第11話「奥方様ご飯の時間です」
卒論と定期テストの勉強とレポートでやばいです。
けど感想をもらってテンションあがって書いてしまいました。
時間がないのにな~
コンッコンッ
「んぁ?」
涼は扉から出ようとしたところで聞こえたノックに足を止めた。
「入れ」
クレルが涼の肩越しに扉に声をかける。
「失礼いたします」
入ってきたのは茶髪で黒い瞳を持った侍女服を着た女性だった。彼女は鋭い生真面目な視線とすべてを見透かすような眼光で、扉から出るために近くにいた涼をにらみつけた。
突然性格のきつそうな女性ににらまれて一瞬ひるんだ涼だったが、自分よりも20cm近くは背の高いその女性をにらみあげる。
ここにいる奴らは全員魔族だ。少しも気を抜いちゃならない・・・・。いづれ殺し合いをするかもしれないんだから・・・・。
涼がそんな物騒なことを考えて警戒していると、1~2秒ほど涼のことを見ていた魔族の女性は嫌な顔一つせず、それどころか無表情で見下ろしていた顔を涼の視点の高さにまで落としてゆっくりとほほ笑んだ。
「はじめまして、奥方様。私はクレルさま月の筆頭侍女のアロウラ・リレイと申します。どうかリレイとお呼びくださいませ」
そう言ったリレイは侍女とは思えないほどの優雅な礼をしてみせた。
「え・・・あ、その・・・よろしくおねがいします?」
突然現れた真面目で笑うことのなさそうな美女がほほ笑んだかと思ったら、すごいきれいな礼をされたのだ。涼の頭は軽くパニックである。
いや・・・なんだ、何を・・・・・・ん?
奥方様?
「あの・・・奥方様とは?」
明らかに聞き逃せない単語が聞こえたのだが、きっと聞き間違いだと思いたいという願望のもとに聞き返す。
「ええ、クレル様の奥方になられたのですから、そう呼ばせていただきますが、何か問題でもありましたでしょうか?」
問題だらけだ!!
気持ち悪すぎるっての!
さっきまで男だった・・・今も男のつもりだが体だけは女だけど・・・、なのに! いきなり奥方様ってわけがわからない! 意味は分かるがわけがわからない!
「問題アリです。ぜひ俺の・・ひっ・・・・私のことも名前で呼んでください」
今俺って言った瞬間後ろから殺気がやばかった。びびったから、いきなりそんなことすんなよ、まだ私って言い慣れてないだけだから。
そう思ってそうっと後ろを振り向く。
すごいいい笑顔のクレル。
ファック! 死んでしまえ。
「よろしいのですか?」
目の前の美人侍女さんがそう問い返した。
俺の頭の上を通過してクレルにだが。
その問いを受けたクレルは変わらない笑顔で言い放つ。
「否だ」
「かしこまりました。これからよろしくおねがいします奥方様」
オワタ・・・orz
なんでこんな目に・・・・・。
俺が打ちひしがれているうちに侍女のリレイさんはここに来た用事をクレルと話し終えたようできれいなお辞儀をしてから部屋を出て行った。
「涼、どうやら食事の準備ができたようだ。こっちに座れ」
そういって部屋にある10人は余裕で座れそうな長テーブルに誘導してくるクレル。もちろん自分の隣を指さしている。
それを見ながら俺は一番離れた席に・・・・座ることなくクレルの隣に座った。
こいつのことが段々わかってきてるから・・・・。離れたところに座ったら絶対に何かやらかす。主に殺気を出しながら脅すとかな!
「食事って別にお・・・私はお腹空いてないけど?」
私って言いづらいぃぃ! そして違和感! もういっそわたくしとか言ってしまおうか、お芝居をやっているような気分になればいける気がする・・・・・、いや、やめといたほうがいいな、あとで後悔しそうだ。
「人間の燃費がどれだけのものかはよく知らんが・・・涼、貴様はここにきて20時間は経っている、腹が減っているはずだろう? 自分の体調位把握できていないわけがなかろう、もしわかっていなかったのなら虫にも劣るぞ? あのゴミみたいな存在でも腹が減れば気づくはずだ」
コイツハコロシテシマイタイ。
なんなんださっきから! 言葉の節々に棘が多すぎるんだけど! 仮にも自分の・・お・・おんな・・、に向かって! 俺のことが嫌いならそう言えよ!
一気に不機嫌オーラになる涼。
相変わらずにやにやとしながら見ているクレル。
そこにリレイがなん何人かの侍女とともにカートに乗せて料理を運んできた。
「お待たせいたしました。クレル様、奥方様」
次々と湯気の上がる料理がテーブルの上に乗せられていく、匂いはとても食欲をそそられるおいしそうな匂いだ。
あくまでも匂いだけだけど・・・・。
おかしくね? なんでスープの色が青いの? なんでハリセンボンにしか見えないものがサラダのように盛られてるの? なんでローストビーフのようなにおいを出す料理はどこからどうみても人の手にしか見えないの? それなのに、なんで匂いだけはおいしそうなの?
気づいていなかった空腹感が刺激されて涎が口の中にたまるのを感じるんだけど、見た目がアウトだ。どこの地獄の料理だよ、悪魔の食卓みたいだ・・・・見た目だけ。けど、ここは魔界だからある意味予想通りなのか?
「食え」
いや、無理。
「・・・ちょっと食欲が・・・・」
「食え」
「・・・ないかな~・・」
「食え」
「・・・なんて・・・」
「黙れ。食え」
これ・・・・泣いてもいいよね?
どうすれば断れるのか思案しながら唸る。
「なぜ食べない、人間の生態は詳しく知らないが魔族と大差はないと聞く。ならばこの料理はかなりの美味だから食べられるはずだ」
クレルは少しいらついているようで、次第に顔の笑顔が薄れて行く。
「いや・・・なんというか、匂いはおいしそうなんだけど。見た目がまず・・・あまり好ましくないというか、その・・・」
なんか不機嫌になっていくんですけどこの人!
ついほんとのこと言っちゃったけど大丈夫だよね・・・・。
「そうかそうか、ただの好みの問題か。俺の用意した料理を涼は食べたくないというわけか、随分と偉くなったものだ。食べ物のえり好みをするとは、しかも見た目だけでという食べもしないのに料理の価値を認めない。人間という種がそうなのか、涼がそうなのかは定かではないが・・・・・・食え軟弱者」
うぐっ!
これはその通りだから堪える。
けど、見た目は大事だと思うんだよ。見た目だけで食欲は大きく変わってくるって初めて知った気がする。
フォークを右手に持って料理に伸ばしたり引っ込めたりを繰り返す涼。
「よし、わかった。こっちに来い」
「うわっ」
そう言うなり涼のイスを掴んで自分のイスにぶつけるかのように引き寄せるクレルは、さっきまでの不機嫌さなど微塵も感じさせない笑顔で涼の顔を見る。
「俺が食べさせてやろう」
「・・・・へ?」
そう言って左手で涼の腰のあたりをがっちりとつかんだクレルは、口を半開きにして呆けている涼にスプーンですくった青色のスープを捻じ込んだ。
「むぐぅ!?」
えっ、ちょ・・まっ・・。
咄嗟に口の中の物を吹き出そうとしたが、いつの間にかにスプーンを持っていなかったクレルの右手で口を覆われて顎を持ちあげられる。
いきなりのことで気が動転した涼はそのままスープを飲みこんだ。
それを見たクレルは満足したように手を離した。
「けほっけほっ、ク・・・クレル何すんだ・・んぐふ!」
俯いてむせていた涼が叫んだ瞬間に今度は切り分けられた肉を入れられる、その出所を見ると人の腕のような肉の一部が綺麗に切り取られていた。そして、もちろんクレルによって口をふさがれる。
「むぐぅぅぅぅぅ!!」
むりむりむりむりぃぃ!
絶対おかしいって! 食べるものじゃないよ~、すごいやわらかいし、肉汁は溢れてくるし、焼き加減は絶妙だし、こぼれてくる匂いは食欲を誘うけど・・・・・・アレ?
おいしい?
「・・・ぅくん」
なんか普通に飲み込めた。
「どうだ? うまいだろう。涼に味がわかるかどうかは知らんが、たとえ庶民だろうと多少は分かるはずだ」
なんか悔しいし、認めたくはないけど確かにおいしい・・・・。
さっきの青いスープも見た目に反してさっぱりとした野菜とフルーツのような味だったし・・・・。
「う・・ん、おいしい・・かも。あとは自分で食べてみるよ」
チャレンジ精神で頑張ってみよう。思ったよりもおいしいモノが多いし、案外魔族との味覚の違いはないのかもしれない。
「だろうな、俺が認めるほどの料理だ、まずいはずがない。さて、続きだ」
そう言ってさっき見た針山のサラダにフォークを突き刺すクレルだが、ちょっと待て。
「大丈夫、自分で食べられるから」
手をぶんぶんと振りながら自分のフォークを持ち直す。食べれますアピールも忘れない。
「気にするな、俺も楽しくなってきたところだ。黙って食え」
「いや・・・その、えっと・・・・はい」
クレルは涼の返事を聞くと、針山のサラダを自分の皿に盛って何かを振りかけた。ドレッシングのようなものをかけられた明らかに食べることが不可能そうな針は、途端に柔らかくなりそれを涼の口に運んだ。
「・・・・はむ」
おとなしくクレルの差し出すそれを食べる。今度は口を押さえられることはなかった。
味は水菜に近いかな? ちょっとピリッとするけどそれがいいアクセントになってる。
けど・・・・・恥ずかしい。
なんで、自分で食べさせてくれないの? もう食べるんだから自分で食べたい。確かにさっきは逃げようとしたけどさ・・・・。それにリレイさんがすごいニコニコしながらこっち見ていて恥ずかしすぎる。だけどクレルが俺の言うことを聞くわけないってのは分かって来たしな~。
涼はこの後もお腹いっぱいになるまでクレルに食べさせられたのだった。




