表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/4

EX:猫娘の正体

 作中でロストパーツという言葉が出てきますが、この世界は拙作、手乗り勇者の世界とは違う世界です。

 ロストパーツを生み出した謎の超古代文明は、様々な異世界を自由に行き来するほどの技術を持ち、それらの世界に持ち込んだ彼らの道具が文明の発展に多大な影響を与えた――という共通の裏設定になっています。

 私の作品の中の世界はほぼ全て、謎の超古代文明の影響を大なり小なり受けている世界です。





 その日は、私の誕生日だった――。




「ルリアーナ、十一歳の誕生日おめでとう!」

「おめでとう、ルリアーナ。さあ、こちらにいらっしゃい、皆が待っていますよ」


 私が王宮の大広間に入ると、国王であるお父様と王妃であるお母様や、側近の大臣たちや近衛騎士の皆様が私を拍手とお祝いの言葉で迎えてくれた。


 私は沢山のプレゼントを貰った後、お父様とお母様に連れられてお城のバルコニーへと上がって行った。

 そこからは王都の街並みが一望できる。


 白を基調とした綺麗な町並みが、太陽に照らされて輝くように私の目に飛び込んでくる。

 そして、開放されたお城の前にある広場には、私の誕生日を祝うために沢山の国民が集まってくれていた。


「姫様ー!」

「おめでとうございますー!」

「ルリアーナ姫様、ばんざーい!」


 私が皆に手を振っていると、お父様が私を抱き上げて微笑んだ。

 そのまま、また手を振ると皆の声が一層大きくなる。


「ライト国王様ー! おめでとうございますー!」

「シャリア王妃様ー! おめでとうございまーす!」


 お父様もお母様も嬉しそう。もちろん、私もとっても嬉しい。

 この国の名はガインハルト王国。

 六百年の歴史を誇る、サイライン大陸で一、二を争う大きな国。

 私の名前はルリアーナ・レイヴィ・ルニア・ガインハルト。この国の王女として生まれ、今日で十一歳になった。


 国王であるお父様は、元々この世界の人ではないそうだ。


 私が生まれるずっと前、今から、えーと……二十年くらい前に、チキュウのニホンっていう所から、先代の国王、つまり私のお爺様の行った召還魔法によってやって来たのだそうだ。


 当時、この国には強大な敵がいた……らしい。

 私はよく知らないのだけど、古代の邪神を封じていた迷宮の封印を破った悪い人がいて、そのせいで邪神の軍勢が迷宮から溢れ出した。

 そいつらはとても強い力を持っていて、いくつもの国が滅ぼされてしまったそうだ。


 お爺様は邪神に対抗する為、勇者を異世界から召還した。そうしてやって来たのがお父様だったんだって。

 お父様は、チキュウに帰ることは出来ないと聞かされて、最初は文句ばっかり言ってたらしい。


 これは無理もないと思う。私だってある日突然、全然知らない世界に呼び出されて悪い連中と戦ってくれって言われても……ねえ?


 でも、なんのかんの言いつつお父様はこの世界のために戦ってくれた。

 ガインハルト王家に伝わる聖剣を振るい、強い力を持った仲間を集め、邪神の軍勢に立ち向かい、ついに邪神を再び封印することに成功したのだ。


 こうして、この世界にようやく平和が戻ってきたのだ。

 そして、お父様と共に戦った魔法使いと結婚して私が生まれた。そう、その魔法使いはガインハルトの姫だったお母様だ。

 だから、お父様とお母様はこの世界を守った英雄なのです、凄いでしょ!


 お父様の髪と瞳は、この世界の人には存在しない、夜の空のような黒。

 最初は気味悪がられたらしいけど、今では黒の髪の毛と瞳は英雄の色って言われてる。

 強くなりたい人がそれにあやかって、髪を黒く染めるのが流行っているとかいないとか。


 私の髪はお父様譲りで真っ黒だ。

 瞳はお母様譲りで、宝石のように赤い。

 黒い髪も、赤い瞳も私はとても気に入っている。

 だって、優しいお父様もお母様も大好きだもの!


 雲一つない青空の下で民の声が響いていた時、急にその声がざわめきに変わった。

 空に黒い雲が現れたかと思うと、それが急に膨れ上がって太陽の光を遮ったのだ。

 その雲に、巨大な人の顔が浮かび上がった。


『ク、ククク……! 時は来たれり……! 久し振りだな、勇者ライトよ!』


 それが悪魔のような恐ろしい声でこう言った。

 勇者ライトとはお父様のことだ。

 私は恐ろしくて、お母様に縋りついた。お母様はそんな私をギュッと抱きしめてくれる。


「貴様は……っ! 魔導師ゲルツ!! 生きていたのか……!」

『そうよ、貴様らによって阻止された世界の破滅……! その恨みを晴らす為、力を蓄えておったのよ!』


 お父様と、ゲルツと呼ばれた雲の顔が激しく言い争う。

 確か、魔導師ゲルツは邪神の封印を解いたっていう、悪い人の名前だ。

 邪神を封印した後、行方知れずになっていたそうだけど……。


「ふざけた事を! お前が元奴隷として凄惨な目にあった事は知っている! その事は俺も同情したし、今は各国への呼びかけで奴隷制度は廃止されつつある! この世界は変わっていく! 奴隷の悲劇が無い世界にな! それでもなお、この世界を滅ぼしたいのか!!」


『私の恨みは消えぬ!! 未来が良くなろうと関係ない!!』


「……それで、性懲りも無くまた私たちと戦おうというのですか、ゲルツ!」


 お母様も声を張り上げた。

 いつも笑顔を絶やさないお母様が、怖い顔をして雲を睨み付けている。


『……口惜しいが、もはや私にそんな力は残っておらぬ……。だが……!』


 雲の顔の口の中から、何か不気味に光る物が吐き出された。

 小さくてよく分からないけど、赤や黄色や紫に光っている。


『勇者ライトよ、お前は元の世界に帰りたかったそうだな?』

「なに……?」


『私が見つけ出したこのロストパーツ、『次元の鍵水晶』は世界の壁をこじ開ける事が出来る……! お前がいた世界、チキュウへの道もな。どうだ、故郷に帰るつもりは無いか?』


「っ! ……ほう、そいつは凄い。だがな、俺はもうこの世界に骨を埋める事を決めている! ありがたい申し出だが、お断りだ!」


 お父様ははっきりとそう言った。

 チキュウへ帰ってしまうのかと思ったけど、ホッとした。お母様の顔も安心たように見える。


『クハハハハッ! そう言うと思ったわ。……なれば!!』


 雲の顔の目が私を睨み付けた。

 私は恐怖でお母様に縋り付く。


「大丈夫よ、ルリアーナ。結界を張っているから、私から離れないでね」


 私は頷いて、お母様の体にしがみ付いて目を閉じる。

 けれど、私の両手から急にお母様の体が消えてしまった。


「えっ!?」


 目を開けると、私の体は何故か空に浮かんでいた。下の方に、お城とお父様たちの姿が小さくなっていく。


『ククク……次元の鍵水晶の力は空間そのものを操るのだよ、結界など無駄だ!』


「貴様っ!! ルリアーナをどうするつもりだ!!」

『お前の代わりにチキュウへ送ってやるのよ!』

「なっ……!」


 水晶の周りに暗闇の渦巻く空間が広がって、私の体が吸い寄せられていく。


「お父様!! お母様!! 助けてー!!」

「ルリアーナ!!」

「ゲルツゥゥゥゥッ!!」


 お父様が腰から聖剣を抜いた。

 剣は眩い聖光を放ち、お父様が剣を振るうと聖光は刃と化し、雲の顔を両断した!


『グハァッ……! フ、フフフ……! ざ、残念だったな……どの道、私はもうすぐ死ぬ……』

「なにっ!?」


『鍵水晶を使うには、ぼ、膨大な魔力が必要なのだ……。十年以上、鍵水晶に魔力を吸わせてきたが、それでも不十分だったのでな……。さ、最後に私の命を使ったのだ……!』


「ゲルツ……! お前、そこまで……!」

『クハハハッ! 悔しかろうライトよ! ……だが、まだだ! ゴホッ、こ、これだけでは面白くない……』


 雲の顔の目が不気味に光った。

 私の体が不思議な光に包まれると、体が動かなくなっていく。

 怖い、怖い、怖い。

 恐怖から体を丸め、目を閉じた。

 ふと、体が動くようになった。

 恐る恐る目を開けると、自分の手が見えた。


「え……?」


 それは、丸まって、黒い毛に覆われていて、肉球があって……。


「ね、猫……っ!? ゲルツ、貴様っ!! 呪いをっ!」


 お父様の叫びに、私は自分の体を見た。

 それは全身を黒い毛に覆われた、黒猫の姿。

 私は呪いをかけられ、黒猫の姿にされてしまったのだ。


「ミャウッ!? ミャ、ミャウゥーーッ!」


 喋れない!? 人間の言葉を言うことが出来ない!


『ハ、ハハハ……! どうだ、愛娘を奪われる気分は……! グッ……右も左も分からぬ異世界で、ゴホッ、人ではなく獣として惨めに死んでいくのだ! 私が獣同然に扱われ、苦しんだようにな……! ハハ、クハハハ……ッ!』


 雲の顔が薄れていく。

 ゆっくりと、太陽の光が切れ間から漏れ出てくる。

 それとは反対に、私を飲み込む暗闇の渦は大きく強くなっていく。

 嫌だ、嫌だ、行きたくない、助けて!


「ミャアァ! ミャアアァァ!!」


 お父様! お母様!!

 どんなに声を張り上げても、私の叫びは小さな猫の泣き声にしかならなかった。


「クッ! ルリアーナ、これを!!」


 お母様が首に付けていたネックレスを引き千切り、それを私に投げた。

 ネックレスの先に付いていたのは、大きな青い宝石『マリン・クリムゾン』。ガインハルト王家に伝わる、一族の守護宝石。

 それが青い光の尾を引いて、空を飛ぶように一直線に私に向かってくる。

 私はそれを、猫の前足で何とか受け止めた。


「ルリアーナ! それを絶対に手放してはなりませんよ! あなたを守ってくれます! 絶対に諦めてはいけませんよ! 必ず、必ずあなたを助けてあげるから!」

「ルリアーナ! お前は強い! 何しろ私たちの娘だからな! 少しの辛抱だ待っていてくれ!!」


 私は暗闇の渦へと飲み込まれていく。

 世界が、私が生まれて過ごしてきた世界がどんどん小さくなっていく。


『ク、ハハハ……どこまで抗えるか、冥府で見物させてもらおう……! さあ鍵水晶よ!! 我が命を糧として……っ! 飛ばせえええええっ!! ハハ、ハハハハハハハハハハハハハ……』


「ミャーーー! ミャゥーーー!!」


 お父様ーーー! お母様ーーー!!


 世界が、消えた。

 ううん、消えたのは、私。

 浮遊感とも落下感とも思える奇妙な感覚が消えた時。

 私は、チキュウへと現れていた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ