに急かされ、俺と渡辺はバスを降りる。
一先ずエコノミー症候群。壮大な景色を眺めながら両手を広げて伸びをして、
(山の中すぎて何も見えねぇ……)
雑然とした雑木林の様な景色が目の前に広がる。
壮大さの欠片も無い。
(オイオイ、何だよ……
手入れもされてねぇし、本当に何もねぇじゃねぇか!
山中に遺棄されたと言っても過言じゃねーぞ、コレ!)
川すら流れてない。ただただ山の中。
車道なのか歩道なのか、ソレすらも分からない。
俺が不安に思う中、星加チャンは錆びたバス停の周りをクルクルと回る。
「ココから またバスに乗るんだけどぉ……時刻表、ナイとかぁ!?」
星加チャンが声を尖らせると、渡辺は慌ててバス停をチェックする。




