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旅の準備

作者: tinalight
掲載日:2026/09/19

「あのさ、旅の醍醐味ってなんだと思う?」


 大学の卒業旅行の準備を始めたときに、約四年共に過ごした親友から質問された。何を今更と思う。これまで国内も海外も貧乏旅行を野郎2人で過ごしてきた仲じゃないか。

旅の面白さもロマンも、辛さも色々なことを一緒に味わった。その全てが、今の俺たちの絆を作ったとも言える。

 が、軽くも馬鹿にしたような返事も出来ない。


「そうだな。色々あると思う。けれど、新しいものに出会うってことじゃないかな」


普通かも知れないが、上位に挙げられる候補としては外せない。


「あ〜、やっぱ、お前良いな。4年間楽しく過ごせたのは、相棒がお前だったからかもな」


満点の回答ではなかったかも知れないが、かなり方向性が合っていたのだろう。賛辞の声をもらった。


「あのさ、俺の考えも聞いてもらっていいか?」


「ああ、勿論。最後の旅行の準備だ。是非お前の思う醍醐味を教えてくれ」


あいつの醍醐味って何だろうな。

現地では、色々なことに興味を示す。食べ物、遺跡見学。かと思えば、寺社仏閣の様な歴史を知らないと深みも面白味も味わえないものにも、十分な時間を割く。

文明や文化といった、人に関わることだけでなく、自然の雄大さや自然現象、花や紅葉の季節に関心を寄せる。

毎回、新しい何かしらの発見があり、それが、知識と体験の融合として、俺等を形成したのだろうし、夫々の成長が合って、親友とも呼べる関係になったたんだろうな。


「俺はさ。旅の醍醐味って、準備にあるんじゃないかと思うんだ」


「なるほど?」


100%の同意を示さず、話の続きを促す相槌を打つ。

まだまだ、ヤツの気持ちを引き出しきれていないからな。就職したら、これまでのような自由な旅を好きなタイミングで2人揃って行動出来る機会も少なくなる。最後の旅の準備は念入りにしておきたいからな。


「例えばさ、いつも通っている駅から、このキャンパスまでの約1kmのルート、お前なら何通り組める?」

「ああ?20通りは簡単に超えるが、50ルート以上だと少し時間が欲しいかな」

と、何も考えずに即答する。これが、ヤツと俺のいつもの会話のノリだ。


「だろっ?そうだよな。それが普通だと思う。

けど、多くの人は3通りぐらいだ。バスを使った方法、大通りに沿って歩く方法、ショートカットした細道を行く方法。これくらいなんだ」


なるほど。

まぁ、通学始めて1週間やそこらの新入生なら分からなくもないが、それでは人生面白くなくないか?と、俺は思う。今更こんなことを話題に出すのもヤツなりの意図があるのだろうから、話の続きを促す。


「それで?」


「実はさ。お前を大学の入学式で見かけて、その後1週間もかからず、大学と駅の間で3回見かけてたんだぜ?

だから、2週目の講義のとき、偶然を装って隣の席に座って声を掛けたんだ」


「え?いや、まて、マジで?」

「ああ、本当だ」


大学という、新しい生活が始まる。高校とは世界の広がりが違う。俺からすれば、色々なことに好奇心を満たすチャンスだろう。毎日、帰りに寄り道もするし、行きも帰りもお店の開く時間に合わせて、大学への到着時間も変わっていた。

新入生の1週間目なんて、普通は迷わない道を選ぶし、講義の時間に合わせて定刻に来る。帰りは緊張と疲れで大した寄り道をせずに帰るか、サークルの勧誘に引っかかって、どこかに連れ込まれてるだろう?


ヤツはその時から、俺と似たような行動をしていたのか?


「あのさ。同じ大学に4年間通って就職する。今は大学院への進学の話は置いておくが、自分の知見や経験を広げるチャンスのはずだ。その考え、波長が合う人間見つけたら、声をかけたくなるだろう?」


「イヤ、マジか。その話は今更だな……。」


「でさ?

旅の醍醐味に戻るけど、旅は人生を豊かにする味付けだと思う。通学の行き帰りだって、旅に変えることができて、それが人生の味付けを増やしてると思うわけだ。

だろ?」


「深く考えてなかったが、言われてみりゃ、そりゃそうだ」


「で、また、大学への通学の経路の話に戻ると、時間であれ、店の下調べであれ、あるいは偶然の出会いを求めての未知の探索であれ、その準備をしているから旅になると思うわけだ」


「スマン。理屈を付けて説明するなら、そうなんだろうな。俺は考えずに自然とそうしていたからよくわからんが」


「お前のような感覚派であれ、俺みたいな理屈を捏ねるヤツであれ、旅は旅に出る前の心意気というか、準備のワクワクから始まっていると思うんだが、通じないかな?」


「理屈は理解がおよばないが、感覚的には似たものだと思う」


「この辺りも相変わらずだな。だから上手くやってこれたのかもな。

じゃ、最後の旅に向けて準備しようぜ」


俺は「あぁ」と短く相槌を打って、大学時代最後の旅に向けて準備を始める。ヤツは念入りに計画を立て、そこに醍醐味を感じながら。俺は如何に多くの体験や見聞を広められるかを視野に入れて、候補地に漠然と想いを寄せる。


最後の旅もきっと充実したものになるだろう!

即興で1-2時間で書いて見ました。旅好きとしては、このお題で参加しなければならないとの義務感から。

旅の醍醐味を感じて頂けたら幸いです

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