第1話「日常から異常へ」
太陽がいつも通り秋に入りはじめた寒くとも澄んだ空気の空を照らしに上がりはじめた朝方。
特に特徴のない当たり前に存在して、当たり前に並んでいる簡素な住宅街に建っている一軒の家から、あたたかい料理のにおいが流れてきた。
その家の中からは慌ただしい喧噪ではなく、落ち着いた会話と、テレビの音声が聞こえてくる。
「本日、日本時間6時50分にノルウェー海に出現していた魔族の塔を、魔法使いたちとEUの連合艦隊が破壊したとの情報が入りました。この戦いに参加した魔法使いは・・・・・」
今は朝の7時半、俺・母・父(姉もいるが早々に家を出ている、大学が遠いらしい)で朝食を食べていると、リーンリーンだかポーンポーンだか高い音が鳴り、臨時ニュースが流れ始めた。
そのニュースを見ていた両親は感心したように「ふ~ん」とか言いながらすぐに朝ご飯に戻る、あまり興味が無さげである。
確かノルウェー海ってイギリスの上のほうだっけ?
日本からは遠いけどさ、魔族の拠点の一つが潰れたんだから喜ぼうよ、俺の親!
俺はさすがに興味ないとは言えないため、食い入るように見ていたのが20分前。さすがに大ニュースのため何度も繰り返しやっていたら飽きるよ。
他にこれと言ったニュースをやるわけでもないので、なんとなくテレビを見ながら母が作ってくれた朝食をもそもそと食べ終わらせた。
そのあとは特にすることもなく、同じニュースが繰り返し流れ続けているうちに登校時間になり家を出た。
「いってきま~す」
「はい、いってらっしゃい」
玄関先まで出てきてくれた母がほんわかとした柔和な笑みで手を振る。
母は毎回俺たち家族のことを送り出してくれる。昔は恥ずかしかったけど今ではこれが地味にうれしい。
そんなことを考えながら俺は学校に向かった。
家から駅までの道をなんとなしに歩く、秋に入りはじめた空気は夏のころを思うと肌寒いというよりは涼しい気持ちを持たせる。
ブーブーブブブ、ブーブーブブブ・・・・
のんびりと歩いていると、涼のポケットに入っている携帯が鳴り始めた。
この鳴り方の設定をしたのはウェルカード社からか・・・・・
ウェルカード社は魔法使い援助の会社だ。魔法というものは人間全員が使えるわけではない、最初から魔法が使える人は親の遺伝や魔法関係を知っているもののみ、また、後天的に魔法が使えるようになるころもあり、その資格は完全にランダムに人間に宿る、約10万人に1人の割合で魔力を持ったものが生まれてくるのだ。
その人間をスカウトして能力制御の訓練を課す。それ以外にも仕事の斡旋など魔法全般に対しての支援組織、それがウェルカード社だ。
ちなみに俺はスカウトされた。もともとはただの一般人で、魔法なんて本の中の世界だと思っていたのだが、ある日現れた彼らに魔法を教えられて、かなり強くなった。
俺の素質はかなり高かったようで、今では自画自賛になるが魔法使いたちの中でもかなり強いほうだと自負している。
ポケットで鳴っているつい先日交換したばかりのiPhoneを取りだして着信相手を確認、予想通りの相手だな~とか考えながら通話ボタンを押す。
「はい、こちら涼です。」
如月涼が俺の名前だ。
「あ、涼ちゃ~ん海から魔物の反応が迫ってきているから撃退お願いできる?」
電話口に出たのは明るく快活な話し方をする女性、美鈴さんだ。
ウェルカード社日本支部の人で、魔法が使えると分かってから俺を勧誘して、洗脳・・・訓練してくれた人でもある。
「美鈴さん、ちゃん付けはやめてください」
「私よりも年下で可愛い子はちゃん付けで充分よ、むしろなんで女の子じゃないのか不思議なくらいな顔してるくせに~」
「女顔なのはしかたないじゃないですか。いや、もういいです。それよりやっぱり魔物が来てたんですね? 今月に入ってから2回目ですよね」
俺が生まれてから18年、ずっと言われ続けて、言い返し続けるという変わることのないやり取りが今日も繰り返される。
「そうなのまだ7日なのにね~、どうやらまたハワイ近海の塔からこっちに来ているらしいの~、探知魔法を使う子が言うにはあと3時間くらいで千葉県到着だってぇ、衛星写真で国えら~い人たちも確認してたから、何時間か前に自衛隊の人たちも準備してるし、協力して頑張ってね~」
プープープープープー
言いたいことだけ言って切りやがった、昔からなんか強引なところがあるんだよね、この人。何時間か前に分かっていたならもっと早く連絡してくればいいのに、とか考えてはいけない。いつものことだ・・・。
さて、また魔物か・・・来てるのは感覚的になんとなくだが分かっていたが、俺を出してくれるのは久しぶりだな、前回の戦闘から一カ月は経ってるしな、新人に経験を積ませるとか言っていたが、いや・・・いいや。
さて魔物が現れてから半年、いまだに世界は無事である。
魔物とは魔族が使役している動物みたいなやつら、でかいのから小さいの、キモイのからかわいい外見をしたものまで、見た目から大きさに至るまでさまざまな種類がいるのである。
ちなみに人間界に侵攻してきているのは魔物たちで、魔族が操っている。
魔族とは見た目は全く人間と同じなのだが保有する魔力量やら、身体の内部構造なんかが人間とは違うといわれている、だがぱっと見は見分けがつかないほどに似ている。
魔物を従える力を持っていて、人間を滅ぼそうとする存在であり最終的にこいつら魔族を殲滅すれば人間の勝利だといわれている。
そしてこいつらは世界に現れた塔から人間界を侵略するために来るってわけだ。
3時間で千葉県沖に行くには俺の住んでいるココ、神奈川の川崎からだと交通機関だと金がかかるし、時間もかかるから飛んでいくか・・・・
ちなみに俺は魔法が使えるとは周りの人間にはばらしていない。
ばらしてTVとかに出たりしているやつもいるが、はっきり言ってそれはめんどくさすぎる。
べつにばれてもそんなに気にしないがな・・・、魔物と戦うときとか別に顔隠してないし。
人気のない場所でも探すか・・・・
俺は誰かに見られない場所を探して空を飛んだのだった。




