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さくっと読めるお話たち

なんで、○○○に子供を産ませたんですか?

作者: 藤沢みや
掲載日:2026/08/16

小学生みたいな単語が乱舞します(笑)

タイトルの○○○には、うで始まり、こで終わる単語が入ります。


 ○○○


 ジアーナは連れて来られた伯爵家の巨大さに口をぽかんと開けそうになるが、それを我慢してぱちりと瞬く。


 暮らしていた下町に突然訪ねてきて、『父親』だと名乗る男。

 アルノリト・イリューシナ。

 伯爵家当主だという。

 伯爵家令息だった時に、メイドだった母親に手を出し、孕ませた男。自分は悪くない、母親が誘ったなど、絶対強姦だったくせに御託を並べて母親を見捨てた人否人にんぴにん

 まるで台所に入ったコソ泥が、おいしそうだからという理由で綺麗に盛られた料理を勝手に食べたような理不尽。

 ――― おいしそうな料理があるのが悪い。

 最低だ。

 んなわけあるか。

 コソ泥が悪いに決まっている。


「お前の姉のジアーナだ。名前は近いうちに変えさせる。平民臭が酷い名前だからな」

 階段の上にいる父親が、息子っぽい人にそう告げた。

 息子っぽい人は、ものすごーく冷たい目で自分の父親を眺めている。

「下賤な平民の血が混じってはいるが、まあまあ見た目はマシだ」

 くくっと喉の奥を鳴らして男が笑う。

「父上、平民の血が混ざった子供を政略結婚に使う気ですか?」

 弟? が呆れた顔をする。

「お前の母親が子供を一人しか産めなかったせいだろう。磨けばまあまあ上を目指せるだろう。こいつの母親も、顔はよかったし、体は良い感じに育っていたから期待が出来る」

 周囲にいる女を勝手に評価して、等級を付けて……何様だ。

 血だけが自慢の『お貴族さま』なのだろう。


 私の母親は、こんなコソ泥に体を穢され、強姦魔と私を憎んで憎んで……そして忘れる、興味を持たないという選択をした。


 本当なら、母親は伯爵家への行儀見習いを短期で終えて、幼馴染みに嫁ぐ予定だった。

 予定は乱され、母親の幼馴染みは……母親の狂気が落ち着くのを待って、病気を乗り越えた母親を娶って、二人で新婚生活を始めた。

 愛の成せる技ですね。ヒューヒュー。


 母親の病気の原因である赤子を、子供が欲しくても持てなかった夫婦に預けての新婚生活ですが……




 諸悪の根源は、この目の前の男。




 下品で想像力がなく、ただ女を下に見たいだけの尊大で人の心を持たない、貴族の子供で性別が男ということしか威張るものがない男。


「不思議なんですけど、なんでうんこに子供を産ませたんですか? なんで、うんこと子供ができるようなことができるんですか?」

 母親似の通る声で諸悪の根源に声を掛ける。


「は?」


 弟? が父親を見て吹き出す。


「生理的嫌悪を浮かべるような平民の女に手を出さないと『性欲』が解消できない程、貴族の女性に相手してもらえなかったんですか? うんこじゃないと機能が働かない変人?」

「……っ、貴様っ、無礼な」

「無礼なっておっさんだってうんこするんでしょう? うんこぐらい毛嫌いしているのに、なんでうんこに手を出すんですか? 性欲って、ちまたにあるうんこに手を出しちゃうくらい抑えられないんですか?」

 人生で、一番うんこって言ってる。

 なかなか無い体験だね。

「犬とか馬とか、そういうのに手を出す人もいるって噂で聞いたことがあるけれど、それ以上に惨めですよね、うんこに手を出す人」

「ふざけるな! 平民の分際で!!」

「それそれ、威張れることが貴族の血を引いているってことだけなんですよね、おっさん」

「おっさんではない!」

「……おっさん、人は真実を指摘されると怒る動物なんですよ。知ってました?」

「クソがっ!!」

「なーに、自分がうんこだって自白してるんですか~? うんこと肉体関係結んだうんこが自分のことクソって言ってる~。笑える~」

「っ! 俺が引導を渡してやる!! そこへ直れ!!」

 まあまあ……うーーん、下町にいるおばちゃん達になら数人は見惚れるようなおっさんが顔をうんこのような土気色にさせて、怒り心頭ぷりぷり怒りながら私を折檻するために走ってくる。豪奢な杖を振り回して、手摺てすりにガンガンぶつけて……そして、装飾が多い手摺りに杖を引っ掛けて……玄関正面の大階段から……


 落ちた。


 鈍い音がして、大の男が階段を転げ落ちる。

 人間の体はそんなふうに曲がるのかと、観察をついしてしまいそうな曲がり方をしていた。

「ぐっ、はぁあ……ぐっ!!」

 ピクピクと震える物体に、弟? と、義母? と共に眺め下ろす。






 ○○○


「どうしましょう? 無欲の勝利? ですかね?」

 血が半分繋がっている弟と、血が繋がってはいない義理の母親を見つめて、ジアーナは小首を傾げる。

 十三歳のジアーナは血縁上の父親を見下ろす。

「あと、二・三回くらいは階段から落とし直しておいた方がよくないです? こういう油虫みたいなおっさんって、しつこいですよ」

「そうだね。まあ、ここの階段使わなくても地下牢への階段を使えば……」

「若いお嬢さんの前で血生臭いこと言わないの」

 弟……疑問符付けるの面倒だから今だけは『弟』と『義母』と言ってもいいかな。

「それにしても、子供みたいな煽り発言にこんなに簡単に引っ掛かるなんて……これで、貴族できてたんですか、このおっさん」

「子供だよな……うんこ」

「イラリオーン……やめなさい」

「いえいえ、うんこは子供なら連呼したい言葉ですよ。うんこ」

「そうだよな、うんこ」

「……結局、うんこはこの人だったっていうことね、うんこ」

「「うんこ」」

 ノリがいいな、義母さん。

 寄ってきた従僕達が苦笑いをしている。

「で、このうんこ当主はどうします?」

 若い従僕が指差して笑う。

「ジアーナ姉さん、ついでに踏み付けます? このクソ」

 弟が辛辣~。

「……うーーん、産んでくれた母さんの分くらい蹴った方がいいかもしれないけれど、私にとっては産みの母も加害者だからな~」

 今の生活は気に入っている。

 私が強姦魔の子供というのは、育ての両親は知らない。たぶん。

 伯爵家が架空の事情をでっち上げてくれている。

 当時、伯爵家に務めていた身寄りのないメイドと従僕との子供だが、母親は産後の肥立ちが悪くて他界。父親は馬車の事故で他界。……ということになっている。

 ふと、建物を見渡す。

 巨大な建物を見ても、掃除が大変だろうな……しか浮かばない。

 一緒にうんこうんこ言ってくれた弟と義母だが、お貴族さま的には私も口封じの対象だろう。

 まあ、殺されてもしょうがないかな……

 ドレスを着る自分も、豪勢な一皿一皿出てくるディナーも想像できない。






 ○○○


 十三歳の私は、両親の経営する雑貨店を手伝っているしがない町娘だ。

 そんな町娘の元に、『お忍び貴族』と明らかにわかる若様が訪ねてきた。死んだ架空の父である従僕に育てられた若様として。

 物珍しそうに店内を見る若様から聞いた、強姦魔の真実。

 両親は知らないが、実は私は八歳ぐらいには真実を知っていた。

 産みの母親の両親から、誘拐されそうになったから。

 助けてくれたのは義母ぎぼさま。

 強姦魔な夫を持つと、尻拭いが大変だな……

 義母さまに良い胃薬を渡してあげたい。

 容貌がちょっとばかし良い娘を利用して下半身がだらしない伯爵家令息に襲わせ、産まれた子供を利用して金をせしめようとしていた祖父母。

 人間って汚~い。

 義母さまが貴族の権限でさくっと祖父母を始末し、私を保護してくれた。

「馬車が壊れてしまって……この子に店で休まないかと声を掛けてもらったの」

 お貴族さまの義母さまが、ほわほわと笑顔で話す姿に育ての両親は大慌てだった。私はお貴族さまの演技力、凄いと義母さまに憧れていた。

 義母さまとのやり取りはその後、親切な町娘にちょっと声を掛ける貴族夫人の頻度を超えない程度で……でも、この店は貴族も時折訪れるということで警邏の巡回も増えていた。

 その後、義母さまと別ルートで私のことを知った若様が訪ねてきて、両親はまたもやてんやわんやだった。

 そして、今度は父親が来た。

 店内で大声を出す父親は本当にうんこで。

 両親には「誤解だと思うけれど、貴族には逆らえないからいったん出掛けてくる」と……馬車に乗って連れられて来た。

 帰ったら近所の噂になっているんだろうな……面倒。






 ○○○


 後始末まで、完璧でした。

 義母さまと若様は……


 若様が事前に従僕の娘という嘘をばらまいていたおかげで、メイドに懸想していた父親が私のことを自分の娘と勘違いしていた。娘というのは間違いで、無事に解決した……ということになっていた。

 ただ、やっぱり近所では目立ってしまっていたので……両親と相談して、両親の祖父母が暮らす町へ移転することになった。

 実は育ての両親は、私が貴族の血を引くのかもしれないと感じていたそうだ。

 メイドに懸想していた父親が強引に手を出し、従僕は自分の子供なのか不安になり……そして不幸な事故が起きた。

 と、思っていたらしい。想像力がたくましい。


 ――― やっぱり、父親は強姦魔扱いなんだな。うんこめ。


 引っ越し先は、義母さまと若様……いやご領主さまのお家、イリューシナ伯爵家の領地にある程々の大きさの町。

 私は、若様と義母さまに程々の頻度でお手紙を送っている。ただの町娘として。返信は家令経由で平民っぽい封筒で届く。ありがたい。

 手紙のやり取り以外、もう交流はない。

 ……定期的な雑貨の大量購入があったりするけれど、私達が引っ越した先で、あの店は貴族と交流がある、という噂は流れていない。

 時折、あの巨大な館で、ひらひらなドレスを着て、おほほと笑う自分の夢を見るけれど……うんこって気軽に言えないような立場は嫌だな~と思って、『良い夢』だったなで終わらせている。






 そして数年して、若様がご結婚なさり……私が住む町でもパレードがあった。若くして領主になった青年を熱心に応援する領民達。素晴らしい。

 通り過ぎる馬車。

 うんこうんこ連呼して笑っていた若様は大人の顔をしていて……

 そして、夫と一緒にいる私を見て片目を瞑って見せた。

 周囲の女性陣から悲鳴が起き、隣の夫は……若様を見て頬を染めていた。

 夫ぉ……

 私は、強姦魔のことをふと思い出す。

 自分の屋敷に奉公する娘を卑下しながら、でも強姦する男って、性欲というより……支配欲の甘美さに負ける意志薄弱矛盾だらけ男なんだな……って思ってる。

 意志薄弱さはちょっと似ている気がするので……程々の人生でいいんではないかと、思いたい。

 あの男の血を引く子供を産んでもいいのか……そういう恐怖が頻繁に湧くけれど……ご領主さま素敵~と頬を染めている夫を見ていると、まあ、いいかなって思ってしまう。




 いつかお祖母ちゃんになって、あの世へいったら、もう一度強姦魔に聞いてみたい。

「なぜ、うんこに子供を産ませたんですか? なぜうんこと思っている平民に子供ができるような行為をすることができるんですか?」

 私は、夫にとってもとっても大事にされている。

 だから、わからない。




「ジアーナ姉さん、クソが考えることなんてわかるわけないですよ」

 心の中の弟が笑ってる。

「……結局、うんこはうんこね」

 心の中の義母さまが遠い目をしている。




 私は通り過ぎる馬車に目を戻す。

 死んだ後に、聞く必要はないな。

 うん。

「若様、素敵だったね~」

 と、夫ときゃっきゃしながら、小さな小さな家に戻った。






おしまい





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