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マザースコーピオン

「いててて、」

ジークは頭を抑えながら椅子に座っていた。

「ジーク、ごめん」

ソフィアがお皿を並べながら謝る。

「本当に災難だったわ。」

エミリアは頬を膨らませながら腕組みをしている。

「エミリアは、すぐに手が出るからなぁ、まったく。」

「なによ、ジークがいけないんでしょ?」

エミリアとジークが言い争っていると

「またなにかあったのか?」

そこにディルがやってきた。

プイっとエミリアはそっぽをむく。

そんなエミリアに苦笑いを送りながら席に座る、とディルはみんなを集めて話を始めた。

「みんなに良く聞いて欲しいんだが・・・さっきハンスが来てな。」

そして顔をしかめながら

「惑星中央政府に救援要請はしたが、時間が掛かるとのことだ。後、クランディールの方もヴァイオレットの襲撃を受けているらしくこっちに回す戦力がないらしい。」

「それって!」

「ああ、どうやら今回の一件はここだけじゃないらしいな。クランディールの状況も気になるが、いずれにせよ、救援は間に合いそうにない。」

「そんな・・・」

「ハンスとも相談したんだが、このコロニーには戦力になるTBもない。エミリアとTB一機じゃ到底しのげはしないだろう。そこで、辛い選択だが、このコロニーはあきらめることになった。」

「そんな・・・」

ジークはこぶしを握りしめる。

「そこで俺達は住民を避難させるための時間を稼ぐことになった。あくまでも陽動だからな、避難が完了したら俺達も逃げる。」

「わたしがもっとちゃんとしてれば・・・」

エミリアは悔しそうに目をを閉じ肩を振るわせた。

「エミリアのせいじゃないよ。それにクランディールも襲われてるんだ。ここも遅かれ早かれ襲撃される運命だったんだ。」

「ジーク・・・・。」

ジークを見た目は涙でうるんでいた。

「そうだな、ジークの言うとおりだ。もう時間があまりない、さっさとメシを済ませて準備するぞ。」

そういってディルはマリアたちにご飯の用意をせかすのだった。




それから2時間後、コロニーから見える位置にヴァイオレットスコーピオンの大群が姿を現した。

ギチギチと爪をこすり合わせながら、コロニーの様子を伺っているようだ。

「ハンス、避難状況は?」

ディルはトラックの中からハンスに確認をとる。

「あと半分です。」

ハンスたちはこういう事態に備えて以前からシェルター用として用意してあった近くの洞窟に避難を始めていた。

「マリア、レイ、ソフィア、しっかり誘導するんだぞ!」

「もちろんですわ!」

非戦闘員であるマリアたちはコロニーの住民の避難の手伝いに行っていた。

「いよいよだな。」

トラックのレーダーに映った索敵反応を示す無数の赤い点を見ながら、ジークは気合を入れた。

ディルは振り返ると、

「それじゃあ、準備にかかってくれ。いいか、お前達、これはあくまでも時間稼ぎなんだ。いつでも離脱できる様に深追いはするなよ。」

「分かってるわ!」

「分かってるって!」

ジークとエミリアはトラックの運転区画から外に出て行く。

「おい、ジーク!」

エミリアのあとを追って出ようとしたジークが振り返ると

「これをもってけ」

ディルの手から、ぽーんと投げられたものをジークはキャッチする。

「プレゼントだ!」

「え?」

突然のことに呆けるジークに

「今日はお前の16歳の誕生日だったな。本当はクランディールでゆっくりやるつもりだったが、こうなっちまったらしかたない。これが終わったら改めてしてやるが、取っとけ!」

ジークの見下ろした手の中には、四角柱の水晶の様に透き通ったペンダントがあった。

「でもこれって、じいちゃんの大事なものじゃないか。」

驚くジークに

「いや、それは俺の息子、つまりお前の親父に16歳になったときに渡したものだ。あいつが亡くなって俺の手元に戻ってきちまったが、これでようやく渡せる。大事にしろよ。」

「これは、じいちゃんの・・・・そして親父の大事なもの・・・」

ジークは胸が熱くなった。

「ほら、行って来い」

「ああ、いってくる!」

ジークは勢いよくトラックを飛び出した。


倉庫につくと、ライデンがジークを待っていた。

ライデンには、大破したソードタイプのTBから取り外された装甲が取り付けられていて、少しでも防御力を挙げようとする試みがなされている。

「じいちゃん、ありがとな。」

ジークはそういいながらライデンのハッチを開けコクピットに乗り込んだ。

「よし、」

ジークは両頬をたたいて気合を入れると、サークレットを頭にかぶりガントレットに手を通す。

「ライデン、起動!」

ジークの声に反応してライデンのメインモニターに光が灯る。

「システムチェック」

ライデンのコンディションを呼び出しジークは各駆動部の状態をチェックしていく。

「システム、脳波シンクロオールグリーンだな」

そしてライデンの背中にさっき改造したさびたレンチを背負いジークは倉庫を後にした。


「来たわよ!」

コロニーの入り口に行くとエミリアが、ゆっくりと迫ってくるスコーピオンの群れを睨んでいた。

「すごい数だな。」

「わたしは空から牽制するわ。ジークもビビッてないでしっかりやることやってよね!」

そういい残すとエミリアは走り出す。そしてそのまま光に包まれたかと思うと、ドラゴンの姿になって真紅の翼を広げ夜空に飛び上がった。

ジークは思い出したようにズポンのポケットを探るとさきもらったペンダントを取り出して、首にかけた。

「よし、行くぜ!」

ジークは走り出すイメージを頭の中に描く。するとサークレットがそれを読み取ってライデンは走り始めた。

ドォーンドォーンドーン

空から地上に向かって炎が降り注いだ。エミリアが先制攻撃を仕掛けたようだ。

集団でこっちに向かってきたスコーピオンは炎を避けるようにして散らばる。

ギシャシャシャ

しかし、運悪く逃げ遅れて炎につつまれたスコーピオンが砂の上を転げまわった。

「くらえ!」

ジークはライデンの背中のスパナを掴むと、ふりぬく勢いのまま先端についた紫色の爪を、近くのスコーピオンの頭にたたきつけた。

ぱっくり頭をたたき割られて青い体液を吹き上げながらスコーピオンは絶命する。

「次!」

空からの攻撃でおもうように身動きが取れなくなっているところをジークは次々に攻撃していった。

「ジーク、避難はあと少しで終わりそうだ。深追いはするなよ!」

マイクホンにディルの通信が入った。

「でもじいちゃん、このまま駆逐できちゃいそうだぜ。」

最初は20匹以上いたスコーピオンがもう2~3匹しか残っていなかった。

その3匹は劣勢と見たのか、後退を始めた。

「逃がさないぜ!」

ジークは追いかける。

「何かがおかしい・・・ジーク油断しないで!」

エミリアが注意を促したそのときだった。

ジークの足元が盛り上がり巨大な紫色の爪が地中から突き出してきた。

「おわわわ!」

転がりながらジークはかろうじて突き上げから逃れた。

ギシェヤアアア

地中から現れたそれは、今まで戦っていたその優に3倍はあった。

「マ、マザースコーピオン」

エミリアの声にジークはモニター越しにその巨体を確認する。

2つあるハサミのうち片方にはさっき逃げようとしたスコーピオン達ががはさまれていた。

ブシュゥウウ

マザースコーピオンは無残にもツメのなかのスコーピオンを挟み込んでバラバラにしてしまった。そしてそれを食べ始めた。

「なんてやつなんだ・・・」

ごくりとジークは唾を飲みこんだ。

ドンドンドン

上空からエミリアが火炎をマザースコーピオンにむかって吐き出す。

しかし、その火炎は巨大な爪にぶち当たるとあっけなく霧散してしまう。

ブォン

エミリアに向かってそりあがった尾が迫る。

「くっ!」

エミリアは避けるように更に上空に上昇した。

「あの爪を何とかしないと」

ジークはその大きな爪に向かってスパナをたたきつける。

カキィーン

乾いた音を立てて、スパナははじかれる。

ビービービー

アラートと共にモニターの上腕部が黄色く点滅する。

ピシピシ

そしてスパナに付いた爪にひびが入った。

「なんて硬いんだ!」

エミリアを逃したマザースコーピオンが、今の攻撃でジークに気がついたのか、ゆっくとジークに振り向く。

「避難は終わった。ジーク、エミリア、後退するんだ!」

「わかった!」

ジークはここまでだと、後退を始めた。

ガサガサガサガサ

しかし、巨体に似合わない素早さで砂の上をすべるようにジークに迫る。

「くそう!」

背中のバーニアをふかしながら振り回されるその紫色の巨大な爪をかろうじてかわす。

しかし、これでは後退できない。

二連続で爪をかわし、バーニアの噴射が終わり地面に足がついたときだった。

間髪いれず尾がなぎ払われた。

「こなくそぉお!」

ジークはかわせないと判断し、スパナを盾にそのまま、たたき飛ばされる。

スパナは威力を殺しきれず歪み、ライデンはディルが装着した装甲を紙の様に撒き散らしながら宙を舞う。

「うわぁあああああ」

コクピットがこれでもかというように揺さぶられる。

ザザァアン

そして砂の中にうずまるようにして地面に落ちた。

ビービービー

各駆動が赤く点滅する。

ジークもあまりの衝撃に頭を打ったのか、血を流した。

ギシャエェエエ

トドメを誘うとしてマザースコーピオンはハサミを振り上げる

「ジーク!」

それを見たエミリアがマザースコーピオンに肉迫しながら至近距離で炎を吐きつける。

マザースコーピオンはその炎を巨大な爪で振り払うと、尾をエミリアにたたきつける。

グロォオオオ

攻撃の合間を縫った一撃を喰らい地面にたたきつけられるエミリア。

「エ、エミリア」

ジークはエミリアを助けようとしてライデンを動かそうとするが、さっきの衝撃でライデンは立ち上がることもままならなかった。

かろうじて動くカメラアイでエミリアを探すと、その真紅の体が紫のハサミにがっちりはさまれいた。エミリアは逃げようと牙を立てるが爪の表面を引っかくだけで終わってしまう。

「エミリア!」

ジークの叫ぶ声も虚しく、ハサミに力が加えられ、苦しそうにエミリアがうめく。

ギシャシャシャシャシャ

笑うかのように雄たけびをマザースコーピオンがあげたときだった。

「やらせねぇ!」

ドゴーン!

その巨体にトラックが突っ込んできた。突然の出来事で爪が開き、エミリアは砂の上に投げ出された。

「今のうちににげろ!」

ディルから通信が入る。

「じいちゃん!?」

トラックは砂煙を上げながらマザースコーピオンを押す。しかし、それをうっとしそうに尾がなぎ払われると横転してしまった。

そしてトラックをハサミで持ち上げると、エミリアの倒れているほうに投げつける。

「うおおおおお」

マイクホンからディルの声が聞こえる。

そしてトラックは倒れたエミリアにぶつかってしまう。

「じいちゃん!エミリア!」

じりじりとエミリアとディルのトラックにマザードラゴンはにじり寄っていく。

エミリアは真紅の体を起こすと、そのトラックの運転区をかばうようにして抱きかかえた。

ギシャエェエ、ギシャエェエ

そんなエミリアをなぶるかのように尾と爪でその体を滅多打ちにする。

グォオオオオ

エミリアが苦しそうに叫ぶ。

「エミリア、じいちゃん、くそう!」

ジークは叫びながらガンドレッドを動かし、

「たのむ、動いてくれ、動いてくれ!」

必死に立ち上がれとライデンに命令を飛ばす。

「くそ、くそ、このままじゃ、じいちゃんが、エミリアが、頼む動いてくれぇええ!」

力いっぱいガントレットをはめた手でモニターをたたくが、ライデンは動かなかった。

打ち据えられていくたびに真紅の翼がぼろぼろになり、鱗と血が飛び散る。

「ジ、ジーク逃げて・・・」

「ジーク、いいからお前だけでも逃げるんだ・・・。」

マイクホンからエミリアとディルの声が聞こえた。

「くそう、こんなのってあるかよ、俺はまだ戦えるのに、じいちゃんとエミリアを見殺しにして逃げてたまるか!」

「辺境ではいきのこった、者の勝ちだ。逃げるんだ。」

「そ、そうよジーク。短い間だったけど、楽しかったわ。無事に逃げ延びてね・・・。」

そしてプツン、通信は途切れた。

「くそう、くそう」

ジークは無駄だとわかっていても必死になってガントレットを動かす。そして、

「エミリアを、じいちゃんを、助けたいんだ。ライデン、頼む、後一回でいい動いてくれ、俺は逃げたくないんだぁ!」

ジークは叫んだ。


パァアアアア

 

胸が急に光だし、ジークは驚く。そしてそれに呼応するかのようにメインモニターの基部が競りあがった。

「こ、これは・・・」

そこには二つのスロットがあり、丁度そのペンダントの水晶の大きさだった。

ジークはスロットの点滅しているほうに首から外したペンダントを差し込んだ。

ガチャン、ウィーン

するとモニターが中央で2つに別れ、更に円状のモニターがその間から出てきた。


「生体データー、ジークと確認。これからライデンをワークモードからバトルモードに移行します。」

とスピーカーから女性の声が聞こえた。

「き、きみは」

おもわずジークは聞き返してしまう。

「わたしはライデンのメインインターフェイスのセシルです。以後お見知りおきを。」

「あ、ああ、宜しく」

「バトルモード起動。システムをチェック、オールグリーン!」

右のモニターにライデンの駆動系が映し出され、今まで赤かったのが全て緑色になっていた。

「うごけるのか?!」

ジークの意思をうけとってライデンは起き上がった。

「フェイクモード解除!」

ライデンのさび付いて凹んでいたボディに光が走る。

そして現れたのは、深い青の騎士のような鎧姿をしたボディだった。

「バトルモード移行完了。ジーク様、いつでもどうぞ!」

「これは・・・・ライデン、俺にこたえてくれたんだな、ありがとう。」

ジークは足元に転がっていたゆがんだスパナを拾い上げると

「おおおおおお」

バーニアをいっぱいに噴かして、マザースコーピオンに殴りかかる。

ドゴン

その一撃は、丁度トドメをさそうと振り上げた爪に重く突き刺さる。

スパナのヘッドはそのままへし折れたが、その紫色の爪に大きなひびを入れた。

ギュシェェェ

マザースコーピオンは苦しそうにその場から後退する。

「エミリア!」

エミリアはぼろぼろになった体をもたげ、ライデンを確認するとそのまま力尽きたのか、倒れこんだ。

そして光に包まれると、人の姿に戻って横たわるエミリアがそこにいた。

「こっちだ!」

ジークはその場から離れるために、マザースコーピオンを誘導する。

ブォン、ブォン

振り回される爪と尾をジークは軽々とかわしていく。

「セシル、何か武器はないのか?」

「拳しかありません。」

「それってないってことじゃんか、くっそう。」

ジークが武器を探そうと辺りをスキャニングしようとしたときだった。

「ジ、ジーク、これを使え!」

ディルから通信が入ると後方に切り離されて置いてあったトラックの荷台がせり上がり、板状のボロに包まれた何かが飛び出した。ジークは爪攻撃をかいくぐってバーニアをふかすとボロから飛び出た柄の部分を掴む。

「これは剣?!」

着地し、ボロをはぐと、それは分厚い板状の剣でその刃の部分は途中から二股に分かれている。

「はい、ソードブレイカーです」

とセシルがモニターに説明を加えながら言った。

「こいつならいける!」

それを見てジークはソードブレイカーを肩に担ぐ。

「いくぜ!」

ドンとバーニアを吹かしマザースコーピオンに迫る。

それを見たマザースコーピオンは振りかぶった爪をジークに向かって振り下ろした。

「待ってたぜ!」

ジークはその爪をソードブレイカーの刃と刃の間に挟みこむ。

爪の勢いも合わさって、内側の刃が爪に切れ込みを入れていく。

「いまだ、ブレイク!」

そこに力が加わり、

バギン

その巨大な爪は根元から切り離された。

ギシェェェァアアア

怒り狂ったマザースコーピオンは尾を高くそらせ、ジークにたたきつけた。

「喰らうかよ!」

すでにジークは次の動きを予想していて、バーニアを吹かし高く飛び上がっていた。

「これで終わりだ!」

ジークは剣に挟まったままの爪を降下の勢いを載せてその尾にたたきつけた。

ズシュウ・・・

爪は尾を切り飛ばし、そしてそのまま胴体に突き刺さった。

ブシャァアアア

どうやら心臓だったらしい。青い体液が勢い良く噴き上がり、ライデンをより青く染め上げた。

バタバタバタバタバタン・・・

足をばたつかせて痙攣し、そしてとうとうマザースコーピオンは絶命した。


「じいちゃん、エミリア!」

ジークはライデンから降りると横転したトラックのほうに駆け寄った。

すると、ディルがところどころ血を流して入るがエミリアに肩を貸しながら立っていた。

「じいちゃん!」

ディルはジークに親指を上に突き上げながら、

「やったな、ジーク!」

「ああ、じいちゃんもエミリアも無事でよかった。」

ジークも親指を上に突き上げて返す。

「終わったのね・・・。」

エミリアも弱々しくだがにっこりと笑った。

お互いの無事に安堵しているジークたちは突然、光に照らされた。

「な、何だ?」

上空を見ると4、5隻の飛空挺が飛んでいたのだった。





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