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確率都市:ペルシル編  作者: 中崎実
はじまりの日
3/16

3.

 一方、本人たちの預かり知らぬところで教官の頭を悩ませていた娘達は、実にお気楽に研修生活を送っていた。


 そして4週間の研修コースともなれば、当然だが休日というものがある。

 さらに言うなら、時間線を越えたところでヒト若年女性の好みは変わらない。

「というわけで、スイーツ巡り!」

「ファッションも見とかないと!」


 他研修生と盛り上がっている様子は、どこに行っても変わらぬ光景だった。


「あ~……君ら、ずいぶん打ち解けたね」

 呆れたように冠毛をぴこぴこさせた智竜族のフィドラテルも、たいがい図太いと言っていいだろう。少なくともヒト若年女性のけたたましさ(いやまあ智竜族の若年女性だって似たようなもんだが)に付き合える程度には図太い。

「まあね~。あ、フィドラテルは買ってきてほしいもの、ある?食べ物とか」

「う~ん、君らと味覚が違うからいいや」

「頭につけるリボン、いらない?」

「冠毛につける気でしょ」

「判る?」

「判んないわけないでしょうが。要らない、重いから」


 冠毛がへにゃりと垂れて、フィドラテルの気分をあらわしていた。


「そっか、残念」

「気を使ってくれてありがとう、でも本当に要らないからね?!」

 冠毛が垂れたままのフィドラテルの後ろで、ヒト科のアドル・ウェイスが肩を震わせて笑いをこらえていた。

 そんな同期にもちろん、フィドラテルは

「アドルひどくない?笑ってないで助けようと思ってくれないかな」

 こう抗議したわけだが、アドルはにやにやしているのを隠そうともしなかった。

「いやいや、楽しそうでなによりだよ。そういえば、明日の夕方にB二〇二二から視察が来ると言ってたから、それだけ伝えに来たんだ」

「あたしらって、それで何かやる事あります?」

「多分ないと思うけど、誰か訓練生と話してみたいと言ってたようだからね」

「あんまり関係なさそう……」


 そんな事をお気楽に言ってから、娘達はまたプランを練り直して出かけて行った。


「ずいぶん回る予定だよねえ」

 フィドラテルの尻尾が呆れたように(実際、彼の種族にとっては呆れているという意味だ)ゆらゆら揺れていた。

「若いっていいねえ」

 30代も半ばのアドルは、自分の半分くらいの年齢の娘のショッピング・ツアーがどんなものかを思い出しつつ、笑っていた。

 自分が付き合わされるのでないからこそ、笑っていられるようなものだが。あのけたたましさに半日以上つきあわされるのは、キツい。

「それより、B二〇二二から視察?」

「実際には我々に関係ないよ。アキとアカネは起源個体(オリジン)と関与してるから、その調査だ」

「君のところの軍からかな?」

 アドルはB二〇二二出身の、元軍人だった。

「まあね」

「C級線出身者が君のところの起源個体と関与してるというのも、面白いね」


 起源個体、とは種の起源となる遺伝子データの持主のことだ。種族によってその数は様々だが、現存する種で起源個体が生存している例は非常に稀だったし、そもそも時間線をまたいで関与している事も少ない。文化レベル的にもCクラス線以下なら、B級線諸種族起源個体(オリジン)は関わりが無いのが普通だ。


「起源個体がずいぶんぶっとんだ人でねえ……今はここで勤務してるんだよ。で、アキの推薦人だ」

「現役?年齢がずれてないか」

 一般に、確立した種であれば起源個体(オリジン)は最低でも100年以上前に成年していた個体だ。そしてアドルの時間線の知性体は哺乳類だから、とっくに寿命が来ているはずだとフィドラテルが考えるのも、自然なことだった。


「彼に由来する種が固定されて100年ちょっとしか経ってないし、本人は150年近く強制冬眠させられてたからね。まだ若いはずだよ」

「強制冬眠?穏やかじゃないねえ」

「まったく穏やかじゃないんだよ」

「戦闘種の起源個体、ということかな」

「それも本人の同意なく作られた種の、だ」


 あからさまにきな臭い。


「しかし生殖相手ってわけでもないだろうに、あの二人」

 起源個体が男性で、接触したのが若年女性となれば、まず心配すべきは遺伝情報の漏出だ。子供を作ればそれで良い。

 しかし悪いがまだ若すぎて繁殖期という感じでもない、彼女たち経由で遺伝情報が漏れることもなさそうだが、と実に率直に言ったフィドラテルに、アドルが苦笑した。

「起源個体がそもそも他人と関わりたがるタイプじゃないから、異常事態なんだよ」

「あ~……もしかすると、将来は情報漏洩するかな」

「そこまでは勘定しなくていいんじゃないか?そもそも種が固定した以上、遺伝子データとしてはそれほど貴重でもないのが現状だし。ま、一応は調査対象だな」

「それもそうだね」


 と、その視察要員が来るまでは、二人も実に気楽に考えていた。

智竜族は恐竜の子孫です。

リアル現代に生き残る同族は鳥類になります。

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