ボーイ ミーツ ガール
トライルブレイザー!から300年後の世界のお話です。
辺境の地で修理屋として生きる少年ジークの物語です。
「ジーク、5番のレンチを取ってくれ」
足元からぬっと手が出てきた。
「あいよ、」
腰に巻いた革の用具ベルトからすっとレンチを抜き取ると、ジークは油と汚れにくすんだ作業手袋にしっかりそれを渡した。
「あんがとよ」
車体の下に引っ込んでいく手を見送って、ジークは自分のやりかけの作業に戻る。
作業に熱中するその横顔は15歳の幼さを残しつつ強い意志が感じられた。
最後のネジを締めふたを閉じた。
カチコチカチコチ
「よし!。」
拡大ゴーグルを額のほうに押しやり疲れた目をほぐしながらうーんと背伸びをした。
「ついでに時間も合わせよっかな」
カーン、コーン、カーン
時計を見ると丁度12時で、作業場として設けられたこの倉庫にも鐘の音が鳴り響いた。
「よっこらせっと、もうお昼か・・・」
そういいながら、トラックの下からさっきの手の主が這い出してきた。
「ボルトがずいぶん腐食しててな、交換にずいぶん手間取った。」
ゴーグルを外して、最近増えてきたと愚痴っていた白髪交じりの頭をかきながら、椅子にかけてあったタオルで汗を拭く。そしてテーブルの上のコップに水差しから水を注いで一気に飲み干した。髪とは対照的にに鍛え上げたれた上半体は生命力にあふれ、歳を感じさせない。名前はディル。ジークの祖父にして辺境一の修理屋である。
ディルは一息つくと、テーブルの周りにはジークが修理したであろうテレビやラジオを一つ一つ簡単ではあるがチェックしていった。
「ジーク、お前も結構腕を上げたな。前までは一つ仕上げるのに半日は掛かったのにな、」
「へへへ」
珍しくほめられてジークは鼻面をこすりながら照れた。
「ディル様、ジーク、お昼の用意ができました」
すると、二人のマイクホンから女性の声が流れた。
「了解、マリア。すぐ行く」
「おい、ジーク、さっさと昼飯を済ませるぞ、午後も仕事はあるからな」
ディルはジークに呼びかけると先に倉庫を後にする。
「わかったよ。」
道具をしまい終わったジークは子走りにディルの後を追った。
ジークが倉の裏手に回ると、そこにはジークたちの移動兼住居の大型トラックがあった。
人類がこの星に到着して700年、ドラゴンに似た知的生命体がすむこの惑星ドラコは地球の10倍の大きさがある。いまだ100分の一くらいしかその全容がわかっていないという開拓真っ盛りの中で、ジーク達二人はトラックに乗って辺境の開拓村、フロンティアコロニーを巡回し、機械などの修理をしながら生計を立てていた。使えるものは使えなくなるまで、そして使えなくなってたらバラ(解体)してリサイクル。壊れたら新しいものを買えばいいという宇宙開拓史以前の感覚はこの未開の惑星では通用しない。今回も、とあるコロニーの村長に依頼され、村から集められたものを修理、もしくは解体しに来たのだった。
トラック脇に設置された日よけのパラソルにジークは駆け寄った。テーブル上のお皿には程よく焦げ目の付いた厚切りパンにたっぷりの野菜とそれにも負けないくらいはみ出た分厚い肉がはさまれているサンド、横には湯気の立ち上るスープの入ったマグカップがおかれていた。
ぐぐぅぅう
育ち盛りの腹が景気良くなった。
「ジーク、そこに水道があるからしっかり手を洗えよ?」
手を拭きながらディルが椅子に座る。
「あっ、わすれてた」
作業を終えた手に目をやるとはグリスやサビで汚れていた。
ジャー ばしゃばしゃ
水道をひねり水を出して手をぬらしながら下に結ばれた石鹸の入ったネットを手でよく揉んで泡を立てる。手洗いが終わると、ついでにうがいと、顔を洗った。
ふぅー
見上げると雲ひとつない青い空が広がっていた。両手を広げて目を閉じると倉庫の屋根にとまった小鳥の声も聞こえる。
コー・・・
上空からエンジン音とともに巨大な影がジークを包んだ。
目を開けると3つの丈12~3mはあろう巨人が通り過ぎていくところだった。
「あれは、トライルブレイザーだ。しかも、あの肩のエンブレムは・・・惑星中央政府軍が来るなんて、なにがあったのか?」
腰には両刃の剣を携え、右手にライフル銃を持った白と青を基調としたどこか甲冑を思わせるようなボディをしたトライルブレイザー通称TBと呼ばれる人型機械は背中の羽に似たウイングを展開してジークの上を通り過ぎていった。
いまだ未開拓なこの惑星は総面積がはるかに広く、生物が多様で、人畜に被害を及ぼす生物も多い。大体はハンターと呼ばれる、それら危険生物を駆逐することを専門とした人々に、ギルドを通してコロニーが依頼する。それでも対処しきれないときは惑星中央政府に依頼する。惑星中央政府とは、この星の人類圏の中核をなし、人類がこの惑星に到着してから700年の歴史を誇る組織である。もちろん開拓を推奨する惑星中央政府は協力を惜しむことはない。特に未開の辺境の地では何が起こってもおかしくはなく、コロニーが危険生物によって壊滅に追い込まれたということはさほど珍しくはなかった。
「惑星中央政府軍が来ているのか。何かあったのかな?」
ぐぐぐぅ~
腹がけたたましくなった。
「ま、俺には関係ないか!」
さっさとしないと昼ごはんを食べる時間がなくなってしまうとジークは急いで引き返したのだった。
ジークが戻るとディルはすでに食事を終えマリアに食後のコーヒーを注いでもらっていた。
「じいちゃん、もう食ったのかよ、早すぎだって」
「うん?早寝、早食い、早糞は3ドランの特ってな、昔から言うんだぞ。」
コーヒーをすするディルの言葉にあきれながら、ジークはサンドにかじりつく。
しゃきしゃきとした野菜の歯ごたえとともにじゅわっと肉汁が口いっぱいに広がり特性の甘酸っぱいソースがさわやかに混ざり合い舌を転がる。
「うまい、美味しいよ、マリ姉」
「あらまぁ、ジークありがとう。ところでスープがずいぶんさめてしまったわ、あたためなおしたほうがいいかしら?」
おっとりとした言葉使いとともにスーとジークの隣に来たマリ姉ことマリアは人ではなかった。人と同じくらいの大きさでアンドロイドとよばれるロボットである。丸い流線を帯びたボディと発音器から発せられる声からも女性アンドロイドであるということがわかる。顔はなんとなく目と鼻がわかるくらいの凹凸があり、頭部にはお下げを模した耳のようなものが左右についている。移動は反重力という技術を利用しているため足がない。
「いいよ、猫舌だからこれくらいが丁度いい」
「ははは、それじゃ早食いはむりだな、2ドランしか得できんぞ?」
マリアにおかわりのコーヒーを注いでもらいながらディルが笑う。
「そういえば、レイ姉とソフィ姉は?」
「う~んと、レイは反対側で洗濯をしていますわ。ソフィアは午後の修理品の配達のために中でお食事中(充電中)たったかしら」
レイとソフィアもマリアと同じアンドロイドでしゃべり方とボディカラーそしてアイライトの色が違うだけで、外見は同じのである。レイはオレンジ、ソフィアはピンク、マリアはブルーである。3体はマリアを長女として次女のレイ、三女のソフィアの3姉妹で、ジークの姉的存在でもある。
「そっか、そういえば午後はなにをするんだっけ?」
「どうやらこないだの嵐で電波塔のアンテナが吹っ飛んだらしい。位置も高いしライデンを使うから用意を頼む」
「わかった! そういえば、さっき中央軍のTBが飛んでいったけど、見た?」
「おう、あれはソードタイプだな、えらく物騒だが、中央軍がきているなら大丈夫だとは思う、あとで村長に聞いておく。」
そして一時間後だと付け加えると、ディルは顔にタオルをかけて椅子にもたれかかる。昼寝をするという合図だ。
「ご馳走様でした。」
マリアが入れてくれたコーヒーを飲み干し、ジークは立ち上がる。
「さて、ライデンとこにいくかな」
マリアが食器類をかたづけ始めたので、席を立ち、ホバーの後部に向かう。ジークたちのトラックは大型で、運転部と居住区と荷台の3つに別れている。居住区はシャワーとトイレと2人分のベットがあるくらいの狭いものである。ジークはそれよりも大きい最後尾の荷台に向かった。
「ジーク、お昼はおわったの?」
うしろから声をかけてきたのはレイだった。荷台と近くの木に糸を張って丁寧に伸ばしながら洗濯物をほしている。
「あ、レイ姉、今食べたところだよ、ところで、これからライデンを起動させるんだけど、いいかな?」
「それならこっちの糸をあっちに移すから待って、まったくこのままだったらせっかくの洗濯物が汚れちゃう」
文句を言いながら荷台に結んでいた糸を洗濯物が地面につかないように器用に持ち、もう一本の木の枝に結ぶ。
「レイ姉、サンキュー!」
荷台に上りかかっているホロをはがす。するとその下からはTBが現れた。さっき上空を飛んでいたTBにどこか似ていたが、シンプルで武器も付いていない。300年前の大戦時、これで辺境の怪物と渡り合っていたらしいが、今となっては型も相当古く、ところどころ凹んだ表面とサビたボディからは見る影もない。ジークたちはこのTBライデンを運搬や作業用として使っている。
コクピットにたどり着くとハッチを開くためにジークは開閉のボタンを押した。
「ぽちっと、あれ?開かない。故障か?まいったなぁ」
バリバリと頭をかきながらハッチを点検する。
「う~ん・・・」
じっくり見て周ると、ハッチが少し開いているのに気がついた。
「あれ?開いてる、前閉めたときに小石でもはさまったかなぁ・・・・夕べすごい砂嵐だったからシートが砂まみれだったら じぃちゃんに怒られるぞ。」
仕方なく手動開閉用レバーに手をかけてハッチを開く。
ガコォーン
「う~見たくない」
砂まみれのコクピットを思い浮かべながら恐る恐るハッチを開けた。
そしてジークの瞳に飛び込んできたのは、砂まみれのコクピットではなく、少女だった。
すぅすぅすぅ・・・・
歳はジークと同じくらいだろうか、大人びた感じもあったが無防備に眠るその寝顔にはまだ幼さが残っている。
今まで寄ったコロニーで出会ったどの女の子も、ここまでかわいくて綺麗な子はいなかったな・・・・・・・なんて綺麗な子なんだろう・・・・
癖のある赤い髪の毛が差し込む日の光に照らされてキラキラと輝いて、すごく綺麗だった。
どっくん、どっくん、どっくん・・・・・・・・
すぅすぅすぅすぅ・・・・・・・・・・・
自分の鼓動と少女の寝息だけの空間にすっぽりと包まれたかのような、でもそこはすごく心地よく、ジークはすっとこのまま時間がとまればいいのにとも思った。
う、うぅん
まぶしそうに寝返りを打つその姿に胸の鼓動が早くなるのをジークは感じた。
「うぅん、まぶしぃ、朝?」
すぅっと開かれた目は吸い込まれるように碧かった。
「だれ?」
突然声をかけられてジークの体はビクンと反応し、コクピットの縁にかけていた手が滑ってしまった。
「わぁ!」
重心が前に移りそのままコクピットに前のめりに体ごと入ってしまった。
「きゃぁ」
突然何かが上からのしかかってきて思わず少女は悲鳴を上げる。
「あてて・・・」
転がり落ちたジークは起き上がろうとして手を動かしたときだった。
むにゅう
何かものすごく軟らかい感触が手のひらに伝わってきた。
むにゅう むにゅう
すごくさわり心地がいい。正体を確かめるために手を見ると、はだけたジャケットの下のタンクトップに包まれた二つの盛り上りがあった。大きすぎず、小さすぎず、ジャストフィット。
「こ。これは・・・。」
はっとして視線に気付いたジークが顔を上げると少女と目が合った。
「や、やぁ」
とジークは声をかける。が、しかし向こうは何が起きたのか把握できずに固まっている。
仕方なくジークは動こうとして
むにゅう むむにゅう
また揉んでしまった。
はっ と少女の目線がジークの手に移る。
そして次の瞬間、
きゃぁあああああああああああああああああああああああああああ!
耳を劈くような悲鳴と一拍子おいて
ばっしぃぃいいいいいいいいいん
という音がコクピットの外まで響きわたったのだった。
出来る限りどんどん更新していこうとおもいますので、
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