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確率都市:ペルシル編  作者: 中崎実
はじまりの日
9/16

8.

 作戦中の事故は良くある話だが、それでも検証の対象にはなる。


『まして今回は高高度からの突入作戦だ、事故が起こらないと思う方がおかしいぞ』


 誤射を装った故意ではないか、と聞かされて、まずそう言ったのが中破した本人だった。


 ボディは胸から下が破損した状態なので、今は中枢ユニットだけが取り出されて保護ケースに入っている。とはいえ通信画面に映っているのはいつもの遺伝子推定像だから、特に違和感はない。


「降下後の事故ですし、そもそも第3回の突入は地上からですね」


 冷静に指摘したイシグロは、感情を表に出していなかった。


『たしかに降下時の事故ではないが、想定の範囲内の事故だぞ。荒事なんだから仕方あるまい』

「あなたの撃たれた状況には不審点がありまして」

『一部情報遮断のある状態で、味方援護のために俺もイレギュラーな動きをせざるを得なかった、という点は考えてくれ。誤射があってもおかしくはないぞ』

「考えるからこその検証です」


 前局長ラシュマーと繋がる団体が動いていた、との情報もある。

 それはα(あに)も知っているはずだが、とイシグロはちらりと考えたが、すぐにα(あに)の性格を思い出していた。

 キレれば別だが(そして戦闘知性体だからこそめったに激昂しない)、本来の性格が強く出ているため基本的に人が良いし、味方や保護対象に対して甘い。


 すぐに疑う気にはならないだろうな、と心の中だけでため息をついた。


「検証作業には私も立ち会います。よろしいですね」

『まあ仕方ないだろうな。それは仕事としてか、家族としてか』

「両方です」


 B二〇二二でも特にイシグロが所属する文化圏では、オリジナル側が認めさえすれば生体情報コピー体(クローン)は血縁者として扱われるし、稼働する情報コピー由来の情報知性体も同様の扱いとなる。

 そして六歳になるまで違法コピーとして実験動物扱いされていたイシグロが保護された際、αともう一人はさっさとその手続きを済ませている。αのオリジナルの情報クローンについては多少揉めたものの、明らかに遺伝子情報が共通するαに関しては直ぐに認定が下り、法的に家族と認められていた。


 さすがに二人とも子育てをした事が無いので、養子として育ててくれたのはイシグロ夫妻だったが。


『なるほどなあ。裕保(ひろやす)の差し金か』


 オリジナルの人格情報をもとに再構成された情報知性体、稼働開始順序で言えば長兄にあたるヒロヤス・ヨコタ准将の性格を熟知していれば、答に辿りつくのは簡単だろう。


「あの人以外に、こんな嫌味な人選をする上官がいると思いますか」

『あいつ、嫌味にますます磨きがかかったな』


 万が一の際、B二〇二二連合宇宙軍連絡将校として口は出せない事があっても、家族としてなら介入できる事もある。何が何でも情報をとるつもりだ、と人選を見ただけで判ろうと言うものだ。


「准将はもともと、監視局に良い感情を持っていないでしょう」

『そこは仕方ないだろう。勝手に作りだされて、半端なポンコツ扱いされたあげく消されそうになった上に、俺が稼働するまでは一人でやり合ってたわけだからな。好きになれるはずもない』


 自分だって一度殺された上に、『種族変更したから、脳の一部が残っている以上は殺してません』というとんでもない屁理屈で勝手に改造され復活させられているα(あに)なのだが、そこは気にしない事にしているらしい。

 この図太さは少し見習うと良いのかもしれない。生きていくのが非常に楽になりそうなものだが、しかしあれは戦闘知性化の時点で付与した反応だと思うよ、とは長兄(ヒロヤス)の意見で、つまり遺伝的素因と言うわけでもなく、イシグロには無関係の素質という事だった。


『それで、検証作業の時にはこちらの記録も開示する必要があるが、どうする』

「どう、というと?」


『没入型検証にするか、客観型検証にするか、という意味だ。申し出ることはできるからな』


 本人が携帯していた記録デバイスの情報を直接検証できるのが、没入型の長所であり短所だ。本人の状況を把握するには良いが、第三者視点での情報には欠けてしまう。


「没入型も申請しますよ。お忘れのようですが、私は陸戦隊にいましたからね」


 まったく経験がないならとにかく、類似作戦に従事していた事もあるし、情報過多で酔った事もない。作戦内容の点で許可が下りるかどうかはとにかく、両方の記録を申請しておいた方が良いだろう。


『そこは忘れていないが、ちょっと派手に暴れたからな。酔うかもしれない』


「情報量じゃなくて、そっちですか」

『生身の三半規管にはいささか、挑戦的だと思うぞ』


 次兄(サカエ)の「ちょっと」が意味する事を思い出し、流石にイシグロもしかめ面になった。


この3人の関係ですが、

オリジナル(サイボーグ化された時空犯罪被害者)

├ 横田裕保(情報クローン、容疑者死体情報再構築で誕生)

└ 横田榮(オリジナルの脳の一部+裕保の情報を元に誕生したハイブリッド)

  │

  └ レイ・イシグロ(榮の生体組織から誕生したクローン)


となってます。

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