7.報酬
僕は大通りで目を覚ました。
「ここは、大通り?なんで──」
そこまで言って思い出し、思い出した時には走り出していた。
地図がなくても、一度通った道。
リスポーンしたということは僕の命は無限だ。
エレミア──彼女を救える可能性がまだあるなら。
僕のこの軽い命で何とかできるなら。
僕はあの極限の中で起きた事を脳内で処理しながら走った。
──ギフト承認。
──氷の花。
──新たな一人。
──そして、僕を庇う白い剣。
息を切らして走れなくなった頃、人集りに辿りついた。
この先の筈だ。
人を掻き分け進む。
でも、なんで人集りが……
「ヒュー!《騎士》様!やっぱあんたはスゲーよ!」
「聞いた?《騎士》様が預言者様を守ったんだって!」
口々に何やら讃えたり叫んだりしている声が四方八方から押し寄せてくる。
人混みを掻き分け前に出ると、そこにそれはいた。
白い髪、優しげな顔は引き締められ、青い目は目の前の黒を見つめていた。
汚れどころか傷一つ見えない鎧を身に纏い、抜いた剣は白く光を反射している。
煩かったはずの歓声が聞こえない。
後ろにいるローブのフードを外した少女──恐らくはエレミアを、庇うように立つ姿はまさに物語の騎士だった。
騎士の前に蹲る黒い人物は、最後に出てきた一人なのだろう。
その男は、僕が視線を向けた時には、泡を吹いて死んでいた。
「──あっ!クロンダイトさん!」
エレミアは暗い顔をしていたが、僕を見つけた瞬間顔が明るくなりこちらに手を振ってくる。
フードを外した姿を今初めて見たけれど、薄金色の髪が似合う優しそうな子だった。
「突然消えてしまったから何事かと思ったが、やはりミグラントだったか。おかえり」
騎士は僕の方を向くと引き締めていた顔を少し緩めて言った。
「……エレミアが無事で良かった」
僕はそれしか言葉が出なかった。
というか、それしか言うことがない。
安心した僕を息切れと魔力切れのような感覚が襲う。
息切れは走ったからだろうけど、このゲームは死んで生き返っても魔力は回復しないんだろうか。
いや、この身体の重さは魔力切れとは少し違う気がする。
そうなるとギフトの代償の方が自然か?
なんでも持っていっていい、って差し出しちゃったからな。
まあ、なんにせよ、今は受け入れよう。
「はい!クロンダイトさんのお陰で無事です!クロンダイトさんの方こそ、大丈夫ですか?」
「僕は平気かな。ちょっと疲れたけど、多分すぐ回復するよ」
「──さて、一旦交流は済んだね。クロンダイト君、私はクラルスだ、よろしく頼む」
クラルス。
周りの歓声を聞くに、ちゃんと騎士らしい。
手を差し出してきたからとりあえず握り返すが、何がよろしくなのか分からない。
「よろしく?」
「君には後日聞かなきゃいけないことがあるんだけど、いつなら空いてるかな」
そこで思い至った。
この事件の聴取か。
確かに、人が死んでるしリアルなら調査が入るよな。
「明日で大丈夫ですよ。明日の──えーと、今何時だ」
「18時ですよ!」
エレミアがローブを捲って腕時計をこちらに見せてくる。
その針は確かに6時を指していた。
18時?そんな訳はない。
僕がこのゲームを始めたのは22時なんだから。
と思ったけど、始めた時から今までずっと明るかったな。
全く気にしてなかった。
「えーと、今が向こうで何時かちょっとわからないから明日僕がそっちが都合いい場所に行くことにします」
「ふむ、それなら場所に関しては私達が君に合わせよう。私とエレミア様が君のいなくなった場所で明日待つことにするよ。それでいいかな?エレミア様」
エレミア様?
いや、それについては明日教えてもらおう。
今日はもう疲れた。
「はい!」
でも無事に終わったし、最後に一つだけ格好つけておこうかな。
「なら、すぐそこだし今日はクレープ屋さんでログアウト──居なくなろうかな」
僕はエレミアを見た。
エレミアは少しキョトンとしたあと、理解して元気に返事をした。
「──はいっ!」
これが僕の初日の顛末だ。
守りたい存在を、最後は他人の手によるものだとしても助けられて、その笑顔で終わった。
そして明日は僕が来るまでに気が済むまでクレープを頬張るのだろう。
その明日が来ることが僕の望んだこと。
つまり、僕は勝ったということだ。
僕は、達成感の中で世界からログアウトしていった。
一章が書き上がったらまた会いましょう。




