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6.冷却

「やっと効いてきたか」


効いてきた……?

その声を聞いて身体の状態に目を向けると左手が痺れているのが異常として捉えられる。


──毒か!



ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい。

不味いなんてもんじゃない。

クソ、だから全く攻めてくるつもりがなかったんだ。


その言葉を聞く間にもどんどん脱力が強くなり、座っているのもキツくなってくる。


僕が倒れる前には冷却魔法を撃たなきゃいけない。

そして、冷却魔法は継続しなければ威力が足りない。


──今か?


丁度右手は人差し指を前にして地面についている。

その指の先には、水の感触が確かに感じられる。


──もう少し待つか?


まだ2人踏んでいない。

しかし、油断して2人とももう少しで踏みそうだ。


──待つ。


踏んだ瞬間だ。


お前たちは水がかかった石畳がどこかなんて気にしてないだろう。


だけど僕は覚えている。



──踏んだ。


「──」


全力を出そうと力を入れるが、脱力により声も出ない。


でも、出ない方が都合が良かった。


パキパキ、と音がする。

人が反応できる速度を超えて、水が凍結していく音がする。


音が聞こえた時には──


「凍った!?」「悪足掻きか」「……クッ……」


の足が凍っていた。



「──危ねえな」


よりにもよって、路地の手前を塞いでいるリーダーが直前で足を上げて避けていた。


「警戒して釣って正解だった」


やられた。


「お前はまだ何か狙ってる目をしていたからな」


隠せてなかったのか。


「その感じ、奥の手もこれで終わりだろ?」


その通りだ。

僕の用意した手は尽きた。

だけど認めない。

僕は諦めない。

次の手を探しながら冷却魔法を発動し続ける。


徐々に三人が足から凍っていくが、リーダーに届く様子はない。


……あのリーダーは僕が止まったとしても、それすら疑ってしばらく踏み込めないだろう。


それまでの時間を稼ぐことはできる。

できるが何にもならない。

これまで助けが来ていない時点で助けを期待はできない。

僕はエレミアを助けられないのか?


ついに魔力がなくなるが、僕は気にせず命を削って魔法を放つ。

放ちながらこの状況を打破する何かを生み出そうとし続ける。


体が燃え上がる熱を持ちながら崩れていくような奇妙な感覚の中で、僕は答えに辿りついた。




──一つだけ方法があるかもしれない。







──このゲームはリアルだ。

リアルの塊だ。

今のところゲーム的矛盾点を一切感じない。


ということは、この命はこのままだと永遠に失われるだろう。

NPCとしてではなく、この世界の人間として。

NPCの復活なんていうリアリティのない要素がこの世界に存在するなんて僕には思えない。


だから僕はそれを見過ごすことはできなかった。



でも、手段がない。


魔力がない。


限界はとうに超えている。


僕にはこれ以上何もない。




──それでも、諦めるわけにはいかない。

無い魔力を回せ、何かを起こせ。


僕にとってはここは遊戯だ。

でも、この世界にいる人たちは生きている。

だから、僕は死んででもエレミアを助けたい。

仮に僕も復活できない一度の命だったとしても、僕には帰れる現実がある。


冷却魔法さえ当てられれば。


ああ──あいつが避けられない規模の強大な冷却魔法さえあれば──



……ミグラントには世界から与えられたギフトがあるって言うなら。


なんでも持っていっていい。


だから。


──望んだ一つの魔法くらい撃たせてくれよ!





──『ギフト』を承認。








正直その後のことは覚えていない。


多分、僕は魔法を撃ったんだろう。


だって──こんなにも大きな氷の花が咲いているんだから。


視界を動かせば、花の中に黒が五つ。

最初の一人とあとの四人で、五つだ。


安心した。

僕のギフトは僕の願いを叶えたみたいだ。







──そう思った刹那。


路地の奥から、同じ服を着た人間がもう一人出てくるのが見えた。





──失敗した。


見えてなかった、分かってなかった、相手が慎重だった。


嗚呼、これは僕のミスだ。



重い体を動かそうとするが、全く動かない。

魔力はない、体力もない。

そしてもう、奇跡もない。


クソ──


詰んだ。

ギフトの使い方を間違えた?

他に何を願えば良かった?

この子の敵の死でも望めばよかったのだろうか。

でもそれは──僕にはできなかった。


だから仕方ないっていうのか?

諦めるのは無理だ。

でも体が動かない。

もう何もできない。


「──一応トドメを刺しておくか」


ぼやけた視界で、僕にナイフを突き出すその手を見ていることしかできなかった。

僕の次は、エレミアだろう。

エレミア、どうか僕が作ったこの隙に逃げていてくれ。



ナイフが僕の喉に向かって伸び──


「──ここまで、よく持ちこたえた」


それが白く綺麗な剣に阻まれたのを見て、僕の視界は暗転した。

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