1.
時間軸上は「ゼロ・アワー」と「帰還」の間に位置する話です。
2016年初出。
亜紀・茜はいつもどおりですが……
現地採用・現地勤務が基本のC級観測官は研修も現地で行うのが基本だが、いくつかの例外はある。
「本部研修対象となるのは特殊能力を有する者、または将来のB級昇格対象者となる者、ねえ」
「あたしらはどう考えても特殊能力の方だよね」
のほほんと言ったのはもちろん、ピボットファインダーでもある木村亜紀だった。
「まあそうだよね~」
アクシスホッパーの御舘茜も、亜紀の言葉を否定する気は全くない。
そんな娘たちに、教官のグェン・タンが笑顔をひきつらせていた。
「君達、推薦状のサインを誰にもらったか忘れたのか」
「強制捜査課の御舘さんと、横田さんですよ?」
これは亜紀。
「私は東京支局長と横田強制捜査官ですね」
これは茜。
二人とも、『このおじさん、なにを当たり前のこと聞いちゃってるの?』と言わんばかりに、まったくの平常モードで応えていた。
「その三人が推薦してくる特殊能力者、といえば本部も身構えるわよ」
苦笑したのはタンと同じ教官のジョイス・アーラン観測官だった。
「え、そうなんですか?」
「あ~……」
ジョイスの言葉に、娘二人の反応が分かれる。
亜紀はきょとんとして首をかしげ、茜は何か思いついたようだった。
「茜、なんか心当たりあるの?」
「他は知らないけど、兄貴は曲者扱いなんじゃないかなあ」
「え~?」
「ほら、防人だから」
「ああそっか、地元の特殊部隊だっけ?」
茜の兄、御舘藤吾郎雅之は強制捜査課の観測官で、ペルシル線の小国・豊洲の特殊部隊出身者だ。
ペルシル人が聞けば、それはよほどの猛者だろうと簡単に想像が付く。
アーヴィングトン崩落地と呼ばれる時空災害地にあるトヨスは、自然転移という時空災害に見舞われた直後に、時空監視局から強制捜査と称する戦争を吹っ掛けられた歴史を持つ国だ。住民の半数を失い、殲滅の危機に晒されながらもゲリラ戦と外交戦を繰り返し、生存を勝ち取ったサムライたちの末裔が作る国。その国の特殊部隊員といえば、相応の訓練を受けている人材と用心されるのも無理は無い。
しかし亜紀は『でもそれ、雅之氏が変わってるだけであたしを特別扱いする必要はないよね』と言ってのけ、それを聞いたジョイスの苦笑が大きくなり、グェンがため息をついた。
「支局長さんがよほど大物ってことですか?」
横田さんも現場の人っぽいし、大物の可能性がある人っていったら支局長さんくらいですよね。と更に率直な事を言った亜紀に、グェンはため息をつき、ジョイスはくすくす笑った。
「キョースケは大物、というより曲者よね。あれで保安部の大ベテランよ」
「普通の人っぽかったんですけど」
「見かけは、な……」
グェンはいささか疲れた様子だった。
この様子だと、この娘達に彼女たちの保護者(横田はこの二人を保護する気だろうし、御舘は名実ともに茜の保護者だ)の異常さを説明しても、さっくりスルーされるに違いない。無論、キョウスケの事もただの支局長としか思っていないだろう。
「それより、本部研修と現地研修が分けられてるってことは、内容も違うって考えていいんですよね?」
自分の推薦人については横に置くことにしたらしい茜が、話を元に戻した。
「そういうことね」
「ん~、ってことは、現地研修しか受けてない人には言えない事もある、ってことであってますか?」
ほややんとした口ぶりだが、亜紀の言ったことは正鵠を射ていた。
「そういう事よ」
「後で、そのへんもちゃんと教えてもらえるんですよね?」
下手な事を喋ってバイトをクビになるの嫌ですから、といういかにも学生らしい物言いに、ジョイスの笑みがますます深くなった。
お気楽娘こと亜紀・茜の特殊能力のくだりについては、東京編(http://ncode.syosetu.com/n7888bu/)をご参照ください