3話:色々と話し合いました
「ふむふむ、その魔導師ゲルツっつー悪い奴が君をこっちに送り込んだ訳か……。酷いことをする、けしからん!」
ズルズルズル
「こっちに来た影響なのか分かりませんが、呪いが半分解けたようになって、この様な姿になれるようになったんです。でも、この姿で人前に出るのは怖くて出来なかったし、何より言葉が分からなくて……。あなたに渡したのが翻訳の腕輪で、魔法の道具なんです」
ングングング
「この腕輪で言葉が通じるようになったのか。そーいや、これどっから出したん? こんなの持って無かったよね?」
ズズズズズ
「この宝石の中からです。マリン・クリムゾンの中には、幾つか魔法の道具が入っているんです、この服もそうなんですよ。あ、綺麗にしていただいて、ありがとうございました」
パクパクパク
「あー、良いって良いって、気にしなさんな」
「ハイ……。それにしても、本当に美味しいですね! れとると食品と、いんすたんとって!」
ゴメンね、料理下手なのよ。
取りあえず、レトルトやらインスタントメインの朝飯を食いながら、自己紹介を交えつつ彼女の身の上話を聞いていた訳だ。
異世界のお姫様だったとはねー。
悪い魔法使いにこっちに飛ばされて、一ヶ月以上彷徨っていたらしい。
時々、眠って朝起きたら人間……というか猫娘になっていて、焦ったりとかもあったそうな。
その間の食べ物はどうしていたかと聞くと……。
人から恵んで貰ったり、猫好きの人が勝手に野良猫に餌をやってる所に行ったりしてたそうだが……。
そう上手くはいかず、人からはあまり貰えず(都合よく食い物持ってるとは限らんからなー)。
野良猫たちからは攻撃されて追い払われ(普通の猫じゃないと本能で察知されたのだろうか)。
結局、メインはゴミ箱漁りだったとか……。
ひ、悲惨すぎる……。
まぁ、普通なら眉に唾つけて警察に保護をお願いしてるところだが、リアル猫耳と尻尾見せられちゃねぇ、信じる他ないわ。
食い終わって食後の茶を啜りつつ、これからどうするかを話し合う事にした。
さっきの話によると彼女の両親が助ける為に行動を起こしてるみたいだし、いずれ迎えに来るのではなかろうか。
となると、それまでこの子をどうするかが争点になる訳だが……。
「………………」
「………………」
う……。そんな不安そうな、捨てられた子犬みたいなウルウル眼で見詰めないで。いや猫娘だけど。
「た……」
「ん? な、なに?」
「助けて……いただけませんか……?」
涙を必死に堪えて搾り出すような声で、ルリアーナが言った。
「も……もう……、一人ぼっちは……嫌なんです……」
あ、堪えきれずに涙が溢れた、滝のように。
だああああっ! こんな顔されてお願いされて、『だが断る』なんて言えるかああああっ! 断ったら鬼じゃねーか俺!
「分かった! 分かったから泣かないで! 迎えが来るまでここに居ていいから!」
「ほ……本当、ですか……?」
「ホントホント、ほら、ティッシュ」
チーン
こういう時、鼻をかむのはお約束だよね。
あーあー、顔グシュグシュだよ。ほい、顔上げて……タオルで拭き拭き。
「んぅ、ふむぅん、んぅん……」
………………。
ワザとか!? この妙に艶かしい声はワザとか!?
くっ、静まれ俺の暗黒面!
「あ、あの……」
頬を染め、上目使いで俺を見つめるハーフの美少女。
破壊力パネェっす……!
り、理性を総動員せよ……! 色即是空、空即是色、水金地火木土天海冥……、あれ、冥王星って今は惑星じゃ無くなったんだっけ?
「ん? なにかな?」
無関係な事で思考を埋めつつ、表面上は平静を装いニッコリスマイル。
きっと俺の前歯は無駄に煌いている事だろう。差し歯だけど。
彼女を見ていると、おもむろに立ち上がって深々とお辞儀をした。
「縁も所縁も無い私を助けていただき、心から感謝の意を表します。私、ガインハルト王国第一王女、ルリアーナ・レイヴィ・ルニア・ガインハルトはこの御恩を決して忘れず、いつか必ず報いることをお約束します」
……はっ!
い、いかん、呆然としちまった。
さっきまでの弱々しかったルリアーナが、いきなり凛とした態度でこんな風に言ってくるとは。
頭が一気に冷めちまった。下らんことを考えてた俺のバカ……恥ずかしいぜ。
やっぱりお姫様なんだなぁ……。高貴なオーラが見えるかのようだ。
しかし、面倒を見るのはいいが……問題点が一つ。
(銭がヤバイな……!)チャッリ~ン★
三日前に発売された『お兄ちゃん☆クルセイダーズ!』という妹萌えタイプのギャルゲーの初回限定版(フィギュア付き、七千四百八十円)他、色々と購入してしまった為、俺の財布の中には北風が恐ろしい勢いで吹き荒れている。
親からの仕送りにはまだ日があるし、食費を切り詰めて凌ぐつもりだったのだ。
暫くは買い置きのカップ麺やら何やら有るから何とかなるが、早急に金策を講じないとマジでヤバイ。
「……あの、どうかしましたか?」
ルリアーナが急に黙りこんだ俺に、心配そうな眼を向けてくる。
む、いかんいかん、こんな年端もいかぬ少女を不安にさせるような事は、萌えを愛する一人としてやってはならん事だ。
「ああ、何でもないよ。とりあえず、細かい事を話し合おうか」
「細かい事?」
「そ、キミの正体が他の人にばれるのもマズイだろ?」
「あ、そうですね……」
俺は幾つかの約束事をルリアーナにお願いした。
来客時には猫になって隠れてもらうこと。このボロアパートはペット禁止なのだ。
猫でも人でも、一人では外に出ないこと。危ないしな。
万一誰かに見つかった時には、喋れない振りをすること。猫声しか出せないからね、しょうがない。
耳は帽子で隠すとして、問題は尻尾か……。大き目のスカートでなら何とか隠せるか?
口裏を合わせる為に設定も考えた。『彼女は俺の親戚の子で、喋ることが出来なくて、事情があって暫く俺が預かることになった』という、まあ無難なところで落ち着いた。
「取り敢えずはこんな所だね。守れるかい?」
「はっ、はい! 頑張ります」
握りこぶしを胸元に寄せて、真剣な表情で頷いた。
いやん、行動の一つ一つが萌えてしまうわぁ、この子。
よし、まずは金をどうにかしなきゃな。
「ちょっと出掛けてくるけど、すぐ戻るから留守番しててくれるかな」
「えっ……。ど、どこに行くんですか?」
うっ、すげえ不安そうにしてる。つか、もう泣きそうになってるよ! 目がウルウルしてはりますよ!
ううん、一人にするのはまだ早いか……。ん、待てよ、猫の姿なら切り札になるか……?
「待った! 泣かないで! じゃ、じゃあ、猫になってくれるか? それなら一緒に行けるからさ」
「はい! 分かりました!」
ぱあっと、花が咲くように満面の笑顔。うん、可愛い。
と、目を閉じて何やら集中した途端、彼女の輪郭が急にぼやけた。
と思ったらその姿は消え失せ、彼女の立っていた場所には一匹の黒い子猫が鎮座していた。
おお……ファンタジーが今、目の前で……!
呪いのせいでこんな身体にされちまったんだから、感動しちゃ悪いんだろうが……。
無理だわ、感動と驚きで半分金縛りだよ。
「にゃー、みにゃーう」
『これでいいですか?』
おおお! 猫の鳴き声なのにちゃんと日本語に聞こえる!
すげー、魔法マジすげーよ。
「ああ、オッケーだ」
俺は子猫になったルリアーナを抱き上げると、戸締りを確認してから部屋を出た。
『それで、どこに行くんですか?』
「ああ、俺の……姉ちゃんの所だよ」
……ある意味、死地に赴く覚悟をせにゃならんのだが……。
異世界からの迷い子を守るため、いざ逝かん!
……あれ、字間違えた? 死亡フラグ自力ゲット?
いやーもう、腹痛というか、胃痛に悩まされてますorz
多分、季節の変わり目なので夏の疲れとかが出たのでしょう。
皆様も体調には気をつけてつかあさい……。